「深読み INCEPTION(インセプション)③」(第201話)
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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
それでは同じように検証してみようか。
パリのシーン同様に、ロサンゼルスのシーンも明らかに不自然な描写だらけだから。
そしてその後に、モルが現実世界で生きていることを検証するとしよう。
それも検証できるのですか?
もちろん。でなきゃ、こんな話は始めないよ。
僕にはすべてが見えたんだ。あそこで…
超深読み領域…
ゾーン、で…
ええ。
・・・・・
それではラストシーンを見てみよう。
LIMBO(虚無)に取り残されていたドム・コブとサイトーが夢から覚め、ロサンゼルス到着直前の機内で目覚めるところから…
うーん…
何だろう、この違和感…
確かにモヤモヤするわ…
空港に到着したドム・コブに対してマイルス教授が言った言葉は2つだけ…
「Welcome」と「This way」のみです…
それも変よね。
ようやく帰って来れたのに、「よく来た」と「こっち」だけって…
やっぱりまだ本当のゴール、現実世界ではないから…
そういえば、マイルス教授の前で「FISCHER」と書かれた紙を持っていた男が居たわよね?
居たね。
あれも変じゃない?
ロバート・フィッシャーはエネルギー産業の世界シェア半分を占める超巨大コンツェルンを受け継いだ男よ?
おそらく総資産は数兆円レベルで、世界でも指折りの大富豪のはず…
そんな超スーパーセレブの迎えが、あんなんでいいの?
確かにそんなこと絶対にありえませんね…
というか、そもそも秘書やSPもつけずに単身で長距離移動しないでしょう…
あと…
どうしてロバートは、荷物受け取り場でドムの顔を見て「なぜ彼は僕のことを見てるんだろう?」みたいな表情をしたのかしら?
あれも変ですよね…
機内で失くしたパスポートを拾ってもらい、乾杯までした相手なのに…
まさか寝てしまった以前のことを覚えてないんでしょうか?
そういえば、なぜロバートはサイトーに気付かなかったの?
同じファーストクラスに乗ってて、しかも向かいの席だったのに…
これってビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズが、偶然、同じ飛行機で向かいの席だった、みたいなレベルでしょ?
トヨタの豊田社長と日産ルノーのカルロス・ゴーンが、たまたま同じファーストクラスに居合わせた、みたいな…
世界のエネルギー産業を牛耳る2人が、シドニー=ロサンゼルス便に偶然乗り合わせることなんて、ほとんどゼロに等しい確率でしょう…
絶対に警戒心を抱くはず…
ロバートは、ライバル企業による情報抜き取りを防ぐためのトレーニングまで受けていたのに…
ありえないわよね…
こんな間近にいたのに、気付かないなんて…
ラストシーンは、不思議なことだらけ(笑)
この一連の不自然な描写を説明できる考えは1つだけしかない…
主人公ドムは、まだ夢の中にいる…
機内も、空港内も、自宅も、ぜんぶ夢の世界…
やっぱりマイルス教授が設計した夢なのか…
いや。ここはモル…
もしくは、子供たちかもしれない…
子供たち?
家に帰ってきたドムは、娘のフィリッパと息子ジェームズと再会し、抱き合った…
その時、こんな会話が交わされる…
JAMES : Look what we are building !
DOM : What are you building ?
JAMES : We're building a house on a cliff !
DOM : A house on a cliff ?
PHILLIPA : Come on ! Let's go !
ジェームズ「見て!僕たちが作ったんだ!」
ドム「何を作ったの?」
ジェームズ「崖の上のおうちだよ!」
ドム「崖の上のおうち?」
フィリッパ「んもう!ボケっとしてないで!」
そういえば…
子供たちが作る「崖の上のおうち」って、映画の冒頭シーンに出てきましたよね…
そう。
つまり、この映画に登場する全ての「a house on the cliff」は…
子供たちが作ったものという可能性がある…
え?
LIMBO(虚無)やロサンゼルスにあるドム・コブの家、サイトーの城、そして雪山の要塞…
これら全部が、子供たちの作った「崖の上のおうち」が投影されたものってこと?
ありえない。まだあんなに小さいのよ…
ジェームズとフィリッパは、サラブレッドだ…
は?
父ドムと母モルは、GIFTED(ギフテッド)だった…
そんな両親の血を受け継いでいる二人だから、幼い頃からトンデモナイ能力の片鱗を見せてもおかしくない…
マイルス教授にとっては、最高の「教え子」といえるだろう…
超能力者や超人レベルってことですか?
そういえば、あの再会シーンのマイルス教授…
ニヤニヤしながら別の部屋に入っていったわよね…
つまり、そういうことなの?
もう、そうとしか思えないでしょ。
あそこまで再現されたら(笑)
再現?
あの冒頭シーンとラストシーンは…
この映画の元ネタになった作品へのオマージュ…
え?
