「深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)完結篇⑨&読みたいことを、書けばいい。」(第235話)
前回はコチラ
2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
ここからが重要だ。
『ライフ・オブ・パイ』と『ジョゼと虎と魚たち』と「松田聖子」の関係…
長い旅の果てに辿り着いた地が「メキシコ」だった理由…
円周率を意味する「パイ」という名前の本当の意味…
すべての謎を解き明かす鍵は『カリブ 愛のシンフォニー』と「澪つくし」に隠されていた…
その答えは「明石焼き」の中にあったんだ…
明石焼きの中に? どういうことなのですか?
答えは「タコ」ってこと?
タコというより… クミコだね…
くみこ?
伝説のクミコじゃ…
神のチチをもつ伝説のクミコ…
何ですか、それ?
うふふ(笑)
・・・・・
それでは『カリブ 愛のシンフォニー』を解説する前に、ここまでの流れをまとめておこう。
1962年、福岡県久留米市でひとりの女の子が生まれた…
そして「法子」と名付けられる…
1962年はトラ年…
「福岡」とは「福音の丘」で…
「久留米」とは「クルス」つまり十字架…
そして「寅年の法子」とは「律法の子」…
つまり「トーラーの子」という意味だった…
フランス系カトリック修道会の学校へ進学した法子は、キリスト教研究部に入り、日々キリストについて考え、暗唱できるようになるまで聖書を読みこんだ…
なぜなら、学園の代表「女神」に選ばれ、大勢の人の前で聖書を朗読したかったから…
そんな法子には、キリスト以外にも、もうひとりのアイドルがいた…
当時「新御三家」と呼ばれ大人気だった 郷ひろみ…
法子は郷ひろみに夢中になり、コンサートに足繁く通う…
旧約聖書に登場する、古い時代の神の名は ELOHIM(エロヒム)…
そのアルファベットを並べ替えると HILOME(ヒロミー)…
そして1979年、法子は芸能事務所にスカウトされ、アイドル「松田聖子」になった…
1980年の春に『裸足の季節』でレコードデビューすると、その年の暮れにはレコード大賞の新人賞を受賞…
紅白歌合戦にも出場し、一躍トップ・アイドルの座に就くことになる…
そして、ずっと憧れていた郷ひろみと急接近…
秘密裏に交際が始まった…
1981年、初の主演映画『野菊の墓』が公開…
1983年には、主演映画第2弾『プルメリアの伝説 天国のキッス』が公開される…
この両作品は、田辺聖子の『ジョゼと虎と魚たち』に大きな影響を与えた…
そしてそれがヤン・マーテルの『Life of Pi(ライフ・オブ・パイ)』につながる…
その通り。
田辺聖子は、1984年の春あたりまでの聖子伝説をもとにして、短編小説『ジョゼと虎と魚たち』を書いた。
日本中の誰もが「松田聖子と郷ひろみはこのまま一緒になるんだろうな」と考えていた頃に。
『ジョゼと虎と魚たち』は、1984年6月に月刊カドカワにて発表される。
その一か月後の1984年7月、松田聖子主演映画第3弾『夏服のイヴ』が公開…
そして、青天の霹靂ともいえる出来事が起こる…
松田聖子本人による、突然の破局会見…
その会見では、後世に残る名言が彼女自身の口から発せられた…
その言葉を聞いて、田辺聖子は椅子から転げ落ちるくらいの衝撃を受けたはず…
「生まれ変わったら一緒になろうね、と話し合いました」
「法の子」が「聖なる子」になっても、まだ人の子…
神とは一緒になれない…
出来過ぎです…
すべては誰かの計画、誰かがシナリオを書いたとしか思えない…
しかし驚愕のドラマは、まだ終わりではなかった…
聖子伝説には、とんでもないオチが待っていたんだ…
破局会見から3ヶ月後、主演映画第4弾『カリブ 愛のシンフォニー』が公開…
そしてすぐに、相手役を務めた俳優との婚約が発表される…
その男の名は…
神田正輝…
あっ…
神だ… 正に輝く…
こうして「蒲池法子」というひとりの女性は、アイドル「松田聖子」であると同時に「神田法子」になった…
「聖なる子」であると同時に「神の子」でもある存在に…
なんてことなの…
「事実は小説より奇なり」という言葉があるけど…
奇どころの騒ぎじゃない…
田辺聖子も心の中で「やられた!」と叫んだはず…
なぜなら田辺聖子は…
『ジョゼと虎と魚たち』のヒロインの本名を「クミ子」にしていたから…
え? どういうこと?
マッチ棒クイズだよ。
マッチ棒クイズ?
