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ブラック企業の洗礼②

クーポンの類を使うのがちょっと恥ずかしい男ヒロオカです。
こんにちは。

前回の続きです。

通行人への声掛けからの押し売りや、出所が謎の個人情報リストへの電話営業と、ブラックの限りを尽くす勤務先の着物屋。

入社3か月で早くも精神が病み始めるヒロオカ。
着物の売り上げは未だ0。

しかし、やり方はあくどいけれども、同期達は続々と売り上げをとっている。

皆と違って、ワシがポンコツだからいけないんや・・・と、自分を責めて、病みは更に加速する。

そんな憂鬱な毎日の中、次なる試練が襲い掛かってくる。

それは「展示会」という名の、着物販売イベント。
グループの近隣店舗と合同で会場を借り、顧客を呼び込む大きな販売会らしい。

少し話は逸れるが、ウチの会社では、店頭で声掛けした人や、たまたま和装小物を買いに来た客とか、とにかく店に関わった人全てに、「顧客名簿」と言う名の、個人情報の記載をお願いをしている。

そうやって集めた名簿が多ければ多いほど、いつかはその中から本当に顧客になってくれる人が出てくる可能性は高くなる。

今回の展示会は、それぞれが取得したその顧客名簿から客を呼ぶという。

やべえ。


ワシは人から個人情報を聞き出すことも抵抗あったので、ロクに名簿を集めていない。
多分ウチの店舗じゃ、ワシが圧倒的に名簿の保有数は少ない。

呼ぶ人マジいねぇ。

とは言え、それはもうどうにもならない。
もういいや、ウチの店の売上は他の同僚やパートのおばちゃん、店長たちに任せる!ワシは諦める!

