歳時記を旅する33〔飾売〕前*銀行の鉄扉のまへの飾売
土生 重次
(昭和五十四年作、『歴巡』)
大森貝塚を発見したE・S・モースが記した滞在日記に、正月飾りなどを売る年の市の風景(明治十一年)がある。
「今月(十二月)は、各所の寺院の近くで、市がひらかれる。売買される品は、新年用の藁製家庭装飾品、家の中で祭る祠、子供の玩具等である。大きな市はすでに終り、今や小さい市が、東京中いたる所で開かれる。このような野外市につどい集る人の数には驚いてしまう。(略)このような祭で売られる物が、すべて子供の玩具か、宗教的又は半宗教的の装飾物か、彼等の家庭内の祠に関係のある物かであるのは、興味深かった。」(『日本その日その日』)
句の飾売りは休日の銀行の正面か裏口の扉か。この国では、歳の神様をお迎えする品が、駅前の一等地で売られる。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和四年十二月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)