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歳時記を旅する 20〔木枯し〕前*木枯や父の手紙に誤字ひとつ

土生 重次 (昭和五十六年作『扉』)

 土生重次は、一九三五年(昭和十年)、父重一、母千代の長男として、大阪府堺市東甲斐之町に生れる。

 父は、当時時計宝石貴金属店を営んでいた。一九六六年(昭和四十一年)四月には、父重一を老衰のため亡くしている。享年九十歳。重次三十一歳のときである。

 句は、重次四十六歳の作品である。前年から「蘭」の同人となった重次は、この年の一月に「蘭」の編集の担当を始めている。父の遺した手紙を読み返すのにも、編集者の視点が入っていたのだろうか。

 木枯らしとは、気象庁の定義では、「晩秋から初冬にかけて吹く、北よりの(やや)強い風」。

このときの重次の父に対する心境は、この季語から想像するよりほかない。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和三年十一月号)

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