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深読み 米津玄師の『さよーならまたいつか!(『虎に翼』主題歌)』第29話


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2024年3月中旬
東京都渋谷区神南
NHK放送センター



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情報解析センター




果たして『虎に翼』は人々の心を震わせるドラマになるだろうか。

それともそれが出来ずに失敗作となるのだろうか。

主題歌を提供することになった米津玄師はそこを心配していたと思われる。

これから毎日自分の歌が流れるドラマが低視聴率だったら悲しいからな。


そんなことまで心配して『JOKER』のオマージュを…

米津玄師、パねえな…


恐るべし、米津…


これで『JOKER(ジョーカー)』の件は片付いた。

あと気になった点は何かな?


あとは… 時間の流れです…

なぜ『さよーならまたいつか!』のミュージックビデオは、時間が進んだり戻ったりするのでしょう?



それは簡単なことだ。

「さよーなら」は別れの言葉じゃなくて、再び逢うまでの遠い約束だから。


それが「時間が進んだり戻ったりすること」の答えですか?

しかもそのフレーズ、どっかで聞いた覚えがあるような…


こんなことも知らんのか、呉羽…

神南恭一郎が口にしたのは、1981年にリリースされた『セーラー服と機関銃』の、あまりにも有名な出だしのフレーズだ…



また薬師丸ひろ子ですか?


射撃は快感だが、放った弾丸が戻って来たら、もっと快感かもしれん。



はい?


ちなみに原曲の来生たかお版では「さよーならは別れの言葉じゃなくて 再び逢うまでの遠い約束」の後の歌詞が異なる。

薬師丸ひろ子バージョンは「夢のいた場所に 未練残しても 心寒いだけさ」だが、来生たかおバージョンは「現在(いま)を嘆いても 胸を痛めても ほんの夢の途中」だ。



いったい何の話をしてるんですか?

俺が聞いてるのは『さよーならまたいつか!』のミュージックビデオがなぜ「時間が進んだり戻ったりするのか」ですけど…


だから言ってるではないか。

「さよーならは別れの言葉じゃなくて 再び逢うまでの遠い約束」は「私にはスタートだったの あなたにはゴールでも」と言い換えることが出来る。


私にはスタートだったの あなたにはゴールでも?

これもどこかで聞いたようなフレーズ…

何だったかな…


♫もうこれ以上 苦しめないよ 背中にそっと さよーなら♫

JAYWALK(J-WALK)の『何も言えなくて…夏』だ。

クリストファー・ノーランの大好きな歌。



は?

『何も言えなくて…夏』はクリストファー・ノーランの大好きな歌?


CHRISTOPHER NOLAN


そうだ。

あまりにも大好き過ぎて、この歌を基にして映画を作った。

それが『INTERSTELLAR(インターステラー)』だ。



『INTERSTELLAR』は『何も言えなくて…夏』を基にして作った?

そんな馬鹿な…


正確に言うと、映画『インターステラー』は、様々な「さよーなら」の歌から作られている。


『何も言えなくて…夏』以外にもあるってことですか?


例えば、この歌…

♫光る海に かすむ船は さよーならの汽笛 のこします♫


それはジブリ映画『コクリコ坂から』の主題歌…

手嶌葵の『さよならの夏』?



その通り。

クリストファー・ノーランは『さよならの夏』から『インターステラー』を作った。


信じられない…

あの世界的巨匠クリストファー・ノーランが日本の歌から映画を作ったなんて…


DON'T TRY TO UNDERSTAND IT, FEEL IT…

理解しようとするな。感じろ。


え?


この世界は「ありえない」ことで満ちあふれている。

モノゴトの真実、真理に近付きたいのなら、余計な先入観とか決めつけは捨てろと、最初に私は言ったはずだ。

君たちに行った最初のレクチャーで。


確かにそうですけど…

クリストファー・ノーランが日本の歌から映画を作ったなんて、にわかには信じがたい…


日本の芸術作品の中には欧米の作品を基にして作られたものが数多くある。

なぜその逆は「ありえない」と考えるのかね?

これも最初のレクチャーで君たちに伝えたはずだが。


はい… そうでした…


クリストファー・ノーランが日本の歌から『インターステラー』を作ったことを頭で理解しようとするな。

歌詞を感じろ。



確かに何だか『インターステラー』のことを歌っているような気がしてきた…


綺麗な指してたんだね 知らなかったよ
隣にいつもいたなんて 信じられないのさ


人類を救うために主人公クーパー(マシュー・マコノヒー)が宇宙へ旅立った時、娘のマーフ(ジェシカ・チャスティン)はまだ小さな子供だった。

その後の彼女の姿は宇宙船の小さなモニターに映る解像度の低いビデオ映像で少し見ただけ。

だから大人の女性になった彼女が「綺麗な指」をしていたことは、ブラックホールの中にある「時の部屋」に行くまで知らなかった。

彼女の部屋の本棚を挟んだ「隣」にあり、過去や未来のあらゆる時間にアクセスできる「時の部屋」に行くまで…



ああ…


こんなに素敵なレディが俺 待っててくれたのに
「どんな悩みでも打ち明けて」そう言ってくれたのに


クーパーは地球に代わる人類の新天地を見つけて帰って来るとマーフに約束して宇宙へ旅立った。

しかしクーパーは任務の途中で宇宙船の中に大量の冷凍受精卵があることを知り、計画の首謀者ブランド教授(マイケル・ケイン)の娘アメリア(アン・ハサウェイ)から「真実」を聞かされる。

