「深読み INCEPTION(インセプション)④」(第202話)
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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
Q、E、D… モルに関しては証明終了じゃ。
はい。
それでは、再びエンゲルベルト・フンパーディンクの話に戻ります…
え? また?
ここまでは序章、ウォーミングアップみたいなもの…
まだ『インセプション』の核心部分には全く触れていないんだよね…
ここからが本番だ。
ここから、ですか!?
うふふ…
それでは、まず…
エンゲルベルト・フンパーディンクの「ワルツ」についてから話そうか…
クリストファー・ノーラン『インセプション』の元ネタになった、エンゲルベルト・フンパーディンクの「3つのワルツ」を…
3つのワルツ?
3つもあるの?『ラスト・ワルツ』だけじゃなくて?
もしかしたら、もっとあるかもしれない…
ただ、僕が確認できたのは3つ…
もっとあるかも?
なぜクリストファー・ノーランが、そこまでエンゲルベルト・フンパーディンクの歌にこだわる必要があるのですか?
いったい何の目的で?
それも後程ゆっくり解説する。
ホントに理由があるの?
もちろん。それがわかったから、こうして解説しているんだよ。
「トリックは見破ったけど、犯人の動機はわかりませんでした」じゃ、探偵失格でしょ?
(すごい自信だ… これが深読み探偵の本領…)
では、まずは1つ目のワルツ、『ラスト・ワルツ』から…
改めて曲をじっくり聴いてみてほしい…
Engelbert Humperdinck
『The Last Waltz』
最後のラストワルツが「ラララララ ラ…ラ…ラ…ラ...」と途中で終わってしまうのは…
『インセプション』のラストシーン「途中で止まるコマ」として再現されたのよね…
その通り。
だけど、それだけじゃないんだ。
え?
クリストファー・ノーランは『ラスト・ワルツ』の歌詞すべてを再現した。
しかも、見事なまでに、完璧な形で…
完璧な形?
1番の出だしで、ピンと来ない?
I wondered should I go or should I stay
The band had only one more song to play
GOすべきかSTAYすべきか思案していた
バンドにはもう1曲だけ演奏が残されている
あっ、これって…
もしかして、夢の最深部 LIMBO(リンボ:虚無)における最後のシーン?
タイムリミットが迫り、ドム・コブとアリアドネが「行くか?留まるか?」を話してたわよね…
そしてドムは「STAY」を選択した…
最期に流れるバンドの曲って、エディット・ピアフの曲のことかしら?
それもあるだろうけど、この「バンド」は「チーム」のことでもある…
ドム・コブ率いるチームには、もう1つ仕事が残されていた…
LIMBOに落ちてくるサイトーの救出…
いくらロバート・フィッシャーにインセプションが成功しても、依頼人であるサイトーがLIMBOから帰れなくなってしまったら意味がない…
そして、歌詞はこう続く…
And then I saw you out the corner of my eye
A little girl, alone and so shy
その後、僕は視界の隅に君を見た
淋し気で内気な少女
これはアリアドネのことね。
しかしなぜ「視界の隅」?
あのシーンでドムは、右後方にいるアリアドネに、真っ直ぐ視線を向けなかった…
包丁を持とうとするモルから目を離さないようにしながら、アリアドネを視界の隅で見て、言葉を交わしていたんだ…
視界の左端でモルを見ながら、右端でアリアドネを見るという高度な技…
ホントですか?
こんな感じでね…
確かに「視界の隅」っぽいですけど…
そしてサビだ。
I had the last waltz with you
Two lonely people together
I fell in love with you
The last waltz should last forever
さっきの「you」はアリアドネだったけど、サビの「you」はモルね。
「僕」が「fall in love」した相手だから。
モルとアリアドネ、どちらでもある。
「you」は「あなた」でも「あなたたち」でもあるから。
え? ドムはアリアドネに「fall in love」してないでしょ?
最初に言っておくのを忘れてしまったけど…
クリストファー・ノーランは、サビの「love」を「limbo」に置き換えた…
「fall in love」は「fall in limbo」だ…
「恋に落ちて」じゃなくて「リンボに落ちて」?
そう。
だから、こういうこと…
僕はYOUとラストワルツ
淋しい二人がトゥギャザー
僕はYOUとリンボへ落ちた
このラストワルツは続くはずフォーエバー
マジですか…
なんかジャニーさんとルー大柴が混ざってる…
そして2番。
But the love we had was going strong
Through the good and bad we get along
僕らの愛は強まっていったよね
いい時も悪い時も一緒に過ごしながら
これは、おそらく…
アリアドネが「キック」してLIMBOを脱出した後の、ドムとモルの別れのシーン…
最後の最後に、ドムの愛がモルに通じるのよね…
ドムは「赦し」を得て、長かった呪縛から解放される…
その通り。それがインセプション計画の本当の目的だったわけだ。
御曹司ロバートではなく、レオナルド・ディカプリオ演じるドム・コブが、真のターゲットだからね。
そして歌詞はこう続く。
And then the flame of love died in your eye
My heart was broke in two when you said goodbye
そして君の瞳から愛の炎が消えた
君が最期を告げた時
僕の胸は張り裂けんばかりだった
ドムの腕の中で息絶えるモル…
ドムの投影のモル、だけどね。
さて、ここまで見てきた歌詞は、『インセプション』の終盤シーンで、このように再現されている…
なんと…
やっぱり「視界の隅」でアリアドネを見てたわ…
完璧です…
ノーラン、グッジョブ!
