なぜ、会計基準の設定機関は民間でなければならないのか?
現在、日本の会計基準設定機関はASBJ(企業会計基準委員会)という機関である。ASBJは2001年に誕生した民間機関で、現在の議長は日鉄物産(株)取締役副社長の石原氏、副議長は有限責任あずさ監査法人専務理事の小倉加奈子氏であり、その他の委員も一般企業の役員や経理部長、大学教授など全て民間人で構成されており、政治家や官公庁の職員は一人もいない。
「会計基準」はビジネスにおいて非常に重要な役割を担っており、企業の経営は会計基準によって大きく左右される。最近では、リース取引を全て「オンバランス」とする基準変更が行われた。これにより、資産をオフバランス(貸借対照表外)化できるというリース取引のメリットが完全に失われ、リース業界全体に影響を及ぼすとみられる。
このように企業経営に大きな影響を及ぼす会計基準の設定機関が、財務省や金融庁といった官公庁によって行われないのはなぜなのか。
その理由は、会計基準の設定に政治的な事情を介入させてはならないためである。かつて日本で、国が中心となって会計基準を設定していたことで起きた問題を紹介する。
1997年、バブル崩壊によって金融機関は膨大な不良債権を抱え、山一証券など大手の金融機関が破綻した。金融機関の危機は日本経済の危機であるため、当時の会計基準設定機関であった大蔵省は、銀行が保有する株式の評価方法を「低価法」から「原価法」に変更することを認める緊急措置を取った。低価法とは、期末の株式の時価が帳簿価格を下回った場合、帳簿価格を時価まで下げて、差額を損失として処理する方法で、それまで銀行に義務付けられていた。一方、原価法は株式の帳簿価格を取得原価で据え置き、時価が帳簿価格の半分以下にならない限り損失を計上しない処理方法である。当然、できるだけ損失を抑えたい銀行は原価法を適用して、本来、価値が下落しているはずの株式は、それまでの帳簿価格のまま貸借対照表に記載され、損失が計上されることはなかった。これにより、銀行は97年度の決算では損失を抑えることができたが、価値の下がった株式を抱えている事実は消えないため、結局将来に損失計上を先送りしているだけにすぎない。
このように、官公庁が会計基準の設定権限を有すると、金融行政、経済政策、景気対策などの影響を受けやすくなってしまう。企業活動や株式市場が国内で完結する場合は、このような形態でも問題は少ないが、近年はグローバル化に伴い、企業は海外との取引が増加しており、海外投資家が日本の株式市場に参入している。上記のような基準変更が、海外企業や海外投資家に受け入れられるはずがない。また、近年は財務諸表の比較可能性を担保するために会計基準を国際的に調和させる取り組みが進んでいるため、国際会計基準へのコンバージェンスを迅速に行うためにも会計基準の設定に政治が介入することは避けることが好ましい。
(この文章は、会計学専攻の大学生が書いた文章であるため、知識不足、調査不足により認識が事実と異なる場合があります。明らかなミスや補足などがあれば訂正してください、、)