この計画は「人類の新天地を見つけて地球へ戻って来ること(地球の人類を救うために移住させる)」ではなく「人類の新天地を見つけて新たな歴史を始めること(地球の人類を救わずに見捨てる)」だった。

マーフがそれをブランド教授から知らされたのは、父との別れから地球時間で約二十年後。

その間クーパーは、ひとりで背負うには重すぎる秘密をマーフにずっと隠し続け、苦悩していた…



マジか…


時がいつか 二人をまた 初めて会った
あの日のように 導くのなら
二人して生きることの 意味を諦めずに
語り合うこと 努めることを 誓うつもりさ


映画の冒頭、つまり物語上で「二人が初めて会った」場面。

幼い頃のマーフは、部屋の本棚から物が落ちたりするたびに、何かの気配を感じていた。

その時はポルターガイスト「死者の幽霊」だと思っていたが、実は本棚の隣の「時の部屋」にずっといた「娘を見捨てて死んだはずの父クーパー」だった。

クーパーはブラックホールへ落ち込む際に記録された「人類の救済に不可欠な鍵である重力波データ」をマーフに送ろうと考えるが、隣同士でも時空が異なる2つの空間「時の部屋」と「マーフの部屋」では音声や視覚による情報伝達は出来ない。

そこでクーパーは、2つの空間で唯一伝わる力「重力」を使って、情報を伝えようと様々なことを試した…



嘘だろ…


そして1番の最後…


「私にはスタートだったの あなたにはゴールでも」
涙うかべた 君の瞳に 何も言えなくて
まだ愛してたから


マーフが宇宙物理学を志し、重力波の謎を解き明かすことになった原点、スタート地点は、幼い頃に幽霊がいると思っていたあの「本棚のある部屋」だった。

そして、あの部屋と本棚を挟んで隣にあった「時の部屋」は、クーパーの長い長い旅の終点、ゴール地点だった。

その時空の異なる2つの空間で、たとえ言葉は伝えられなくても、「愛」は伝達可能なはずだとクーパーは信じた。

父に見捨てられ、父に嘘をつかれたと思い込み、悲しみの涙を流すマーフに、何らかの方法で「愛」を伝えることは出来るはずだと…



やべえ… ヤバすぎる…

歌詞のまんまだ…


驚くのはまだ早い。2番はもっとヤバいから。


もう二度と会わない方がいいと言われた日
やっと解った事があるんだ
気づくのが遅いけど


もう二度と会わない方がいい…

これは再会したマーフから言われた台詞…

親が子供の死を看取るのは良くないことだからと…


そしてマーフは最後に「あなたには行くところがある」と言った。

クーパーが「どこへ?」と聞くと、マーフは「アメリア・ブランドのところ」と答えた。

この言葉をマーフの口から聞いて、クーパーは自分の中で認めようとしなかった「あること」に気づく…



クーパーが最後に解った「あること」とは…


世界中の悩み一人で 背負ってたあの頃
俺の背中と話す君は 俺より辛かったのさ


父クーパーと一緒にNASAの秘密基地へ潜入し、ブランド教授とアメリア博士と出会って以来、マーフはアメリアを姉のように慕い、アメリアみたいな物理学者になりたいと憧れていた。

