「深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)完結篇⑮&読みたいことを、書けばいい。」(第241話)
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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
いなびたぶり? 深代ママの空耳では?
そんなはずないって。確かに聞こえたわ…
ねえ、岡江クンも聞こえたでしょ?「いなびたぶり」って…
・・・・・
うふふ…
いったい何の話なんですか、これは?
その者 青き上着をまといて…
金色の虎に降り立つべし…
は?
・・・・・
失われし大地との絆を結び…
ついに人々を 青き成蹊の地に導かん…
それ、どこかで聞いたことあるような…
「せいけい」じゃなくて「せいじょう」じゃなかった?
「上手いこと言った」みたいな顔しよってからに。
まだ続きがあるのじゃ。
ごめんなさい…
そして 我がパイは虎である…
名前はまだ無い…
わがぱい?「わがはい」じゃなくて?
どこで生れたか とんと見当がつかぬ…
何でも薄暗い じめじめした所で…
ニャーニャー泣いていた事だけは記憶している…
これもどこかで聞いたような…
我がパイは…
ここで始めて…
人間というものを見た…
・・・・・
いったい何なんですか、今のは?
もしや、今のは…
伝説の書…
よう知っとるな、おぬし。
伝説の書?
・・・・・
うふふ。
戯言はこれくらいにしといて。さあ『ジョゼと虎と魚たち』の続きを…
『ライフ・オブ・パイ』の真実を解き明かすんでしょ?
ええ…
それでは冒頭シーンの続きを見ていきましょう。
「強風と下肢」の次は「車と窓」について。
走る車の窓を開けて「橋と海が見える」と歓声をあげたジョゼに対し、恒夫は「窓を閉めろ」と言った。
ジョゼは、ハンドルを回すタイプの窓しか知らなかったので、ボタン1つで動く自動窓が嬉しくて、開けたり閉めたりする。
そんなジョゼを見て恒夫は「今はもっと便利な車がある」と言う…
ここ重要?
重要だ。
冒頭の「六甲おろし」に続いて「虎」の伏線になっている。
えっ? トラの?
「ハンドルを回すタイプの旧式車」とは、これのこと…
ハンドルを持って回しながら読む、旧約聖書の「モーセ五書」…
Torah(トーラー)だ…
トーラーって、こういう形をしてたの?
「モーセ五書」って言うくらいだから「本」だと思ってた…
正式なトーラーは巻物で、とても大きくて重たい。
非力な女性では、あのハンドルを回すのにとても難儀する。
それを田辺聖子は「車の窓のハンドル」に喩えて表現したんだ。
そう言えば、「聖書」は「車」に喩えられることが多かったですね…
ポール・サイモンの歌『Cars are Cars』もそう…
聖書を車の様々な部分に喩えて歌っていました…
その通り。
聖書は本来「移動」するものだったからね。
『Cars are Cars』が収録されているポール・サイモンのアルバム『HEARTS AND BONES』は、1983年の秋に発表された。
『ジョゼと虎と魚たち』は1984年に書かれているから、もしかしたら田辺聖子は、このアルバムを聴いていたかもしれない…
そして、恒夫の「管理人」と、クミの「ジョゼ」というニックネームの意味と由来が紹介される…
だけど「管理人」の本当の意味は「parker」つまり「エデンの園丁」…
そして「ジョゼ」は「サガンのジョゼ」じゃなくて「左岸の如是」…
つまり、ナザレのイエス…
海を渡る「管理人とジョゼ」のコンビは「リチャード・パーカーとパイ」によく似ている。
というか、明らかに影響を受けているよね。
そして次に語られるのは、ジョゼが自分を呼ぶ時の「アタイ」について…
これも「クミ」と「カミ」同様に簡単な「マッチ棒クイズ」だ。
「アタイ」は「マタイ」。
次はジョゼと恒夫の出会いの場面です…
「坂の上で背後から現れた謎の手」
「手に押されて坂道を滑り落ちる車椅子」
「車椅子を正面から止め、後ろに吹き飛ぶ恒夫」
「驚いて呼吸が止まりそうになるジョゼ」
これは「受胎告知」でしたね…
『受胎告知』フラ・アンジェリコ
そして次に描かれるのは、ジョゼの「父」の思い出。
甲子園に阪神タイガースの試合を観に行ったのよね。
そう。だけどその前に重要なことが語られる。
父との思い出は、まず最初に「言葉」を習うところから始まった。
あっ…『ヨハネによる福音書』の最初…
「初めに言があった。言は神と共にあった」だ…
「初めに言があった。言はクミと共にあった」ね。
そして「父」は、ジョゼに将棋を教える。
なぜ将棋?
