チャッターアイランド vol.14

『チャッターアイランド』はDJ/プロデューサーのokadadaとDJ/ライターのshakkeがしゃべったことを記録する、という趣旨のテキスト/音声コンテンツです。毎月1回の配信を予定してます。今回はゲストに映像作家/VJ/DJ/写真家のNaohiro Yakoさんをお迎えしてお送りします。

インフラが整ってこそバズが生まれる

Naohiro Yako ちょっと最近は飽きてきて写真アップしてないんだけど、写真を頻繁にアップしてたころによく言われてたのは“こんなの写真じゃない”とかね。
okadada でも新しい世代のフォトグラファーとかを見てたら、レタッチで全然ちがうものにしていくっていうのはむしろ主流になりつつあるっていうのは感じますね。こないだ若いひとの写真いくつか作品を見てみたら、みんなレタッチでバキバキにするのを(写真自体を)キレイにするということではなく、なにかの表現として……たとえば草を撮った写真をレタッチで別のものにしていく、みたいなのが普通になりつつあるなって。
shakke しかもそれは写真家としてのカテゴリーでそれをやるってことなんだ?
Naohiro Yako いまは増えたね。
okadada そりゃそうやろなって思うっすね。若かったら、写真を撮るってことはレタッチとかまで含めてやるってことがあたりまえになるやろなって。
Naohiro Yako 4〜5年前に自分の写真を“これは写真じゃない。ぬり絵だ”って言われたことがあって。でもぬり絵ってめっちゃいいなって思って。
okadada ヤコーさんが撮った写真見たことがないってひとは1回見てくれたらいいんですけど、ライトとかをパッキパキにして強くしていく、みたいな。
Naohiro Yako 写真なのか絵なのかの境界線みたいな感じ。オレがそういうのが好きなだけなんだけど。あと、さっき言ったようなすきま産業的な。で、写真じゃないかどうかっていう議論もおもしろくって。オレも気になって探してたら、15〜16年前くらいは“デジタルカメラは写真か写真じゃないか”って議論をしたりするスレもあって。まぁ、時代の変換点ごとにあるんだろうけど。
shakke いまはたぶんそれこそPhotoshopネイティブなひととかも増えてるだろうし。それで考えたら、フォトショが写真をはじめたときからあった世代からしたらレタッチとかは普通だろうね。それは時代の変遷で全然あるだろうなぁ。
okadada “ドラムマシン使うなんて音楽じゃない”みたいなことはいくらでも言われてただろうし。というか、いまだにたぶんそういうひといるでしょ。“電子音楽なんてやっぱ生音には勝てないよ”ぐらいのこと言うひとは、オレらに見えてないだけでめちゃくちゃいると思いますよ。
shakke “サンプリングヒップホップ以外はヒップホップじゃない”ってひともいるだろうし。
Naohiro Yako でも、そういう意見を聞くのがオレはわりと好きかも。
okadada たしかに。問い直すのはおもしろいっすね。メディウムというか。この表現を表現たらしめているものはなんなのか、っていう話になるんですよね、それは。
Naohiro Yako そうそう。“なんでそうじゃないと思うんですか?”っていうのを訊いてみたい。だからリプライ返しちゃうんだよね。
okadada ハハハハハ。めちゃくちゃ煽りに見える。
Naohiro Yako でもさ、単純な、素朴な疑問としてね。
okadada そうっすね。それはオレも見てて思ってた。じゃあ、なにを写真と思うんやろって。
Naohiro Yako それが気になっちゃう。だからよく前に訊いてたのは、インスタを使ってるけど、そこでフィルターかけてるわけじゃん、みんな。フィルターをかけるってことはデジタル加工がされてるってことで、“じゃあ、あなたにとってインスタに上がってる写真は写真じゃないですよね”っていう。でも、それに対しては“いや、むずかしい境界線なんですけど……”みたいな感じで。