『インセプション』には、元ネタというか、原型になった作品がある…
その作品の冒頭シーンとラストシーンを、クリストファー・ノーランは踏襲しているんだ…
だから100万% 間違いない…
何なの? その作品って?
それは後程ゆっくりと…
まずは、死んだと思われている妻モルが、実際は「生きている」ということを検証しよう。
そもそも、そんなこと可能なのでしょうか?
すべてが夢の中で、現実世界が一切描かれていないというのに…
どうやって手掛りを探せば…
手掛りは「ワルツ」だよ。
ワルツ?
最初に言ったよね?
クリストファー・ノーランの作品は「ワルツ」が重要な鍵を握っていると。
エンゲルベルト・フンパーディンクの『ラスト・ワルツ』のことですか?
他にもあるんだ。
たとえば、これ…
は?
『ルパン三世 カリオストロの城』の主題歌『炎のたからもの』?
ワルツでしょ?
確かに四分の三拍子ですが…
でも、ちょっと待って…
この歌詞…
まるで、ずっと夢の世界を彷徨っている夫ドムを、救ってあげたいと願う妻モルの歌みたいだよね。
しかも「流れ星は あなたのことね」だし(笑)
どういうことですか?
主人公ドムを演じているのは誰?
レオナルド・ディカプリオです。
「Leonardo」は「ライオン」という意味…
つまり「獅子座」ね…
あっ!しし座流星群!
そして「DiCaprio」は「ヤギ」という意味…
つまり「山羊座」…
やぎ座流星群…
だけど「流れ星」である「あなた」の名前は「レオナルド・ディカプリオ」じゃないわ…
「ドム・コブ」でしょ?
その通り。
だからクリストファー・ノーランは、レオナルド・ディカプリオ演じる主人公に「ドム」という名前をつけたんだ。
『炎のたからもの』の歌詞「流れ星は あなたのことね」を再現するために。
ドムが流れ星?
黒い三連星ってこと?
そうじゃない。
「人工流れ星」のことだよ。
人工流れ星?
古くなった人工衛星や宇宙ゴミを「流れ星」として大気圏に突入させるシステム…
宇宙開発事業の世界で言うところの De-Orbit Mechanism…
通称を「DOM」という…
なにこれ…
だから『インセプション』では『カリオストロの城』のネタがたくさん使われていたんだよ。
前に解説したよね?
そして『カリオストロの城』は…
『インセプション』の原型になった作品とも、よく似てる…
え?
そうなんだよね…
制作された時期がほぼ同じだし、両者には何の接点もないから、これは偶然だと思うんだけど…
ど、どういうことですか?
まあ、これについても後程たっぷり解説する。
今は「ワルツ」の話だ。モルの秘密に関する「ワルツ」の話…
それはどんなワルツなの?
このワルツだよ…
グッドナイト・アイリーン?
そう。日本では『おやすみアイリーン』とも呼ばれる。
あの動画でも紹介されているとおり、Leadbelly(レッドベリー)ことハディ・ウィリアム・レッドベターによって有名になった歌で、アメリカ中で多くのミュージシャンにカバーされた。
そういえば、この歌詞…
『インセプション』っぽいかも…
「ぽい」じゃなくて「そのもの」なんだよね。
Irene goodnight, Irene goodnight
Goodnight, Irene, goodnight, Irene
I'll see you in my dreams
おやすみアイリーン
僕は夢の中で君と会う
そのまんまだわ…
ちなみに、レッドベリーの古い別バージョンでは、サビが「I guess you're in my dreams」と歌われるものもある。
君は僕の夢の中にいるのかな
さらに「そのまんま」です…
サビ以外も「そのまんま」だよ。
Last Saturday night I got married
Me and my wife settled down
Now me and my wife are parted
I'm gonna take another stroll downtown
土曜の夜に結婚した
僕と妻はある場所に落ち着いた
だけど今、僕らは離れ離れに
僕は街の中を彷徨っている
これは…
モルが「自殺した」とされる、結婚記念日の夜のことね…
ふたりはホテルの部屋を予約して、一緒に過ごす予定だった…
だけどモルは「現実世界に戻るため」にホテルから飛び降り、「一緒に行こう」と言われたドムは後を追って飛び降りることなく、夜の街に逃走…
そして次の歌詞も…
Sometimes I live in the country
Sometimes I live in town
Sometimes I haves a great notion
Jumping in, into the river and drown
時々、田舎に住んで
時々、都会に住んで
時々、ある考えに憑りつかれる
飛び降りて、川で溺れ死ぬと
こ、これは…
ロサンゼルス郊外にある田舎の家と…
LIMBO(虚無)の世界に作った大都会の家…
Jump in(落下)は、夢から覚めるための「キック」…
虚無から帰って来なかったドムは、川の中で溺れ死んだかと思われた…
本当に「そのまんま」だよね。
ちなみに、この部分には「飛び降り」の他に、こういうバージョンもある。
I love Irene, God knows I do
I'll love her 'til the seas run dry
But if Irene should turn me down
I'd take morphine and die
愛してるよアイリーン、神に誓って
たとえ海が干上がったとしても僕は君を愛し続ける
だけどもし君が僕を裏切るようなことがあったら
僕はモルヒネを飲んで死んでやる
モルヒネって…
「モルヒネ」とは、1804年、ドイツの薬剤師フリードリヒ・ゼルチュルナーが、史上初めて薬用植物からの分離に成功した鎮静催眠薬…
