見出し画像

「ありあまる富」を聞いて、悲しくて悔しくて泣いた日の話。

「人生で、心に残ってるとか忘れられない曲って何?」と聞かれた。

「好きな曲」なら、ずっとミスチルの「Innocent World」って答えてきたんだけど、人生で心に残る曲ってなると少し違うな…と考えた時、1つの曲が思い浮かんだ。

それは、椎名林檎さんの「ありあまる富」。

この曲を聴いたのはちょうど、父の会社が倒産して、住んでいた家を出た頃だった。

父の会社がいよいよ危ないとなった時、大阪にある大きな会社の社長さんが、会社も家も買い取ってくれるという話になった。
会社は、名前と経営者は変わるけど、従業員はそのまま雇ってくれるし、私たちが暮らす家も、買い取った金額を毎月「家賃」という形で返済すれば、そのまま住んでもいいと言われていた。

ところが、直前になって「やっぱり買えない」と言われてしまい、結局会社は倒産。
住んでいた家は抵当に入っていたので、差し押さえられることになった。

諦めきれず、私と父で社長さんにもう一度頭を下げに行ったけど「無理無理。うちの会社も今厳しくてねえ」と断られた。

たしか3ヶ月以内には家を出て行かなきゃいけなくて、慌てて家を探したら、幸運なことに今の家(借家)がすぐに見つかった。
申し込みがあと30分遅かったら、次の人に決まっていたかもしれないらしい。我が家の運の底力よ。


引っ越しが決まってから、いろんなものを手放した。
幼い頃に買ってもらったピアノも売った。
大好きだった愛車も手放した。
家族でごろごろしたソファも、次の家には入らないからと処分した。

その家は、自分たちで間取りを考えたお気に入りの家だった。
私は階段が好きだった。
吹き抜けで、手すりもおしゃれで、そこから見下ろす廊下と玄関が好きだった。

そこにある景色も思い出も物も、いろいろ置いてこなきゃいけなかった。
仕方がないことだと分かっていたし、とにかく猫3匹と家族の生活は守れたことがありがたかったし、日々やることがたくさんあったし、泣いてる暇なんてなかった。


引っ越しも終わり、怒涛の日々がひと段落した頃だったと思う。
車に乗っていたら流れてきたのが、この「ありあまる富」だった。

もしも彼らが君の 何かを盗んだとして
それはくだらないものだよ
返して貰うまでもない筈
何故なら価値は 生命に従って付いている

彼らが手にしている 富は買えるんだ
僕らは数えないし 失くすこともない
世界はまだ不幸だってさ

(略)

ほらね君には富が溢れている

涙が出た。
本当はすごく悔しかったし悲しかった。

でも、無くしたものは全部お金で買えるものだ。
また買えばいい。
大切な思い出や気持ちは、ちゃんとここに残ってる。
猫たちだってみんないる。

それに私は生きている。

悔しさと悲しさの中で、「大丈夫」と言い聞かせた。


あれから10年以上が経った。

振り返ると、あの時会社が倒産して良かったと今は思う。
毎月資金繰りに追われ、「今月はどうなるんだろう。乗り越えられるんだろうか」と、怯えながら暮らすのは本当に本当に辛かった。

だから、やり方はちょっと酷かったけど、きっかけをくれた大阪の社長さんに少し感謝している。ほんの少しだけど。


「ありあまる富」は、そんな人生の思い出がつまった曲。
今も聞くと胸がギュッとなるし、ちょっと泣きそうになる。

いつか、この曲を笑って聴ける日がきますように。

いいなと思ったら応援しよう!

オカダトモコ 旅が好きなライター / カメラマン
いただいたサポートは猫たちの養育費に使わせていただきます。ありがとうございます。猫たちがいるから生きてます。

この記事が参加している募集