チャッターアイランド vol.6

『チャッターアイランド』はDJ/プロデューサーのokadadaとDJ/ライターのshakkeがしゃべったことを記録する、という趣旨のテキスト/音声コンテンツです。毎月1回、月末の配信を予定してます。

ハイハットは相づち


okadada 図太くないですねぇ、我々は。
shakke いやぁ、もう小市民とはこのことですよ。
okadada ほんまに小心者じゃないっすか、どっちも。なんなんすかね? なんでこうなっちゃったんやろ?
shakke ハハハハ。ひとの顔色を見ながらねぇ。
okadada ま、そこまでじゃないにせよ。
shakke 簡単に言ったら小心者ふたりがやってるポッドキャストこそがチャッターアイランドだからね。なんでだろうね。愛されたいんかな?
okadada ハハハハ! っていうことは、(小心者じゃない)ヤツらは愛されたくないって思ってるってこと?
shakke それがべつにどうでもいいって思ってるんじゃない?
okadada ちょっと待ってくださいよ。小心者が愛されたいってなるのはなんでなんすか。
shakke いや、でもやっぱさ、嫌われたくないっていうか。
okadada まぁまぁ、たしかに。嫌われたくないもんなぁ。
shakke 嫌われたくないよね。嫌われたくないっていうの、けっこうでかいかも。
okadada じゃあ嫌われないためになにか心がけてますか?
shakke なんだろうなぁ。……すごい相づち打つ。
okadada ハハハハ。それは嫌われないためにやるんや。
shakke っていうか、もうこれが地になっちゃってる。“わたしはあなたの話を聴いてますよ”っていう状態を……だからさ、テクノの曲とかでもさ、すごいヒプノティックな曲でブレイクがめっちゃ長くて全然キックが入ってこないのとかあんじゃん。
okadada ありますね。
shakke ああいう曲、気まずくてかけれなくて。会話でもさ、相づちという、ハットでもキックでもいいや、それを入れて極力ブレイクを作りたくないっていう。たとえばDaniel BellのDJってブレイクをあんま作らないんすよ。
okadada あぁ、たしかに。
shakke 1曲のなかで3分くらい進んでブレイクが15秒入ってまた戻る、みたいな展開があったとして、そこのブレイクの15秒で次の曲をつなぐから。
okadada なるほど。じゃあダンベルはけっこうマシンガントークなんや。
shakke そう。ダンベルみたいなトークのグルーヴやね。
okadada ハハハハハハハ! 新しい発想ですね。ハイハットは相づちっていう。
shakke フフフフ。そうだね。けっこうその感覚はあるよ。
okadada すごいですね。その発想はなかったな。たしかに場面によっては自分もそうですね。あとはむしろブレイク長いほうがいいんやっていうときもあって。聴衆が多ければ多いほどできるんすよ、あれ。
shakke わかるわかる。
okadada 小箱でブレイク長い曲かけちゃえるのは、めっちゃ胆力があるヤツか、それがわかってない若い子のどっちかっすよ。若くて、派手な曲が好きな子が客15人ぐらいしかいいひんところで……
shakke すごい高揚感のあるブレイクをずっと聴かせる……。
okadada タメが1分半ぐらいある曲かけてるっていうね。大阪のSTOMPとかでね、まぁ50人も入ったらいっぱいみたいな小箱ですよ。フロアも狭くて。自分が大学生ぐらいのときにね、オレよりちょっと下ぐらいのヤツがやってて、むちゃくちゃ派手な曲かけてて。しかもまだ0時も過ぎてないような時間に。
shakke はいはい。
okadada そんで、そこで自分はバーカンでしゃべってるわけですよ、友達とかバーのスタッフとかと。そんななかで(派手なブレイクが)“バーーーーン!”みたいな。こっちは“ほんでさぁ、あっ……”みたいな。ブレイクだからしゃべったらやばいっていう。で、みんなビートが戻ってくんの待つんやけど、いつまで経ったら戻ってくんねん!
shakke ハハハハ! 声だけが響く状態ね。
okadada そうそう。あれ、気まずいっすよねぇ。