何本かのマッチで作られた文字を、少しだけ移動させることで、別の意味に変えるパズルのことですか?
その通り。
「クミ子」とは「カミ子」のことなんだ。
カミ子… つまり「神の子」…
せっかく田辺聖子は創作の中で遠回しに表現したというのに…
現実世界では当の本人が、誰の目にも明らかな形で「成就」させてしまった…
まるで嘘みたいな話を、リアルに実現させてしまったんだ…
ありえない…
それが聖子伝説じゃ…
それでは『カリブ 愛のシンフォニー』について解説するとしよう。
『ライフ・オブ・パイ』に決定的な影響を与えた映画…
予告編のほんの一部分だけど、まずは映像を見て欲しい…
神田正輝が松田聖子に言う台詞「待っていたんだね。伝説の王女みたいに」って、どういう意味ですか?
「待っていたんだね。イエス・キリストみたいに」という意味だよ。
は? 伝説の王女はイエス・キリスト?
劇中で「愛に身を尽くした伝説の王女の物語」が語られるんだけど、それはイエス・キリストの物語そのものなんだ。
これまで松田聖子は3つの主演映画でイエス・キリストが投影されたキャラクターを演じ続けてきたでしょ?
「聖子伝説」を完成させるために、『カリブ 愛のシンフォニー』も当然そういう構成になっている。
それでは神田正輝の役は誰が投影されたキャラなのですか?
あの再会シーンは、ラストシーンのもの…
場所は、メキシコの首都メキシコシティにある、ローマのコロセウムを髣髴させる闘牛場…
男は、東部のカンクンから約2000㎞の長旅をして、ここへ辿り着いた…
そして通路を歩いていると、女が向こう側から歩いてくる…
二人は奇跡的に再会し、その直後に男は死んでしまう…
ええっ? せっかく再会したというのに死んでしまうのですか?
しかも男の方だけ?
すべて忠実に再現されているんだよ。元ネタに。
元ネタ? 神田正輝は誰なんだろう…
映画のストーリーを見ていけば、すぐにわかること。
まず冒頭は、松田聖子演じるヒロイン沢木彩が、海を渡り、メキシコシティの空港へ降り立つところから始まる。
彩の目的は2つ。
まず1つは…
少女時代に別れ、メキシコで姿を消した父 省吾が、どんな父親だったのかを確かめること…
少女時代に別れ、メキシコで姿を消した父って…
少年時代に別れ、メキシコの森の中へ姿を消したトラのリチャード・パーカー…
つまりパイの父じゃん…
そして、もう1つが…
彩がずっと文通を続けていた人物と会うこと…
手紙を通じ、悩める彩の心の支えになってくれていた、国際的ファッションデザイナー最首(さいしゅ)と会うことだ。
「最首」とは、ずいぶんと変わった名前ですね。
何だかアヤシイ気がします…
「最首」は「さいしゅ」じゃなくて「もーしゅ」ね。
もーしゅ?
モーセのことだよ。
彩の心の支えになっていた最首の手紙とは「モーセ五書」のことだ。
ええっ!?
最首は、メキシコで姿を消した彩の父 省吾から、いろいろ話を聴いていた。
後のシーンで最首はこんなことを彩に語る。
自分は、省吾から彩の存在を聞いていた。二人が親子であることを知っていたと…
そして自分は、その事実を踏まえて手紙を書いていたんだと…
つまり君の支えになっていたあの手紙は、そのまま父と子の物語であると…
これって『ヨハネによる福音書』でイエスが語ったことじゃん…
「モーセは、父と私のことを書いた」
モーセ五書とは、そのまま父と子の物語であると…
パイのお父さんも言ってましたね。
「これは父と子の話なんだ!」って…
さて、彩はメキシコシティの空港に着くが、迎えに来ているはずの人物の姿がない。
その人物とは、最首の若い友人である日系三世の建築家ミツアキ・フカヤ。演じるのは神田正輝だ。
スペイン語の話せない彩は途方に暮れる…
すると、ひとりの男が話しかけてきた。その男は日本の新聞社のメキシコ支局の若い記者 松永で、ちょうどホテルが1部屋あいているからと彩を連れて行く。
そして2人はホテルへ向かった。そのホテルの名は「カミノレアル」…
神の現実?
スペイン語で「Camino Real」は「王の道」ですね。
ホテルに荷物を置いた彩は、タクシーに乗って最首の家に向かう。
しかし最首はニューヨークへ海外出張中だった。
モーセだけに。
彩は家政婦のスペイン人女性に何とか事情を説明しようとするが、言葉の壁があり話が通じない。
家政婦が何を言ってるのかわからないのでイライラしてきた彩は、こんなことを言う。もちろん日本語で。
「そんなふうにベラベラ喋られても、何言ってるのか全然わかんない!」
逆ギレですか…
消息不明の父を探すという重大な旅なのにスペイン語を勉強してこなかった自分が悪いのに…
彩は悪くない。日本語とスペイン語の会話で噛み合わないことが重要なの。
は?