okadada たしかにそれは思うんすよね。ジャンル論争なんていくらでもあるわけで、“これはヒップホップではない”とか“これはロックではない”、“もはやアイドルを超えた”みたいなことはあるけど、じゃあ“それはロックでない”ということがなぜいけないのかって話になるわけじゃないですか。ロックじゃないとして、なんでロックじゃないといけないのか、みたいなことはいちいち考えていかなあかんよと思うんで。
Naohiro Yako そうね。で、写真か写真じゃないかって話で自分のなかで行き着いたのは、写真というもの自体があまりにも普及しすぎたってことが議論の原因だと思ってて。全員がiPhoneとかで写真を撮れるようになってインフラが整っちゃったから。オレが写真をおもしろいと思ったのもそこで。
shakke なるほど。
Naohiro Yako 全員が写真を毎日撮ってる。町の写真とかを、だいたいのひとたちが。その状況って、インフラがある状態で差分を生みやすいのよ。
okadada はいはいはい。攻略しやすいってことね。
Naohiro Yako これがグラフィックとかイラストだと無理なのよ。全員が作るものじゃないから。写真だったら毎日みんな撮ってるから、オレが撮った写真に対して“自分でもできるかもしれない”っていうちょっとした思いがありつつ、オレが撮ってる写真と自分が撮ってる写真のちがいをそれぞれが持ってるわけで。だからこそ差分を生みやすくて、やってて楽しいんだよね。
shakke たしかに。それはおもしろいな。普及したおかげで、外からの能動評価がより受けられるし。そう思ったらバズっていうものの根源もそこなんじゃないかって思いますね。
Naohiro Yako 風景写真がバズりやすいのは完全にそれ。みんなが普段撮ってる風景が、ひとによってこれだけ差分が生まれて、すごいっていうことがわかりやすいから。
okadada プレイヤーが多いから、ってことっすよね。
Naohiro Yako そう。だから、これ聴いてるひとで承認欲求だけでバズりたいひとは、写真はじめて風景撮ればいいっていう。
okadada なんでもそうなんすよね。“クラブ来るヤツがどいつもこいつもDJばっかになって客がいねえじゃねぇかよ”みたいな批判するひともいるけど、オレはもう全員がDJでいいと思ってるから。全員がDJやったことあるとすれば、完全にこれはヤコーさんの言い草といっしょですけど、すごいDJがいかにすごいのかわかるはずや、みたいな。
Naohiro Yako 結局、インフラだと思うんだよね。
shakke ヒップホップとかもさ、自宅で録音できるようになってだいぶ参入しやすくなったもんね。
okadada そうっすね。2010年代にトラップが台頭してきたということをどう考えるかっていうのは、ヒップホップを改めて民主化したことだと思うんで。80〜90年代とかは……シカゴハウスとかもそうですけど、楽器買えへんから、投げ売りされてたTB-303とかTR-909をみんなが買って。だから参入障壁が低かったっていう。貧乏なひとでもできて、しかも知識がいらない。
Naohiro Yako 押せば音が出る。
okadada そうそうそう。で、アイデアで勝負していく、みたいな。ラップも結局そうっすよね。昔はレコードを作るのに生音で録音せなあかんかったけど、サンプラーは高いっつっても1台あればなんでもできるわけで。で、さらにラップというのは歌の上手さが関係ない。
shakke かつ、現代はもうオートチューンがあるから、歌が上手くなくてもある程度の補正ができるっていうね。
okadada あとは、90年代とかにラップが芸術としてバーッと上がっていって、トラップがメンフィスとかから生まれてきて、2000年代にヒップホップのメインのジャンルに取って代わったときになにが起きたかっていうと、iPhoneでも録音できるようになったってことですね。トラップのドラムキットがあって、それをiPhone上で並べて、ラップもiPhoneで録音すると。それで大バズりを生んで大金持ちになるヤツもいて。これは完全に参入障壁が一気にまた下がったからで。これはまたパンクの時代に戻っていくような、スリーコードだけでカッコよくなっていくみたいなのと似てるっすね。