shakke わかるなぁ。自分も新宿に昔あったOTOってクラブで働いてたときにさ、散々そういうのを見てたからさ。あれは気まずい。小箱出身のひとあるあるみたいなところあるね。それこそ最初っからエイジアとかではじめてたらああいう曲は臆面なくかけられるのかもしれないけどね。
okadada そうですねぇ。あったなぁ、そういうこと。
shakke だからやっぱりいまだにそのクセは……DJのクセが先か、会話のメソッドが先かはわかんないけど、ずっとあるかな。
okadada そこが会話の方法に干渉してるっていうのはあんまり考えたことなかったかも。
shakke やっぱね、無音とか静寂とかがあると……。相手が“なに考えてるのかわかんないな”って思っちゃう間をあんま作りたくないんだよね。
okadada 昔はけっこう間をガンガン埋めていくタイプだったけど、いまは場所によってはむしろ(ブレイクも)最後までいって……特にハウスとかかけるときは途中でつながんと最後まで聴かせて、1曲1曲ちゃんと選曲して最後まで展開を考えるっていうふうになりましたけど。いやぁ、でも高速相づちDJね。“うんうんうんうん、わかるわかる、うんうんうんうん”みたいな。めっちゃスクラッチ入れてくる、みたいな。
shakke ハハハ! SP-303とかでSEガンガン入れるとかね。
okadada あれが相づちなんや! 斬新な発想やなぁ。
shakke これまでのチャッターアイランド聴いてみれば、SE的に入れてる相づちみたいなのはあると思う。
okadada たしかに相づち多いですよ、我々。でもそのほうが話がスムーズにいく感じもしますよね。ただ、イヤですけどね、“コイツ相づち多いな!”って思われてたら。どうします? “思ってたんですよね、シャケさん相づち多いなって”みたいな。
shakke ハハハハ。でもそれはそう思われてたらそうだからなぁ。でもこれって結局、個人の性格までの話じゃなくて、単純に会話のグルーヴのみにおいての話だから。でも、それはもしかしたら嫌われたくないっていう気持ちの表れかもなとはちょっと思いますね。
okadada そうかもなぁ。やっぱ嫌われたくないっていうことに関してすごい思ったんすよね。どうせなら相手に気持ちよくいてほしい、みたいな。だからこそ、嫌われないように行動してたら嫌われるっぽいってのは思うっすね。嫌われないために先回りしてやる行動がいちばん嫌われるっぽいっていう。23歳ぐらいかな。これはどうやら逆やな、みたいなこと思ったんすよね。
shakke それは明確にそう思う事案があったんだ?
okadada ハッキリとしたことがあったわけじゃないんやけど。話してても、相手に合わすより、礼節をわきまえたうえで思ったこと言ったほうがどうやらいい結果になってるぞっていうのがあって。それは自分にとってね。いい関係が築けてるぞみたいなのはあったんで。
shakke あと、そうやっていくと(自分と)合わないなって思ってるひとは結果的に離れるしね。
okadada まさにそうですね。
shakke 結局ちゃんと人間的な付き合いをするうえで、その取捨選択はおたがい必要やん。
okadada ただ、それは前提ですけど、オレとかシャケちゃんがいわゆる会社の職場みたいな、どうやっても毎日いっしょにおらなあかんっていう状況になってないから言えることでもありますね。
shakke たしかにそれはそうね。
okadada 学校とかも無理じゃないっすか。
shakke 関係性が固定されてるからね。
okadada そう。毎日1年間とか会わなあかんひとに対してはそういうふうにもいかんというか。それも20代前半でようやくそういうことがわかって、うまいこと距離取れるというか、ひととの距離の取り方がわかったからこそ逆に言えるようになったんかなとも思うんですけど。
shakke なるほどね。岡田さんもそういうとこあるかぁ、やっぱ。
okadada ありますよ、めっちゃあります。だから嫌われるのはイヤやけど、嫌われてもしょうがないなって思うしかないっすよね。どっちがイヤかっていったら、嫌われへんようにした結果、嫌われるのがいちばんイヤやなって思います。
shakke だし、その反面、合うひともたくさんいるだろうしね。“オレみたいなもん、合わなかったら合わなかったで全然いいっすよ”くらいの感じのニュアンスかね。
okadada “またどっかで会おうな”みたいなね。