名前の由来は、この薬が「夢のように痛みを取り除いてくれる」ということから、ギリシア神話に登場する夢の神モルペウス (Morpheus)にちなんでモルフィウム (morphium) と名づけられたことによる…
ユスフの鎮静催眠薬じゃん…
そして最後の部分の歌詞は、こうだ。
Stop ramblin' and stop gamblin'
Quit staying out late at night
Go home to your wife and family
Stay there by the fireside bright
放浪の旅は、もう終わらせて
危険な賭けは、もうしないで
夜に出歩くのは、もうやめて
奥さんと家族のいる家に帰るんだ
暖かい暖炉のそばで待っているよ
つまり、ドムの妻モルは…
本当の現実世界の家で、子供たちやマイルス教授と待っている…
そういうことだね。
ちなみに、歌詞が全然違うバージョンもあるんだ。
ピート・シーガーの歌でどうぞ…
違う箇所は、ここね…
I asked your mother for you
She told me you was too young
I wish to God I'd never seen your face
I'm sorry you ever was born
僕は君のことについて
君のお母さんに話を聴いて欲しかった
だけど彼女は僕の訴えを却下した
僕は神様にお願いした
あなたの顔など二度と見たくない
生まれて、すみません
さて、この部分はどのシーンか分かるかな?
ドムが東京からロサンゼルスに電話した時のシーン…
ドムは子供たちに、おばあちゃん、つまりモルの母親に代わってくれと言った…
でもモルの母は「娘の死はドムのせい」と信じていたから、電話に出てくれませんでした…
そして、おばあちゃんの顔を一度も見ることはなかった…
ラストシーンでロサンゼルスの家に帰った時も、おばあちゃんは居なかったわ…
神様にお願いしてしまったからね。二度と顔を見たくないと。
そして、こんな歌詞も…
You caused me to weep, you caused me to mourn
You caused me to leave my home
But the very last words I heard her say
Was please sing me one more song
君のせいで僕は悲しみに暮れる
君のせいで僕は喪に服す
君のせいで僕は家に帰れない
だけど彼女の最期の言葉…
僕は確かに聞いたんだ
「どうか私のためにもう1曲歌って」
これも「そのまんま」です…
しかも、彼女の最期の言葉って…
本当の現実世界に戻ってくるための合図の歌…
エディット・ピアフの『Non Je ne Regrette Rien(私は後悔していない)』のことだわ…
ちなみにモル役のマリオン・コティヤールは、映画『La Môme(エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜)』で、この曲を口パクで歌っていた…
やっぱりモルは生きている…
家族と共に、ドムの帰りを待っている…
だね。
ちなみに『Goodnight Irene』には続編がある。
続編?
アンサーソングともいえる『Wake up Irene(起きてよアイリーン)』という曲があるんだ。
こちらも興味深いから、ついでに紹介しておこう…
こ、これは…
クリストファー・ノーランは、こちらの曲からもインスピレーションを得ているよね。
だって、こんな歌詞だから…
She stayed awake while steel guitars were a going
In every honky-tonk she could be seen
彼女は起きていた
金属製ギターが奏でられている間は
すべてのドタバタを彼女は見ていたんだ
steel guitars(金属製ギター) が steel spinning top(金属製のコマ)に置き換えられている…
そして、サビは…
But she finally went to bed and covered up her head
And now there's not a thing can wake Irene
Wake up Irene you've sleep to long
Wake up Irene it's time to move along
Wake up Irene and pay for your bed
Wake up Irene or folks will think your dead
ついに彼女はベッドに入り、布団を頭にかぶった
もうアイリーンを起こすのは至難の業
起きてよアイリーン、君は長く寝過ぎている
起きてよアイリーン、そこをどく時間だ
起きてよアイリーン、君はツケを払わなければいけない
起きてよアイリーン、でないと…
みんな、君が死んだと思っちゃうよ
なにこれ…
映画を観た人は皆、モルは死んでいると思っていた…
だけどモルは生きている…
現実世界で、死んだように寝てるだけ…
マジですか…
間違いないね。
クリストファー・ノーランは『Goodnight Irene』と『Wake up Irene』の歌詞からストーリーを膨らませた。
だからモルは生きている。死んだと思われたアイリーンが、ただ寝ていただけだったように…
Q、E、D… モルに関しては証明終了じゃ。
はい。
それでは、再びエンゲルベルト・フンパーディンクの話に戻ります…
え? また?
ここまでは序章、ウォーミングアップみたいなもの…
まだ核心部分には全く触れていないんだよね…
ここからが本番だ。
ここから、ですか!?
うふふ…