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2022年J2第23節横浜FC-アルビレックス新潟「北十字星を超えて」

リーグ後半戦の頭2戦が、仙台と新潟の上位2チームとの対戦となったのは何の因果だろうか。勝てば一気に勝ち点差を縮められる、突き放せるが、負けると置き去りにされ直接対決が残っていないので極論自力での優勝や自動昇格がなくなる。その緒戦、仙台戦は3-2で勝利。3位から2位となり勝ち点差3をつけた。そして首位・新潟との決戦。勝ち点差は2。横浜は勝てば首位浮上、そして仙台は前日に行われた山形とのみちのくダービーで引き分けに終わり、3位とも勝ち点差を5に広げることができる絶好のチャンスである。

この一週間、横浜界隈のテンションの高さはすごいものがあったが、自分はどちらかと言えば1/42でしかないと考えていた。引き分けで良しとは考えていないが、このゲームがどんな結果になったとしても、残り19試合最大勝ち点57を獲得できるチャンスはどのチームにも転がっている。

継続性と献身性

横浜は守備ではキックオフから4-4-2のシステムを敷いた。これが新潟の予測通りだったのか外れたのかはわからないが、ここ最近横浜が敷いている守備体系で流れからの失点が減り安定感が増している。中盤のハイネルは猟犬のごとくボールを狩りにいき、和田は歯車の潤滑油の様にボールを散らしては動きなおし、攻守ともに余りを作っている。
このゲームは新潟がボールを支配して一種ゲームも支配している様に見えるがそうではなかった。ボールは確かに持たれているが、要所要所では横浜の選手が跳ね返していて、ピンチらしいピンチがなかった。前線から高いプレッシャーをかけにいかずに、相手がサイドにボールを預けた際に迎えにいく。中央を固めつつサイドの長谷川やイサカ・ゼインがついていく。中盤は相手のボランチに食いつくよりも縦パスを警戒していたので新潟のパスを何度もカットできた。
ただし、本間だけは別で彼がサイドにいる時は中村拓が対面しつつ、ゼインが相手のサイドバックの選手を外しても背後からのプレスを怠らず、彼が中央に出ると食いつきにいかずにここも飛び込むエリアをしっかり守って対応したことで新潟の攻撃は歯車がかみ合わなくなった。4-2-3-1のチームと4-4-2のチームのかみ合わせは、横浜のサイドバックが相手のサイドの攻撃をしっかりと止めたのと、センターFWを孤立させられたのが大きかった。前半から見ていて失点する気配がなかった。

それでも新潟は首位にいるチームでここで焦れることがないから強い。結局、横浜はこの新潟の荒れ狂う波のような攻撃を集中して跳ね返せるか、破られるか。勝負はそこにあった。サッカーの面白さは、突き詰めると強い個と個の戦い。新潟の攻撃を跳ね返せるのは強い個があるから。また同時に、目指すサッカーを貫く強さも新潟にあった。システムなど正直どうでもよい戦いだったはず。やるかやられるか。新潟のジャブすら跳ねのける横浜のテンションの高さが最後まで持つかどうか。

主審

こうした素晴らしいゲームを裁いたのは榎本主審。J2ではおなじみの不可解な判定を繰り返す主審である。もう7年も前にフクアリでのゲームでは、勝っている千葉の選手が、後半アディショナルタイムにダイブして主審を欺こうとプレー。倒れたら笛を吹いてくれると舐められていた。

このゲームでも、新潟・鈴木とガブリエウの激しいマッチアップで、ガブリエウが報復に近い行為をするもののレッドカードは出ず両者にイエローが出る。今度は、渡邉が相手ゴールに迫ろうとした際に新潟・ジェームスに足をかけられて倒されるもノーファウル。この後、渡邉はその後異議を唱えたのか警告が出る有様。

こうした中でこの主審を窘めたのが和田。ハーフタイムにファウルの基準の確認へ。前半で荒れそうなところを確認にいく。抗議ではなく、それはファウルなんですよね?と。それによって主審のジャッジの基準を縛りにいった。その効果か、後半榎本主審は前半よりも安定したと思う。

そして、後半。亀川が与えたFKの際にも「言い方(に気をつけろよ)!」とヒートアップしそうなところを抑えた。ハイネルの気持ちが高揚した時も落ち着かせるなど、頭は冷静に心は熱くを地で行く選手でこのクレバーさが横浜の献身的な守備を支え続けた。