すると家政婦はこう答えた。もちろんスペイン語で。
「私の名前はベラベラじゃない!ベラよ!」
ちょ、ちょっと待ってください…
何ですか、この滑りまくりのダジャレは…
しかも両者が互いに意味の分からない日本語とスペイン語で話すんですよね?
いくらアイドル映画とはいえ、これはひどい…
ただの安っぽいコントだわ…
そうじゃないんだよ。これはちゃんと意味のある会話なんだ。
完璧に計算し尽くされたセリフなんだよね…
これのどこが?
松田聖子演じる彩とスペイン人家政婦ベラによる、一連の噛み合わない会話は…
『Acts of the Apostles』、つまり『使徒言行録(使徒行伝)』の再現になっているんだ。
使徒言行録? 福音書の「続編」のこと?
その通り。
『ヨハネによる福音書』の次の書であり、『ルカによる福音書』の続編になっている書『使徒行伝』…
実は『カリブ 愛のシンフォニー』という物語は、それを現代劇に置き換えたもの…
舞台をメキシコに移して…
『使徒行伝』の再現?
日本語とスペイン語、つまり異国の言葉でベラベラ話すとは…
『使徒行伝』第2章で描かれる「ペンテコステの奇跡」のことよ…
2:4
すると、一同は聖霊に満たされ、御霊が語らせるままに、いろいろの他国の言葉で語り出した。
あっ…
そして「ベラベラじゃない!私はベラよ!」は、第3章に登場する「美しの門」のこと。
スペイン語の「Bella」は「美しい」という意味だから。
すべりまくりのギャグじゃなかったんですね…
あの会話だけで『使徒行伝』の第2章と第3章を表していたとは…
すごい…
本当に凄いのは、ここからだ。
最首に会えずガッカリした彩は、街角のオープンカフェに入る。
席につくと、店員に向かって「オレンジジュース」を注文した…
こんなふうに(笑)
そして彩は、空港で待っているという約束をすっぽかし、自分を見捨てた人物について考える。
つまり神田正輝演じるミツアキのことだね。
そして、こう結論づけるんだ…
「もしかしたら私を出迎えるはずだった人は、人間でなくて時間の分からない馬や牛だったのかもしれないわ」
は?
うふふ。聖子ちゃん最高(笑)
これのどこが面白いんですか?
1980年代は、こういうセンスがウケたんですか?
違うよ。
ここで相手役の「正体」について、さりげなくヒントを出しているんだ。
相手役の正体?ヒント?
相手役の彼は、もちろん人間で、名前はミツアキなんだけど…
同時に「ウマやウシ」でもあるんだよね。
全然意味わかんない。どういうこと?
「ウマやウシ」とは「イワやイシ」の駄洒落。
岩や石?
れっきとした人間で、ちゃんとした名前もあるのに、なぜか「岩や石」と呼ばれた人物といえば?
あっ!
ケパ(岩・石)こと、シモン・ペトロ!
その通り。
神田正輝演じるミツアキ・フカヤのモデルは、イエスの筆頭弟子ペトロなんだ。
初対面の時にイエスから「わたしはお前をケパ(岩や石)と呼ぼう」と言われ、後に「わたしはこの岩の上にわたしの家を建てる」と言われたシモン・ペトロ…
だからラストシーンが、ローマ風コロセウムの通路でバッタリ再会し…
そしてその直後にミツアキは…
そういうこと。
この映画の聖子ちゃんのセリフは、ぶっ飛んでて意味不明のように聴こえますが、ちゃんと深い意味があるんですね…
そうだよ。彼女のセリフはすべて計算されたもの。
そしてこの預言通り、ミツアキは劇中で「馬や牛」を演じることになる。
え?
オープンカフェで彩がこのセリフを口にした時、後ろの席にミツアキが座っていたんだ。
背中合わせで互いに気がついていないんだけど、なぜかこの瞬間にミツアキはくしゃみをする。
ここから彼は本当に「馬や牛」になってしまうんだよね…
『ライフ・オブ・パイ』の動物たちと一緒。
動物として語られるけど、本当は人間…
たぶん、ここからアイデアを拝借したんだと思う。
そんな馬鹿な…
まだまだたくさんの証拠がある…
『カリブ 愛のシンフォニー』が『ライフ・オブ・パイ』に決定的な影響を与えた作品であることの証拠が…
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?