「深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)完結篇⑱&読みたいことを、書けばいい。」(第244話)
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2020年 ✕月✕日
南の島
とある施設の中
パイのシンボル?
そう。おっぱいのシンボル。
ちょっと言ってることの意味がわからないわ…
もう少しわかりやすく教えてくれるかな?
じゃあ、紙と赤ペン貸して。書いてあげるから。
見れば一目瞭然!
うん。はいコレ…
おっぱいのシンボルってゆうのはね…
つまり、こういうこと…
ああ、なるほど。確かにこれは乳房だわ。
左右あって、ちゃんと乳首もある…
でしょ?
ぎゅうっと真ん中に寄せて、谷間をアピールしてるんだ。
「だっちゅ~の」って(笑)
だっちゅーの?
知らないの? 神のようなチチをもつパイレーツを。
神のようなチチをもつ海賊?
それはクミコと関係あるの?
クミコは神そのものだったでしょ。
パイレーツは神になることが出来なかったんだ。
なれなかった? なぜ?
パイレーツはね、神のようなチチをフル活用して時の人となり、栄華を極めたかのように思われた…
だけど、一ノ谷の戦いで敗れちゃったんだ。
いちのたにの戦い?
クミコとパイレーツによる、谷間No.1の座をめぐる戦いだよ。
それはもう、とんでもなくすごい谷間の戦いだった。
一番の谷間を争う戦い? そんな戦いがあったの?
ちょっとやそっとの谷間じゃ動じない剛の者たちも、思わず息を呑んだというね。
そして男たちは次々と、その谷間に吸い込まれていったんだ…
谷間に男たちが吸い込まれた?
まるで魂を奪われたかのように視線が釘付けになったってこと?
違うよ。本当に男たちが谷間に滑り落ちて行ったんだ。
ありえない…
誰もが「そんな馬鹿な」と驚いたらしい。
まさに歴史に残る谷間の戦いだ。
日本では教科書にもその谷間の絵が載ってるくらい有名なんだよね。
教科書に谷間の絵が?
変わった国なのね、日本って…
そして、その戦いを記念して作られたのが「源氏パイ」…
えっ?
「ゲンジパイ」の「パイ」は、おっぱいの「ぱい」だったの?
当たり前じゃんか!
他に何があるっちゅ~の(笑)
それじゃあ「ゲンジ」は?
「光」に決まってるじゃん。クミコは「光」だから。
光?
「ゲンジ」と言えば「光」。知らないの?
光…ゲンジ…?
何だか聞いたことあるかも…
ようこそここへ
あなたは今パラダイスにいます
胸のリンゴむいて
え?
大人は見えない しゃかりき
コロンブスは白ハト印の明石焼き
夢の島までは探せない
また「あかしやき」? 探せない夢の島?
この歌はいったい何?
飛鳥時代に流行った歌だよ。
あすかじだい?
厩(うまや)、つまり馬小屋で生まれた皇子が活躍した時代。
馬小屋で生まれた皇子?
SAY YES!
まったく何も知らないんだなあ(笑)
2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
『ライフ・オブ・パイ』と『ジョゼと虎と魚たち』に、まだ秘密が隠されていると?
どうやら、すべてを語らねばならないようだ…
それをトラは望んでいる…
「すべて」って?
まずは、九州の果ての多島海に浮かぶ島にある「海底水族館」について。
ちなみにこれは『ライフ・オブ・パイ』で何に置き換えられているかわかるよね?
南太平洋に浮かぶ謎の「食人島」と、そこにあった「海底のような泉」でしょ?
そのまんまじゃな、ヤン・マーテルめ。
Yann Martel
九州の果ての多島海に浮かぶ島にある海底水族館って…
やっぱり熊本県の天草にあった「天草海底自然水族館」のことじゃないんですか?
田辺聖子が描いたのと同じく、海底トンネルのような水族館だったらしいですし。
確かにここだと思わせるような描き方だけど違う。
途中の「橋と海」の描写が合っていないし、そもそも地名を伏せる必要がない。
熊本とか天草と書いても何の問題もないはずだ。劇中の他の場所、甲子園や広島は地名を出しているわけだし。
確かにそうですが...
しかし淡路島には「海底水族館」がありません。過去にもあった形跡がないんです。
それが「ある」んだよ。ちゃんと。
え?
そしてここには「不自由な足」の秘密も隠されている。
不自由な足の秘密?
