ブラック企業の洗礼①
トップバリュのカップ麺ばっか食ってるおじさんヒロオカです。
こんにちは。
前回 ↓ の続き、いきやす。
実態は悪質な押し売りなのに、美辞麗句を並べて善行だと言い張る着物屋。ワシはそんなとんでもねぇトコに就職してしまった。
店に訪れてくる客は稀。
基本はこちらから店舗前を歩いてる人に声をかけ、なんとか店内まで誘導して着物を買わせる、というスタイル。
お客さんに着物の良さに気づいてもらって、喜んでもらうため。
古き良き着物文化を後世に残すため。
我々はそのお手伝いをしている。
と言いつつも、やってることは人の心理に付け込んで買わせているだけ。
強引に着物を着させて、集団で囲んでプレッシャーをかけ、断りにくい空気を作る。
中年以上の女性客の場合、若い男店員ばかりで囲んで褒めちぎる。
鬼畜生やでホンマ。
少なくともワシにはそれは不向きであった。
購買意欲が無い人を、その気にさせるのがプロの営業マンと言うなら、ワシはなれないし、なりたくない。
入社数日で、早くもそんな後ろ向きな気持ちで勤務していると、当然売上にも差が出てくる。
ワシ以外の新人が、一人また一人と、初売上をとりはじめる。
そしてついには、ワシだけが売上0のままとなる。
他の店舗の新人が売り上げた、という報告FAXも続々と入ってくる。
こうなると、まだ1度すら売ったことのない新人がどんどん浮き彫りになる。
当然そこにワシも入っている。
発破をかけるというと聞こえはいいけど、いやらしいプレッシャーのかけ方だ。ほんと外道。
にしても、皆どうしてそんな売上とれるんだ?
40万50万するようなモノを、あんな売り方して胸が痛まないのだろうか?
いや、もちろん中には本当に着物が必要だったり、喜んで買っている人もいるだろうけどさ。
ワシだけが売上を取れないまま、1か月ほど過ぎたある日、新人全員がバックヤードに集められる。
店長が我々に説明を始める。
着物は普段そこまでの需要は無いけど、振袖に関しては、成人式があるので、必ず必要としている人が出てくる。
あぁ・・・そういえば。そんなもんがあったか。
そこで!これを見てほしい。
と、店長が我々になにやら数枚のプリントを配り始める。
ん?なんだこのクソ細かいリスト・・・。
個人名と住所、電話番号がびっしり。
これは、これから成人式を迎える、近隣に住む18歳、19歳の娘さんがいる家庭のリストだ。
どっからこんなもん持ってきたん!!??
絶対、黒い組織から仕入れてるっしょコレ。
と思いながらも、そのことには誰も触れられずにいた。
この当時、個人情報保護法はまだ無く、そこまで世間でも個人情報に関して騒がれていなかった。
それでも、こんなリストが平然と横行していることには流石に我々も驚いた。恐ろしい時代やでぇ・・・
店頭には二人、バックヤードに二人で、ローテーションしながら、1日で一人100件は電話かけような☆ と店長は言う。
「これから成人式に向けて振袖いるやろ?せやからウチに見においでや~」と営業をかけろというのだ。
ここで、もう一枚プリントが配られる。
見てみると、研修の時にいた茂木田部長の、直筆の電話マニュアルだ。
ああ、体はちっこいのに、声だけうるせぇあのクソオヤジか・・・
そのプリントには、電話での話し方やら、声色に注意、やら色々書かれていた。
そして最後に綴られたのがこの一文。
ためらいは罪。
自信を持って電話しよう!
我々のアプローチがきっかけで、その人の成人式が良い思い出になるのだから。
何言ってんだコイツ。
店長「ためらいは罪!」
いやそこリピートしなくていいから。
そうして、店頭の声掛けよりも更に辛い、地獄の電話営業が始まったのであった。
リストを見ながら、上から順に電話をかけていく。
大半は留守電や不通だったりもするのだが、ようやく繋がったとしても・・・
「あ、ウチはいいです」ガチャ
「ウチはレンタルなので・・・」ガチャ
「・・・(無言)」ガチャ
「は?なんでウチの番号知ってるんですか?」ガチャ
「なんで娘が成人するとか知ってるんですか?」ガチャ
「結構です!」ガチャーーーン!!!
「もうかけてこないで!!」ガチャーーーン!!!
想像以上に地獄。
電話越しとは言え、人に敵意を向けられるのはかなり精神にくる。
嘘だろ?これ毎日、100件?
頭おかしなるでホンマ。
店長「1000件かけて、1件でも売上に繋がれば、電話する価値は十分にあるから!」
その前に、我々の魂が先に朽ち果てちゃうんですが。
店頭ではなんとか売上を取れた同僚も、流石にこの電話はきついらしい。
毎日毎日、見知らぬ人から敵意むき出しの言葉を浴びれば、誰でもそうなる。
それに、断られる、嫌がられるのをわかってても電話をしなくてはいけない、というプレッシャーは、罪悪感を増幅させ容赦なく我々の精神を蝕む。
もちろんワシも、もうノイローゼ一歩手前だった。
隣で受話器に手を置いた同僚が、上を見ながら
「ためらいは罪・・・ためらいは罪・・・」
とボソボソ呟いている。
これアカンやつや。
だけど、もはやワシも似たようなもんだった。
この電話営業が始まってしばらく経った頃には、昼休みになると、同じショッピングモール内にあるペットショップに行くのが習慣になっていた。
そのペットショップで、口からエクトプラズムを出しながら、毎日犬や猫を眺めて過ごすようになっていたのだ。
今思うと、そこの店員さんに絶対迷惑かけてたよね。すんまへん。
入社して3か月そこそこの時点で、ワシは未だ着物一枚すら売ていなかった。
そして、順調に精神もおかしくなっていったのであった。
続きます。