見出し画像

2022年J2第8節 横浜FC-FC琉球「翔さんにごめんなさいしようの会開催のお知らせ」

今シーズンの開幕前のキャンプで伊藤のプレーを見て、開幕戦は少なくともベンチには入ってくると自分は考えていて、Spaceでもそう話したのだが、多くの人はきっと逆張りと思って耳を傾けなかった。昨年J1リーグでノーゴール、ノーアシスト。ルヴァンカップでの得点もPKの1点。これで今年期待しろというのが無理かもしれない。ただキャンプを見た方なら自分の意見に賛同したと思う。ボールをもって前を向いた時の迫力や決め切るストライキングの能力の高さは今年こそはと和歌山の地で感じていた。

変化のきざし

その開幕戦、予想通りベンチに入っただけでなく途中から出場。さらに、ゲーム終盤では、逆転ゴールとなるPKを誘発するファウルを呼び込んだお洒落なヒールパスは、山下のスピードに目を奪われがちになるが、ストライカーならあそこで身体を入れ替えてシュートに持ち込みたいはずが、新加入の味方のランニングを信じてパスを出した事に昨年との違いを感じていた。鹿島サポーターに「伊藤翔は競らない」と言われ、昨年実際にロングボールは届かないと思うと追うのを諦めていた。ポストプレーは自分がゴールに向かうよりも味方を引き出すことも重要だが、その行為も放棄している様に見えた。自分の仕事はストライカーでゴールを奪うのが仕事なんだ!いつかの城が加入当初にとった態度を重ねて見ていた。その伊藤があそこでパスを出したところで、今年は何かが変わった。

返報性

返報性という言葉を知っているだろうか。人に優しくされると、自分も優しく返そう、人に冷たくされると自分も冷たい態度を取ろうとする心理である。昨年の松本で何があったか詳細を知る由もないし、伊藤も多くを語らないが、半シーズンで何かが変わった。開幕戦のPKアシストは、ただのパスかもしれないが、あのパスがあることで伊藤に預けたら戻してくれる、周りが見えていると理解が進むと、パスは出てくる。人はお互いに相手と同じレベルの印象を抱いているといわれている。返報性の原理から言えば、好印象を持っている相手には好印象を持たれているし、嫌いな相手もまた嫌っている。面と向かって好きというのは恥ずかしくとも、ボールに思いを乗せるのは恥ずかしくない。
そう考えると昨年のあのパフォーマンスは、チーム全体が勝利できないことで疑心暗鬼になっていて、彼にとって適切なパスも出てこない、戻そうにも誰もいない。ポジショニングに縛られ周りも動けない、動かない。彼だけではなくチーム全体が完全に負のスパイラルに陥っていたのだろう。

だから、前半10分の伊藤のゴールは信頼されているのがよくわかる。今シーズン初先発の山下のグランダーのクロスを、中央にいた小川がスルーして琉球DFを引き付け、裏にいた伊藤がゴールを陥れた。前節の山形戦では逆に伊藤のアシストで小川が決めており、アシストの返報性を垣間見た。つまり、アシストのお返し。アシストすれば今度はアシストが回ってくる。決定力のあるFWがそれぞれ我を張りすぎず勝利に向かってよい循環が回っている。

前半10分で2-0になっても攻撃の手を緩めないのが今年の横浜。2点目と同じ形で追加点が生まれたのが前半20分。山下のクロスを中央にいた長谷川が競り、こぼれ球が浮いたところを左足でそのまま伊藤がボレーシュートを叩き込んで3点目。圧倒的な能力を見せつけたのだった。
これも前節の山形戦で小川がミドルシュートを決めたのと同じ形になってからの展開。セカンドトップでライン間で適切にボールを受けた。小川の場合は相手2人を振り切ったが、伊藤の場合は距離もあったので右に預けて自分はファーサイドに。クロスしながら小川はニアに走り込みニアでもファーでもどちらでもゴールを得られるポジションを取れた。琉球のDF陣はファーに流れた彼を見失い、こぼれ球に詰めている選手は皆無だった。

おかんむりな訳

それでも前半26分にはプレスをかいくぐられ、琉球にクロスからヘディングでゴールを許してしまった。2点目や3点目の辺りからチームとしてやや緩む場面が増えていて、岩武は武田を追い越して前線でプレスをかける様になったり、中盤のボールが雑で相手のブロックをかいくぐれなくなっていた。
失点して声を荒げる伊藤。それもそのはず。カウンターでもないのに、最終ラインにいたのは、山下と伊藤とそして和田だった。
3点差で調子に乗った結果相手にゴールを許して3-1。相手の息を吹き返させるゴールは、記録上の1点以上に嫌なものになったはずだ。自身が最終ラインに戻ってきたからこそ、怒っても説得力がある。

絶好のチャンスも

1ゴールを返した琉球は後半元気になり、横浜は自然と受けてしまう。ただ、そういう中でも後半23分伊藤にハットトリックのチャンスが訪れた。高橋の縦パスを長谷川がバックヒールで中央に流し、小川がラストパス。走りこんだ伊藤へのプレゼントパスになったが、これは琉球GK田口がビッグセーブで追加点を許さない。ハットトリックはお預け。ここで伊藤は退くことに。ハットトリックを決めてほしかったが、決めなくても彼の評価は変わらない。圧巻のパフォーマンスと、最終ラインまで戻って奮闘する姿。昨年の伊藤と同一人物とは思えない。周りとの呼吸もあってきている。ゴールを決めるのがストライカーだが、ゴールを決めるだけがストライカーではない。味方を信頼して、自分を信頼して走るからまた自分の足元にボールは転がってくる。

後半の横浜は運動量が落ちて粘りこんでゲームをクローズに持ち込もうとする。サウロ・ミネイロも今シーズン初出場。まだ試運転の状態だが、昨年驚異的なパフォーマンスを見せた鋭さを覗かせた。
後半はお互いにゴールを割ることが出来ずこのままタイムアップ。横浜は3-1で勝利。今シーズン初めて2点差をつけての勝利となった。ターンオーバーに加え、新型コロナの陽性者を何人も出しベストメンバーを組むのが難しくなったこの3連戦を3連勝で駆け抜け首位をキープした。

閉会にあたり

何が伊藤翔を変えたのかはわからない。でも、変わったのは彼だけでなくクラブもだろう。GMも変わり、監督も変わった。求められるものも変わった。昨年の様な1トップでボールを受けさせることは今の四方田監督でも選択しないだろう。環境が変わって、役割も変わり、タスクも整理された。戦術の細かい指示一つより、「信頼されている」この思い一つで人は前向きに変われる。

昨年何度もあった彼への激しい批判をごめんなさいしないといけない。選手が昇格を信じて戦うのだから、「翔さん」の事はサポーターならもちろん信じているよね?信じた分だけ翔さんはゴールを決めてくれるさ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?