渡邉千真にごめんなさいの準備を

昨年ゴールを期待されたストライカーは2人いた。伊藤翔と渡邉千真だ。伊藤翔は、昨年前半J1リーグでノーゴールとなり松本にレンタル移籍し、今年復帰。プレーを不安視する声も多かったが、その手のひらがひっくり返りすぎて手首が骨折してしまう程の活躍。序盤は「小川翔」などと言い間違えがバズワードになった。最近は離脱しているが、5月までの活躍で彼がいればと思える信頼は生まれた。

そして渡邉である。昨年30試合で4ゴール。後半戦になってゴールが生まれたが、彼にとってもサポーターにとっても期待外れに終わったと言っても過言ではなかった。下平監督解任後は、クレーベの控えのポジションとなり、彼が負傷で離脱してポジションを掴んだかと思えば、サウロ・ミネイロやヴィゼウのコンディションが上がってくると再びベンチからの出場を余儀なくされた。
それでも徳島戦やセレッソ大阪戦で見せた、ゴールを奪うストライカーとしての迫力は色あせてはいない。

そして重要なのは、彼は献身的である。サウロ・ミネイロはスピードとパワーに溢れている反面、守備ではムラがあったりするが、久しぶりのスタメンということもあり彼は守備をさぼらない。苦しい時でもグッと耐えるだけのメンタルがあった。前節の仙台戦も、彼がゴールライン際粘ってボールを奪取したところから3点目が生まれた。

その渡邉が前線でボールを運び、中央の小川に。中盤のマークがなく、新潟のディフェンスラインが下がっていたので持ち替えて前を向くのも選択肢としてはあったが、左に叩いた。待ち受けていた長谷川のクロスは、新潟・ジェームスとGK小島の間に。ここに飛び込んだのが小川。

前半19分小川が陥れた先制点の起点は渡邉だった。そろそろ渡邉の評価も手のひらグルングルンする準備をしないといけない。

試合を決定づけたのは、後半25分。ロングボールの跳ね返りを長谷川が浮き球で裏に走りこんだ渡邉にパス。GKとの1対1を制して追加点を挙げた。


白旗

この日唯一の新潟の決定機となった後半12分の本間の巻いてゴールに向かうシュートをGKブローダーセンが右手で弾き出したのもこのゲームのハイライトの一つだろう。本間がシュートを打つ瞬間にステップして左に一歩寄っているのが秀逸で、あの一歩がシュートを止めたともいえる。本間のシュートの瞬間の体勢やスイングを見て巻いて蹴ってくると判断して寄ったのだろう。新潟の選手もサポーターも気落ちさせるには十分だった。

新潟はもっと動いてくるかと思ったが、松橋監督は動かず2失点を喫してから動いたのでは結果的に遅きに失した。自分たちがボールを支配していたので、このままならいつか同点になり勢いを取り戻せると考えていたのか。

あれだけ後半に失点を重ねた横浜とは思えない程後半も守備が崩れない。逆に新潟は長いボールを使い始めてしまった。自分たちのやり方ではゴールは奪えないと認めたようなものだった。

夏の大三角

満足して三ツ沢の丘を下ると左手の空には、はくちょう座が見える。はくちょう座は、その星座の形から北十字とも呼ばれる。そのはくちょう座のα星デネブの北に明るい星がこと座のベガ、ベガから南東方向に目をするとわし座のアルタイル。この3つの星を結んだ線を人は夏の大三角と呼ぶ。奇遇なことに仙台と新潟のチーム名に由来のある星々だ。ベガ(織姫星)とアルタイル(彦星)の出会いを引き裂き、デネブのある白鳥座のβ星アルビレオは、アルビレックスの以前の名称。神話ではゼウスが化けたと言われる白鳥を叩きのめす。神話の世界も驚きの現実がそこにあった。
ちなみに、ベガとデネブを軸にしてその△を反対側にもっていくと、そこにはこぐま座のα星が見える。このα星はポラリス、日本語でいう北極星。つまり、天の北極である。

この試合で何かが決まった訳でもなく、何かが終わった訳でもない。首位に立ったとは言え、たった勝ち点差1しかない。新潟も横浜も「まだ終わってない」と思っているだろう。むしろ大きなゲームの次のゲームも同じテンションで入っていけるか。それが重要だ。新潟とは勝ち点1、仙台とは勝ち点5、4位岡山とは10差だが、連敗すると自動昇格圏から外れてしまう可能性もある。6位とは、、、ここまで来たらプレーオフでの昇格は考えていないだろう。そう頂だけを。北十字星のさらに北にある北極星を。最も強く一番になりたいと思った者だけがそこにたどり着ける。


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