こうして呼び込む顧客も増やせないまま、どこぞのホテル(だったかな?)の大部屋で、派手に展示会は開催された。

会場内は、色々な種類の着物コーナーがいくつもあって、そこを順番に回れるようルートが決まっている。

全てを回った後は、客が気になった着物を試着できるエリアで、スタッフがクロージング(押し売り)をする、という流れだ。

その一連の流れでは最初から最後まで、自店の客一組につき、その店のスタッフが一人付き添って案内をする。

手が空いてる限り、出来るだけ自分の呼んだ客には自分が付くようにしなければならない。

ワシすっごい暇になりそう。

と思ってたけど、自店の誰かが呼んだ客の案内とかで、暇になることはなかった。

でも、自分の客じゃない人を案内していくのは、コミュ障なワシにはちょっとキツかった。
お客さんの目とか見れないねん。

あと関係ないけど、茂木田部長だけは別室で、両手に女の子スタッフ2人を秘書と称してはべらせ、ふんぞり返っていた。

しかもその2人の女の子は、新人同期の中でも1,2を争う可愛い子たちだった。絶対顔で選んでやがる。
とんでもねぇスケベオヤジだ。

このスケベは、かつて販売実績がとてつもなく優秀だったらしく、各店の店長たちから崇拝の対象とまでなっている。

ほとんどの店長や副店長たちは、このスケベの発言一つ一つをありがたい格言のように妄信し、絶対的な存在として、新人の我々にも語り継ごうとしてくる。

でも、どんなに凄腕の商人であろうが、権力を笠に欲望をむき出しにしている様子を見てしまったワシからしたら、とても尊敬できないし、ただのキモいスケベオヤジである。

話は戻るが、展示会は終始客の案内がキツかったものの、何事もなく進行し、なんとかそのまま終わりを迎えることができた。

とはいえ、ワシの呼んだ数少ない客は、誰一人としてお買い上げることはなかった。

そして店舗別の売上は、ウチが一番悪かった。

その後、ウチの店長が例のスケベ部屋に呼ばれ、めちゃくちゃ怒鳴られていた。その声は別室から会場まで響いてきた。

客を呼べなかったワシのせいだ・・・店長ごめん。

これ以上続けても、迷惑かけるだけだな・・・もう辞めてしまおうか。
精神的にもキツイし。
あと茂木田のオヤジ嫌いだし。

しょんぼりした顔で店長が戻って来たところで、今度は全ての店舗スタッフで会場の片づけ。
うわぁめんどくせぇ。

全員でドタバタと片づけている中、他店の若い男店長がヒステリックになんか叫んでいる。

「お前らイチイチ作業がおせぇなぁ!」
だの
「もっとよく考えて行動しろぉ!」
だの、よくわからんが、やたら吠え散らかしている。

ただ片づけしてるだけなのに、なんでこんなイキってんのコイツ。

話はまた少し変わるけど、ワシはすぐ高圧的になったり、声を張り上げる人種が何より嫌いだ。
まぁそんなんが好きな人なんていないと思うけど。

この手のタイプって、昭和の世代ならピンと来るかもしれないけど、小、中、高の体育教師にやたら多かった。

特に生徒が悪くなくても、ちょっとしたことで大声張り上げたり、すぐ怒る教師。

こういう手合いはワシは昔から嫌いだった。
いちいち相手を脅すような態度とらんでも、普通のトーンで普通に話せばいいじゃん、と、ずっと思っていた。
生徒がよほどの悪事を働いた、とかなら話は別だけど。

この若い店長も、そういう教師とどこか共通するものがある。

たかだか片づけ作業で、仮に手際が悪かったとしても、でけぇ声張り上げる程のことか? 不必要に部下を委縮させたところで、何も良い結果なんて生み出さない。
言うべきことがあるなら、普通に伝えればいいだけのこと。

思えば、研修初日から、茂木田部長をはじめ店長連中は、体育会系ばりに高圧的に声を張り上げていた。特に誰かが何かをしたわけでもないのに。

たまたまウチの店長は控えめな性格だから、そういうことは無かったけど、会社の体質としては、全体的にヒステリックな奴、無駄に威圧することに疑問を持たない奴が多い傾向がある。

・・・うん、もうやっぱり嫌い。この会社。
辞めよ。


ということで、この会社の販売方法はもちろんだけど、構成している人間の質も肌に合わないので、もう辞めようと、この時ようやく決心がついた。

この展示会から少し経ったある日、店頭でたまたまワシが声掛けた人が30万円の帯を買ってくれたのだが、この時も酷かった。

例によって、本人が欲しがってその帯を買ったというわけではなかった。
副店長ら数人に取り囲まれて延々と口説かれて、根負けしてローンを組んだ、と言う感じだ。

その人に最初に声をかけて、店内に案内したワシとしては、それが売上に繋がったことを本来は喜ぶべきなのかもしれないが、それよりも胸が痛んでしまった。

どう見ても喜んで買ったようには見えなかった。

もうだめだ、やっぱりこんな商売ワシには向いてない・・・。

それから一か月後、ワシは入社して半年で、この会社を辞めた。

ちなみに、この時点でワシよりも早く辞めていった人はかなりいた。
きっと皆耐えられなかったんだろうな。



そしてそこからほんの数年後、この会社はグループ全体ごと見事に倒産した。

あまりに強引で悪質な販売だったり、自店の着物を買わせる目的で従業員を雇ったりするなど、数々の問題が明るみに出、消費者センターには相談が相次ぎ、業績が急激に悪化したとのこと。

やっぱりか。


ワシ含む早々に辞めた人たちは間違ってなかった。

入社してすぐに、ウチの会社の行いは正しいことなんだ、という洗脳を施してきたけど、普通に考えたらこんな仕事耐えられるわけがないもんね。

自分が潰れる前に辞めて良かった。



と、まあそんなわけで、半年ほどだったけど、最上級のブラック企業に、いきなり強烈な社会の洗礼を浴びてしまったヒロオカでした。

ホントに生きた心地のしない半年間でした。
もう二度とこんな会社には入るまい。





・・・そう誓ったはずだったのに。

俺ってやつはまた・・・



この話はこれでおしまいです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。

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