『ジョゼと虎と魚たち』の主人公ジョゼことクミは、小児麻痺の影響で下肢に障害があった。
そして『ライフ・オブ・パイ』の主人公パイの父親も、小児麻痺の影響で片足が麻痺していた。
しかしパイの父親の障害は、物語において何の伏線にもなっておらず、なぜそういう設定なのか謎のまま終わる。
確かにそうだったわね。別に足が悪い必要は何もなかった…
おそらくこれは作者のヤン・マーテルが、作品の元ネタにした『ジョゼと虎と魚たち』の「足の障害」というモチーフを取り入れたかったからだと僕は思う。
「オマージュですよ」と、こっそりアピールしていたわけだ。
それはありえますね。他にこれといった理由が思い浮かびませんし。
では「島」と「海底水族館」を考察しよう。
自動車に乗った恒夫とジョゼは、本土と島をつなぐ「赤い橋」を渡った。
渡るのが難儀なくらい長く、目がくらむような高さで、とてつもなく威圧感のある「赤い橋」だ。
これは「明石海峡大橋」のことだった。
そして橋の先に見える「島」は、こんなふうに描写されている。
海にうかぶその島は、こんもりとした濃緑でおおわれている。南国らしい、油照りした、頑固なほど濃い緑の木々だった。そのため、島は一つの毬藻(まりも)のように見える。
淡路島は「マリモ」には見えないでしょ?
人型をした食人島と同じように細長いわ。
大阪・和歌山方面から見ればね。
だけど神戸・明石側から見れば、小さな「マリモ」の島のように見える。
『ライフ・オブ・パイ』の食人島だって、最初にパイは人型の「足元」に流れ着いたので、小さな島に見えた。
あっ、なるほど…
パイもジョゼも、細長い島の先端を見ていたというわけね…
ジョゼたちは「島」を四分の一周ほどしてホテルに到着した。
部屋は2階で、窓から海が一望できる眺めのいい場所だった。
食人島でのパイの「部屋」も、景色が一望できる木の上だったわね。
ちょうど2階くらいの高さ(笑)
そして、ジョゼたちの部屋から見える海の底には、海底トンネル形式の水族館があった。
だからパイの「部屋」からも、海底トンネルの中で泳ぐ魚たちが見えた。
そのまんま…
しかし、お言葉ですが、教官…
「淡路島の海底水族館」なんて、いくら検索しても出て来ません…
本当にあったのですか?
説明しよう。
まず田辺聖子は、『ジョゼと虎と魚たち』が書かれた1984年当時、まだ建設予定段階だった「明石海峡大橋」を登場させた…
ん?
明石海峡大橋って標準時子午線「東経135度」のすぐそばにあるの?
そう。橋の本州側は明石ではなく神戸市なんだけど、淡路島側はほぼ東経135度線上にある。
東経135度線は紀伊半島の田倉崎沖にある小さな島の上も通ってるんですね。
日本で標準時子午線が通るのは兵庫県だけかと思ってました。
そして、明石海峡大橋の建設計画が進行していた頃…
東経135度線上に浮かぶあの島を通って、和歌山県と淡路島をつなぐ計画も立てられていた…
それが「紀淡トンネル」計画…
景観を守るために「橋」ではなく「海底トンネル」でつなぐプロジェクトだ…
か、海底トンネル!?
あの海底水族館みたいじゃん!
そして、海底トンネルで淡路島と結ばれるはずだった場所は、4つの島からなる群島「友ヶ島」…
その四島の名は、沖ノ島、地ノ島、神島…
カミ島!?
そして…
虎島…
・・・・・
うふふ。今また「ありえる」って聞こえなかった?
そんな馬鹿な…
「神島」と「虎島」って、どういう意味なの?
なぜあんなところに「神と虎」が?
「虎島」の由来は、わからない…
だけど「神島」の方は、ハッキリとわかっている。
あの小さな島は、日本の創造神話に深く関わっている島なんだ。
創造神話に?
『古事記』と『日本書紀』で描かれる「国産み」には微妙な違いがあるんだけど、両者を総合すると、こんな流れになる…
まず、天の浮橋から伊弉諾神(イザナギ)と伊弉冉神(イザナミ)が矛で海をかき回し、小さな島オノゴロを作った。
そして二人はオノゴロに降り立ち、男女の営み、つまり性行為に励む。
元祖・新島ね…
にいじま?