そして大学卒業後にNASAへ入り、父クーパーと共に宇宙へ旅立ったアメリアの代わりに、ブランド教授の右腕となっていた。

しかしブランド教授の死の間際、計画の真の目的(地球の人類を見捨てて、新天地で新たな人類史を始めること)を明かされ、衝撃を受ける。

そして、すべてを知っていた上で自分を騙し、最愛の父を奪ったアメリアを、マーフは強く憎んだ…


時がいつか 二人をまた 初めて会った
あの日のように 導くのなら
水のように 空気のように 意味を忘れずに
あたりまえの 愛などないと 心に刻もう


幼い頃からマーフは、父クーパーが自分のために再婚せず、自分のことを最も愛してくれていると思っていた…

実際クーパーの中にもそういう思いはあったし、そんなマーフの気持ちにも気づいていた…

だからクーパーは、最初に会った時から自分がアメリアに惹かれていることを、決して認めようとしなかった…

娘のために「立派な父」であろうという思いに縛られ、自分が「ひとりの男」であることを認めようとはしなかった…

だけど、ようやく再会できたマーフに「あなたには行くところがある」と言われて、すべての荷が下りた…

「偉大な父」という呪縛から解き放たれ、本来の姿である「ひとりの男」になる…

宇宙の果てでようやく見つけた「安定的な水と空気」のある惑星で、人類にとって新しいアダムとイヴになるために…



いいぞ、呉羽君。

ここまで来れば最後の部分もわかるだろう。


短い夏の 終わりを告げる
波の音しか聞こえない
もうこれ以上 苦しめないよ
背中にそっと「さよーなら」


「波の音しか聞こえない」の「波の音」は、他の情報伝達手段が無い中で唯一、腕時計の針を動かすことによって伝えられた「重力波」のこと…


その通りだ呉羽君。

だからクリストファー・ノーランは、あの腕時計を選んだのだよ。

あの Hamilton(ハミルトン)を…



別に腕時計のブランドはハミルトンじゃなくてもよくないですか?

ロレックスでもパテック・フィリップでもカルティエでもオメガでもセイコーでもカシオでも特に問題はないと思います。

普通なら重力つながりでGショックを選びそうですけど、おそらくハミルトンとタイアップが決まっていたんでしょう…


呉羽君、クリストファー・ノーランはタイアップありきで作品内に特定商品を出すような安っぽい映画監督ではないのだよ。


え?


「波の音しか聞こえない」腕時計は、ハミルトンでなければならない。

なぜなら「波の音」は「短い夏の終わりを告げる」とも歌われている。

つまり「夏の期間」を告げるものでもあると。


どういうことですか?


クリストファー・ノーランが選んだ腕時計は、ただのハミルトンではない。

あれはハミルトンの「KAHKI」なのだよ。



ハミルトンのカーキ…

あっ!

もしや「カーキ」と「夏期」の駄洒落…


その通りだ呉羽君。

クリストファー・ノーランは面白いだろう?



なんてこった…


ふふふ。

せっかくなので『インターステラー』と『さよならの夏』の関係も解説しようか。

もう一度よく歌詞を聞いて考えてみたまえ。



光る海に消える船は「さよーなら」の汽笛のこします…

何だかブラックホールの場面っぽい…



その通りだ呉羽君。

『コクリコ坂から』に登場する「古いホール」の名前は「カルチェラタン」…

だからクリストファー・ノーランは『インターステラー』に登場する「古いブラックホール」の名前を「ガルガンチュア」と名付けた。

寮歌『紺色のうねりが』は、まさにブラックホールを歌ったものだから。



古いホール、カルチェラタン…

古いブラックホール、ガルガンチュア…

紺色のうねりが呑み尽くす日が来ても、水平線に君は没するなかれ…

確かに似ている… というか、そのものだ…


Newton's third law. The only way humans have ever figured out of getting somewhere is to leave something behind…


ニュートンの第三法則…

前に進むには、何かを後ろに置いて行かなければならない…

つまり、人間の未来には、過去における「何らかの犠牲」が必要…


そして『さよーならの夏』はこう続く。

ゆるい坂を おりてゆけば
夏色の風に 逢えるかしら

この部分をクリストファー・ノーランは…


おい、マズいぞ呉羽…


え?


神南恭一郎がクリストファー・ノーランの話を始めたら大変なことになる…

宮崎駿とクリストファー・ノーランの話は、油断していると大変なことに…


あっ…

あの初日のように…


であるからして、クリストファー・ノーランは次の歌詞を…


そうだ…

夕方6時から始まって90分間の予定だった初日のレクチャーが終わったのは午前3時過ぎ…

神南恭一郎はクリストファー・ノーランの話を9時間以上も続けた…


あの日の再現だけは勘弁っすよ田木さん…

あの9時間にも及んだ『TENET テネット』完全解説の再現だけは…


私の愛 それはメロディー
高く 低く 歌うの

このメロディーというのは…


神南恭一郎にこの話をやめさせるんだ呉羽…

また徹夜になるぞ…


そんな田木さん…

やめさせろって言われても、どうやって…


私の愛 それはカモメ
高く 低く 飛ぶの

そしてこのカモメというのは…


あの… すいません…


夕日の中 呼んでみたら
やさしいあなたに 逢えるかしら

この部分は言うまでもなくもちろん…


あの… 教官…


散歩道に揺れる木々は
さよーならの影を落とします

この散歩道をクリストファー・ノーランは…


駄目です田木さん…

まるで聞く耳を持っちゃくれません…


これはもう手遅れかもしれん…

自分だけの世界に… ゾーンに入ってしまっている…


きのうの愛 それは涙
やがて渇き消えるの
あしたの愛 それはルフラン
終わりの無い言葉

過去と未来の愛…

つまりこのリフレインするという「終わりの無い言葉」とは…


そんな… あの日の再現だなんて…

確かに衝撃的な内容でしたが…

またあのような大長編の講釈を聞かされると思うと…


私だってあの日のことは忘れたくても忘れられない…

あれは3年半前… 2020年の10月のことだった…



つづく




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