「父」の有名なポーズが元ネタ。
あれはまさに将棋を指しているポーズだから(笑)
え?
これだよ。
システィーナ礼拝堂の壁画に描かれた「父」のポーズ…
『アダムの創造』ミケランジェロ
ああっ!確かに将棋を指してるように見える!
もう、そうとしか思えません…
その次に「父」は、ジョゼに野球の楽しみ方を教える。
それ以来、ジョゼは野球に心を奪われ、ラジオの野球中継を貪るように聴くようになった。
ジョゼはどうしても生で野球が見たくなり、父にねだって甲子園球場へ連れてってもらう。
大好きな阪神タイガースの試合に…
また「トラ」ね。
その日のピッチャーは「村山」だった。
そしてジョゼは、贔屓にしてたショート「吉田」も生で見ることができた。
村山(11)&吉田(23)
村山? 江夏じゃなくて?
「江夏」じゃダメなんだよ。ここは「村山」じゃないと。
どうして?
江夏は豊だから。
は?
田辺聖子は、村山の「実」が欲しかったんだよ。
みのる?
田辺聖子はずっと「トーラー」の話をしてるのよ。
まず「父」の言葉があって、それから「父」が右手の人差し指を突き出して…
モーセ五書の第一巻『創世記』ということですか?
そういうこと。
「実」といえば「エデンの園」だ。
『楽園のアダムとイブ』
ピーテル・パウル・ルーベンス
あっ、なるほど!
そして「吉田」といえば?
義人!
それじゃあ甲子園じゃなくて秩父宮だよ。
吉田は「義男」だ。
義の男といえばロト…
こちらも『創世記』の登場人物…
そして、小柄で身のこなしが華麗な吉田は「牛若丸」と呼ばれた…
つまり源氏の英雄、源義経…
その通りです。源氏の件は、また後程…
どうして? ムッシュの話をしてよ。
この話は、ちょっと長くなるからね。あとでゆっくりと解説する。
さて、父と行った甲子園の思い出について、ジョゼはこうも語った。
「後半で大雨が降った」と。
ノアの大洪水…
父はジョゼを背負い、上着を頭から被せてくれた…
だけどその記憶は、大人になってテレビで見た野球中継のもの…
にわか雨に降られた観客が、あわてて新聞紙を頭にのせる光景を、父との記憶と混同しているだけだった…
何だろう。ここ、妙に引っ掛かります…
確かに。既視感というか…
どこかでこんなシーンを見たような気がする…
だろうね。
田辺聖子は、この絵を説明しているだけだから。
ああっ!
「父」が「娘」を背負ってる!
しかも、頭から「上着」を被せて!
そして…
にわか雨にあわてて「新聞紙を頭の上にのせる」ポーズをしている人も…
絶句…
あのポーズ…
もう、そうとしか思えない…
だから田辺聖子は、ジョゼの記憶が「ごっちゃになってしまった」と書いたんだね。
ミケランジェロが両者をすぐそばに描いていたから。
父に背負われ、父の上着を頭から被せてもらった記憶と…
にわか雨にあわてて新聞紙を頭の上にのせた人の記憶を…
何というホラ吹き…
田辺聖子、おそるべし…
それでは次に…
・・・・・
どうしたの?
そうだったね。また大事なことを忘れるところだった。
は? 誰と喋ってるの?
あのトラだよ。
また僕の脳内に澪標をしてくれた。
みおつくし? またですか?
うふふ。
深読み探偵さんは、油断するとすぐに…
深読みの海で難破してしまうから…
ヒロノブさん… いや、トーリ…
あなたは、いったい…
つづく
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