あれ? そういえば、2番のサビは?
2番のサビは、次のシーンだ…
ドムがモルを看取った後のシーン…
ということは…
サイトー…
そういうこと。
I had the last waltz with you
Two lonely people together
I fell in love with you
The last waltz should last forever
僕はあなたとラストワルツをした
二人の孤独な人間がトゥギャザー
僕はあなたとLIMBOに落ちた
このラストワルツは永遠に続くはずだから
この「永遠に続くラストワルツ」とは…
夢の中では「永遠に回り続ける」とされる「コマ」のことですね…
その通り。
エンゲルベルト・フンパーディンクのミュージックビデオからインスパイアされたのだろう…
すごい…
やっぱり歌詞が完璧に再現されている…
Good job, Christopher Nolan!
最後にサイトーは、回るコマの横に置いてあった銃を取る…
その瞬間、LIMBOは終わるのよね。
そしてシドニー=ロサンゼルス便の機内で、ドムは目覚めるの…
あれはホントに突然でした。
この演出の流れは『ラスト・ワルツ』を忠実に再現したことによる…
2番のサビから間髪入れずにCメロが始まるんだよね…
It’s all over now, nothing left to say
今、すべてが終わった
言うことは、もう何もない
あっ…
だから誰も言葉を発しなかったんですね…
機内でも入国ゲートでも、見つめ合うだけで無言…
あの不思議な光景の原因が…
この曲の歌詞だったなんて…
そしてCメロの歌詞はこう続く。
Just my tears and the orchestra playing
La La La La La La La La La
La La La La La La La La La
残されたのは僕の涙だけ
そしてオーケストラの演奏
ん?
ドムは涙なんて流していませんでしたけど…
「tear」には「涙」の他に「引き裂かれたもの」という意味があるのよ…
だから、こういうこと…
残されたのは、僕の「引き裂かれたもの」だけ
あっ…
子供たちのことか…
オーケストラの演奏は?
Hans Zimmer(ハンス・ジマー)作曲のメイン・テーマ『TIME』のことだね。
ドムが目覚めた瞬間、オーケストラが盛大に奏で始めるんだ。
なるほど…
確かにセリフが一切無いシーンだったから、BGMが大きな音で流れてた気がする…
そして最後のサビね…
ちょっと待った。
え?
大事なところを飛ばしちゃいけない。
クリストファー・ノーランに怒られるよ…
え?
La La La La La La La La La
La La La La La La La La La
ラララ?
La La La の「La」は…
Los Angeles の「LA」…
うそ…
エンゲルベルト・フンパーディンクが「La La La 」のパートを歌う時…
なぜか画面にゲートのようなものが映る…
クリストファー・ノーランは、これを「LA国際空港の入国ゲート」として表現した…
そんな馬鹿な…
この歌を完璧に再現しようとしたクリストファー・ノーランの執念を甘く見ちゃいけない…
もしエンゲルベルト・フンパーディンクが「Na Na Na」と歌っていたら…
最期のシーンはナッシュビルになっていたかもしれないな…
「Pi Pi Pi」だったらピッツバーグ?
あまりそういうハミングは聞いたことないけど、たぶんそうなっただろう…
さて、それでは2番のサビからCメロにかけての再現具合を、実際の映像で確認してみようか…
完璧です…
オーケストラもバッチリ鳴り響いてました…
それでは最後のサビを確認しよう。
もちろん再現されたのは、ロサンゼルス郊外にある自宅でのシーン…
まず最初のフレーズから…
I had the last waltz with you
家に着いたドムは、まず…
リビングのテーブルでコマを回しました…
そして次のフレーズ…
Two lonely people together
そして、庭で遊んでいた娘のフィリッパと息子のジェームズが…
久しぶりに帰ってきた父ドムの姿を見て、大喜びしながら駆け寄って来てきました…
熱くトゥギャザーしたわよね…
そしてサビは、こう締めくくられる…
I fell in love with you
The last waltz should last forever
La La La La La La...La...La...La...
僕は愛する君たちと再会し…
永遠に続くと思われたラストワルツは終わりを迎える…
ラララララ ラ…ラ…ラ…ラ…
ん?なんか違くない?
「fell in love」は「fell in limbo」でしょ?
あっ、そうだった…
ということは、ここはまだLIMBOなのですか?
その通り。
夢は夢でも、ただの夢ではなかったんだ…
ここはまだLIMBOの続き…
娘フィリッパと息子ジェームズが設計したLIMBOの世界…
だから「崖の上のおうちを作ったよ!」だったのね…
ドムが冒頭で見たのは、幻覚ではなかった…
そういえば…
サイトーは銃に手を置きましたが、撃ったかどうかは分かりませんでした…
もし撃っていなければ、ドムはまだLIMBOの中だ…
だけど、夢の中で若返るって、ありなのかしら?
ドムとモルもLIMBOの中で年寄りになり、線路で自殺をして若返っていました…
あ、そうだったわね…
エンゲルベルト・フンパーディンクの第1のワルツ…
これにて証明終了…
次のワルツは何じゃ?
第2のワルツは…