シティポップは立川

okadada ヤコーさんね、実家もすごいっすからね。シティボーイどころの話じゃないっすからね。新宿のど真ん中で。
Naohiro Yako いやいやいや。新宿の伊勢丹のすぐそばで飲食店やってて。
okadada これがシティよ。
Naohiro Yako 逆なの、逆なの。オレにとっては田舎がファンタジーなの。『ぼくのなつやすみ』とかマジでファンタジー。
okadada 『ぼくのなつやすみ』とか“なにががおもろいねん!”と思ってましたよ。“毎日じゃい、こちとら!”と思って。
Naohiro Yako でも、さすがにあそこまでじゃないでしょ?
okadada 『ぼくのなつやすみ』をあんまやったことないすけど、見た感じ……(実家には)川もあったし。
Naohiro Yako お盆に里帰りとかあった?
shakke オレはずっと埼玉で、実家も埼玉だから。
Naohiro Yako じいちゃん、ばあちゃんも?
shakke そうそう。だからあんな『ぼくのなつやすみ』みたいなことはないけど。スイカを川で冷やして虫採り、みたいな。
okadada なにがおもろいねん、そんなの。めんどくさいやん。冷蔵庫で冷やせよ。
shakke ハハハハハ。
Naohiro Yako 田舎に行ったことが幼少期になかったからなぁ。父方のじいちゃん、ばあちゃんは新宿で、母方のじいちゃん、ばあちゃんも横浜だった。
okadada 筋金入りの都会人です。
shakke フフフフフ……。
Naohiro Yako 筋金入りってのはあとで気づいたけど。生まれも銀座だし。
shakke ヤバい!
okadada 生まれは銀座で新宿育ち、田舎は横浜ときたもんですよ。
Naohiro Yako なんかスネ夫みたいな気持ちだな。イヤだなぁ。
shakke いや、でもこんなにシティなひとはあんまりいないっすよ。
okadada かなりまれですよね。
Naohiro Yako そういう話だと、シティポップがマジで理解できないっていう。
shakke なるほど。それはもうシティが普通だから、みたいな?
Naohiro Yako いや、普通っていうか、“オレが思ってる街じゃないんだけど?”っていう。
okadada そうそう。だから、オレらとかが好きなシティポップっていうのは、都会を妄想する歌のことで。でも、本当にシティのひとに求められてる音楽はそういうもんじゃないっすからね。もっと何気ないもんですよ。
Naohiro Yako シティポップというか……なんだっけ?
okadada アーバンですか?
Naohiro Yako そうそう。アーバンもマジで理解できない。“なにがどうアーバン?” っていう。
shakke でも、アーバン旋律っていうか、アーバンなコード感ってのはあるじゃん。そういう音の質感としても理解できない?
Naohiro Yako そもそも、都会にそんな温かみってあるっけ?
okadada 都会はもっとソリッドだと。
Naohiro Yako なんか……うーん……立川ぐらいかな?
shakke ハハハハハハハハハハ!
okadada ハハハハハハハハハハ!
shakke いいですねぇ! 立川っぽいな、そう言われると! 我々は立川を目指してたんだ!
okadada ハハハハハ! シティポップ作りたいヤツは立川に行けと。
shakke 立川に向けて作るとちょうどいいぐらいの。フフフフフ……。
okadada ちょうどさっきもパーゴル(PARKGOLF)と話してたんすけど、高中正義だっけな?有名なフュージョンのギタリストは、海っぽいアーバンな曲を作るためにこそ山に住んでたらしくって。
Naohiro Yako なるほどね。求めるものを想像するために。
okadada そういうことなんですよ。それが好きだったんです、ぼくらは。ありもしないものを考える、求めるっていうことがいい音楽を作ってるんじゃないかと思うわけです。だからヤコーさんが“いや、都会の音楽っていっても、都会はこんな感じじゃないよ”っていうのはめちゃめちゃ正しいと思う。
shakke そうね。そもそもないんやもん、っていう。
okadada ありもしないものを考えるっていうのが、やっぱいいところじゃないですか。


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