『テネット』と『ジョジョの奇妙な冒険』


okadada 『テネット』観ました?
shakke あ、観てない。
okadada じゃあいいわ。
shakke 観たんだ?
okadada 3週間ぐらい前に大人数で観に行って。でもそれがよかったですね。あんまり映画ってひとりで観に行くのが多いですけど、あの作品に関してはややこしいんで、終わってからみんなでああだこうだ言う時間のほうがなんだったら楽しいぐらいでしたね。
shakke いいですね。2回目観たりした?
okadada いや、ぼくは1回で。
shakke 何回か観てるひともいたりしますよね。
okadada そうですね。単純にわかりにくい話なんで、2回目観たらこういうことかってことも多いっすね。楽しいと思いますけど、自分は別にいいかな。
shakke 映画自体はおもしろかった?
okadada おもしろかったっすよ、はい。まぁでも、やっぱノーランの映画やなっていう感じ。あらゆる意味でノーランやなって。
shakke 『インセプション』感みたいな?
okadada あぁ、でもおなじですよ。あ、おなじではないか。いや、なんか、こないだパーゴル(PARKGOLF)とかとたまたま会って『ジョジョの奇妙な冒険』の話をしてて。
shakke はいはい。
okadada 「スティール・ボール・ラン」ってあるじゃないすか。ちなみにシャケちゃんは読みました?
shakke 読んでないんですよ。
okadada 『ジョジョ~』全部読んでない?
shakke 全部読んでない。第1部っていうか、最初のやつだけ読んでて、だいたい登場人物はニュアンスでわかる程度。
okadada 「スティール・ボール・ラン」っていう第7部にあたるところが『テネット』とちょっと似てるなってのいうのに気づいたっていう。素粒子とか量子力学の設定を戯画的におもしろく使いながら、それを援用して宗教観を対立させるっていう。そう考えたら「スティール・ボール・ラン」ってそういう話やんって気づいて。それがめっちゃ気持ちよかったっていう。
shakke へぇ。宗教観は『テネット』も強いんだ?
okadada めちゃめちゃ強いです。
shakke そうなんだ。
okadada 時間が反対になるっていう装置が出てくる話なんですけど。それを踏まえて、時間SFとはなにか、みたいな。たとえばパラレルワールドが存在する場合としない場合があるじゃないっすか。っていうことは、これって運命論になっていくんじゃないかっていう。
shakke なるほどね。
okadada 起こることは決まってるのかどうか。もし決まってたとしたらどうするか。これって、ほら、ピンときませんか?
shakke なんですか?
okadada 予定説ですよ。カルバンの予定説。黙示録が来たら天国に行くひとと地獄に行くひとに別れるっていうじゃないですか。でも、それは全部すでに決まってるんじゃないかという説があって。そういうことをカルバンは説いてて、現在のカトリックでは否定されてる説なんですけど、いまも根強く信じてるひともいるという。
shakke いわゆる運命論的なね。
okadada そうです。地獄に落ちるか天国に行けるか全部決まってたとしたらどうする? みたいな。っていうのがプロテスタンティズム。でも、だとしてもよく生きるべきやっていうね。っていうのがね、全体の話になってくるんすよ。でも『メッセージ』とか、原作の『あなたの人生の物語』とかもそうじゃないっすか。もうすでに書かれている未来を並列して見るって話じゃないですか。っていうのがね、なんかいまになって「スティール・ボール・ラン」もそういう話かもってなって。
shakke そうなんだ。
okadada 『ジョジョ~』はめっちゃキリスト教の話が多いんですよね。
shakke デザイン的にもその感じあるよね。
okadada そう。イタリアとか好きですしね。あと、そもそもキリスト教の学校出身なんすよ、荒木飛呂彦って。『ジョジョ~』の第4部からは運命のことについていつも考えてるって言ってて。結局それがそういう話になっていくっていう。
shakke なるほどなぁ。おもしろいね。
okadada これなぁ、読んでたらめっちゃおもしろい話があるんですけど、読んでなかったら言ってもしょうがないっていう。
shakke 次回までに読んでたら話せるね。
okadada フフフ。何巻まであると思ってんですか。「スティール・ボール・ラン」までたしか96巻ぐらいありますよ。
shakke そうだよねぇ。『鬼滅の刃』でもう頓挫してる男ですから。でもね、『ジョジョ~』はいつか読もうかなとは思ってますけどねぇ。
okadada すごいっすよ。だって第6部の敵はもう予定説そのものですからね。究極の敵はもう人間でもないっていう。予定説に抗う話になってて。
shakke それはちょっとおもしろそうやん。
okadada で、そのへんからみんなもうわけわからんって言いだし。
shakke いわゆる少年漫画的な方向とは……
okadada そう。第3部までは少年漫画の王道なんですけど、そこから先は荒木飛呂彦のなかでの“運命とは?”、“人間とは?”みたいなことになって、テーマが深まりすぎて。それでもやっぱりあのひとの力量ですごくおもしろく書けてたんですけどね、第5部ぐらいまでは。6部になるとそこも外れちゃって、青年誌に移るんですよね。でも、6部の最後になにが起こるかを考えると、少年から大人になるっていうわかりやすい流れがあるんですよ。そういうのがなんかね、いいですね。あのひとは映画好きなんで。西洋美術と映画が好きなんですよ、荒木飛呂彦は。いわゆる映画表現的な象徴がめっちゃ多くて、逆にわかりやすいとすら思いますよ。
shakke へぇ。でも宗教画的なモチーフもありそうだし。
okadada 全部はわからんけど、何気ないコマとかでも、西洋美術に詳しいひとからしたらしょっちゅう(引用が)出てくるらしいですからね。
shakke いやぁ、でかい山ですなぁ。
okadada まぁ無理に読めとは言いませんけどね。なんか昨日とか一昨日ぐらいに『テネット』きっかけで素粒子学とか現代物理学のことを調べてて、それから「スティール・ボール・ラン」のことを話したから思い返してて。「スティール・ボール・ラン」に南部陽一郎っていうひとが発見した“自発的対称性の破れ”っていう論理の説明の例えが出てくるんすよ。それでやっとわかったんすよ。これってそういうことやったんやって。
shakke 『ジョジョ~』では明確に意識してるってことだ?
okadada してます、めっちゃしてる。ちょうど今日も読んでたんすけど。もう出てくんすよね、そういう話が。解説みたいなとこで。だからおもしろいっすよね。これは「スティール・ボール・ラン」おもしろいよねって話じゃなくて、『テネット』のことを考えてたら、「スティール・ボール・ラン」で読んだことが、“これといっしょの話やったんや”って、まぁ全部いっしょじゃもちろんないけど、大枠ではおなじことやってるなっていうのが、ひさびさにガチーンみたいな感じで繋がって、すごい気持ちよかったなっていう。


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