あたしたちの時代はそうだったの。
で、最初に出来た子供が「淡路島」だったのよね。
「五体満足」で生まれた最初の子が淡路島だ。
実はその前に「2人」の神を産んでいる。
あっ、そうだった。
女主導で性行為を行ったから、不完全な子が生まれたんだったわ…
『創世記』において、アダムの「最初の妻」とも言われる「リリス」のようじゃな。
リリスは男性上位を拒み、魔性の女として楽園を追放されたという…
イザナミが最初に産んだ2人の神は、下肢に不具合があった。
三年たっても、立つことが出来なかったんだ。
本来なら「失敗作」として海に沈められるところだったけど、我が子を憐れに思ったイザナギとイザナミは、葦の小舟に乗せて海に流した。
遠いどこかで生きる場所を見つけてくれと…
平安期の歌人、大江朝綱の歌にもあるわね。
垂乳根は いかにあはれと 思ふらん
三年に成りぬ 足たたずして
小舟で海に流された二人の「足の立たない不完全な神」のひとりは、アハシマ(アワシマ)といった。
長い長い漂流の末、アハシマは友ヶ島群島に漂着する。
アハシマの異形の下肢を見た地元の海人たちは、それを「神の子の印(聖痕)」だと考え、この島を「神島」と名付けた。
そして神島にアハシマを祀る祠を立て、信仰の対象とした。
祠は後に仁徳天皇によって神島から和歌山の加太に移され、淡島神社の総本社となり今に至る…
あの「神島」は、足が不自由だった神の子が流れ着いた場所だったのね…
足が不自由だったジョゼの本名も「カミの子」をもじった「クミ子」…
これは偶然?
そして「神島」のすぐ近くに「虎島」が…
いったいなぜ?
きっと田辺聖子も、そこに着目したに違いない。
なぜアハシマを祀った「神島」の近くに「虎島」があるのか、と。
そして、ひとつの答えを導き出した…
え?
「虎島はヒルコや」とね…
ひるこ?
アハシマの前に生まれた一人目の「足の立たない不完全な神」である「ヒルコ」も、葦の小舟に乗せられ海に流された。
そして長い長い漂流を経て、摂津国の西宮の海岸、現在の兵庫県西宮市に流れ着いたんだ。
土地の人々は、小舟に横たわるヒルコの奇妙な下肢を見て、これを「神の子の印(聖痕)」と考え、「えびす大神」として西宮神社に祀る…
ちょっと待って。西宮って…
西宮といえば?
甲子園球場があるところ…
阪神タイガースの本拠地、そして高校野球の聖地、甲子園球場が…
その通り。
阪神タイガースの牛若丸こと吉田義男のファンだったジョゼは、子供の頃に父に背負われて甲子園球場へ行った。
歩いて行けるくらいだから、同じ西宮市内に住んでいたんだろう。
ちなみに西宮神社と甲子園球場は3㎞しか離れていない。
神島はアハシマ、そして虎島はヒルコ…
つまり「神島と虎島」は…
下肢に障害をもち、ひとりで立つことが出来なかったため、親に捨てられた「カミの子」である…
と、田辺聖子は妄想を膨らませたに違いない…
足に障害を持ち、親に捨てられたクミ子が、どうしても行きたいと願ったのも頷ける。
まさかこんな秘密が隠されていたとは…
ただ何となく足の不自由な主人公にしたわけじゃないのね…
そしてまた西宮市の市章が、アレなのよね…
あれ?
これが西宮市の市章。
ええっ!?
こ、これは…
確かにアレですね…
だけど何か気持ち悪いなあ…
わかった。下向きの三角形の辺が屈折してるからよ。
ホントだ…
それにしても、なぜこんな気持ち悪いデザインに?
きっとデザインした人が、ピンク・フロイドのアルバム『狂気』の熱狂的ファンだったんじゃない?
ロック好きのオヤジに多いのよね。このアルバムを神のように崇めてる人が…
残念ながら、そうじゃない。
あのデザインは駄洒落なんだ…
ダジャレ?
西宮市の市章は片仮名の「ヤ」という字を「三つ」組み合わせたもの…
「三つのヤ」で「ミヤ」なんだよ。
三つの「ヤ」?
YAH YAH YAH!
なつい(笑)
この頃の飛鳥はキレッキレだったわ。
『はじまりはいつも雨』『SAY YES』そして『YAH YAH YAH』は神曲三部作ね。
『僕はこの瞳で嘘をつく』も捨てがたい。
嘘つきはクリエーターのはじまりじゃ。
んもう。チャゲアスの話は関係ないでしょ!
それにしても…
フランス系カナダ人のヤン・マーテルが『ジョゼと虎と魚たち』を読み、そこに隠された日本の創造神話を読み取るなんていうことが有り得るのでしょうか?
ジョゼの下肢の麻痺が「国産み」と「海に流された神の子」から来ていると気付く、なんていうことが…
実は、もっと簡単に「ジョゼの下肢の麻痺」の理由がわかるシーンがあるんだ。
誰でも、特別な知識が無くても、それだと気付けるように書かれたシーンがね…
おそらくそのシーンを描きたいがために、田辺聖子はジョゼに車椅子生活をさせたはず…
ええっ?
つづく
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