セルロイドのカウル
愛車は軽トラよりひと回り小さい。前半分がセルロイドのカウル。真っ白で線一本書いてない。知り合いにはスケキヨみたいと言われたことがある。後半分は耕運機が引く荷台に似ている。木目。事故ったら盛大に燃えそう。前輪は一つなのでオート三輪に分類される。
俺は朝の通勤客がいっぱいの忙しい時間が落ち着いたので、ピットの脇でだらだらとツナギなんかを洗っていた。聞き間違いようのないビービーとうるさいエンジン音に目をあげると、愛車が国道に出ていくところだった。
誰が盗んでいったのか見当もつかないがとりあえず追いかけた。走って。
この時間の国道は朝のラッシュが落ち着いたとはいえそんなにすいちゃいない。環状と交差する当たりで追いつくことができるだろう。
ところが、絶妙に交通は流れていた。手が届く頃になるとスッと動き出し、また数百メートル彼方で止まる。これを延々と繰り返す羽目に。
とはいえ体力なら俺も自信がある。ガソリン入れたりパンク修理したり洗車したりよりよほど得意だ。この程度の追いかけっこだったら丸一日くらいは大丈夫。
しかしなんで俺の車を盗んだやつは曲がらないんだ。相変わらずまあまあ混んでまあまあ流れている県道を直進している。急いでいる風でもない。このまままっすぐ行ったらもうアレしかないじゃないか。あそこに行くつもりなのか。もしそうだとしたら盗んだ奴の検討もつく。急に疲労を感じた。
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