クリストファー・ノーランという巨匠について
クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan, 1970年7月30日- )
映画好きなら一度は聞いたことがあるでしょう。
彼こそ映画業界を第一線で牽引し続ける「映画界の巨匠」の一人です。
世界中の映画好きたちを魅了し続けるノーラン監督。
私も例に漏れず彼の描き出す唯一無二の世界観に衝撃を受けた一人です。
好きな監督は他にもいますが、彼を置いて右に出る者はいません。
そうです、彼は私の「最推し」というやつです。
今後、私の記事では頻出待ったなしのノーラン監督なので、手始めに、この記事で彼の「推し」ポイントをつらつら綴っていきたいと思います。
「こいつ相当ノーラン好きなんやろなー」と思っていただければこの記事の勝ちです。
もちろん、個々の作品についても別の記事で語っていく予定です。
信念 -劇場での映画体験を-
映画を観る手段はいくつかありますが、劇場の大きなスクリーンの迫力に勝るものはありません。
ノーラン監督は劇場での映画体験を重んじていて、これまで何度も、映画館に足を運んでくださいというメッセージを発信してきました。
要するに「テレビやスマホじゃなくて映画館の大きなスクリーンで観て!」ということです。
サブスクリプションサービスが隆盛を極めたここ数年においても「ONLY IN THEATERS」を貫いてきました。
コロナ禍で大手製作会社が自社配給作品の劇場公開を早々に配信公開に切り替える中でもノーラン監督の信念は変わらず、未知のウイルスに世界中の人々が怯えていたあの2020年には『TENET テネット』の劇場公開に踏み切っています。
当時は世界中の劇場が軒並み無期限休業していたので巨額の制作費の回収目途が立っていなかったはずですが、その只中にあってなおその信念を貫いたのはあっぱれとしか言いようがありません。
ちなみに、『TENET テネット』のIMAXシアターのオープニング興行収入において、なんとグランドシネマサンシャイン池袋が世界第一位の興収成績をたたき出し、後日ノーラン監督から直筆の感謝状が送られてきました。(グランドシネマサンシャイン・池袋公式X)
日本人としてとても誇らしい気持ちになりました。(もちろん、現物を拝んできました。)
一方で、ワーナーブラザースは、同社製作の2021年新作全てを劇場とHBO Maxの配信で同時公開すると突然発表したことが原因でノーラン監督の逆鱗に触れ、長らく蜜月の関係にあったノーラン監督を失う結果になりました。
(最新作『オッペンハイマー』はユニバーサル・ピクチャーズで製作されています。)
こういう裏話も含めて、ノーラン監督が劇場での映画体験を重んじていることがひしひしと伝わってきます。
ノーラン監督は、嘘偽りのない映像が大きな説得力をもたらすことを誰よりも深く理解しており、その追求は飽くなきものです。
彼を語る上で切っても切り離せないのがIMAXフィルムカメラです。
詳細は割愛しますが、あらゆるデジタルカメラより高い解像度を誇るフィルムカメラのことです。
物理的にフィルムを搭載しないといけないですし、ラージフォーマットゆえにそのフィルム自体も大きいので、とにかくカメラがでかくて重い。おまけに駆動音もうるさい。
そのため、劇場映画作品でIMAXフィルムカメラを使う監督なんて誰もいませんでした。
しかし、ノーラン監督は、IMAXフィルムカメラが切り取る映像の圧倒的な情報量と比類なき美しさが観る者に並々ならぬ説得力をもたらすと考え、あの傑作『ダークナイト』で劇場映画作品として初めてIMAXフィルムカメラを導入しました。
本作の大成功を受け、IMAXフィルムカメラの持つ力に確信を得たノーラン監督は、作品を追うごとにIMAXフィルムカメラの使用シーンの割合を増やしていきました。
ついには、IMAXコーポレーションと共同で様々なIMAXカメラを開発するようになっていきます。
『ダンケルク』では戦闘機のコックピットに搭載できる小型のものを、『TENET テネット』ではリールを逆回転しながら撮影できるものを、『オッペンハイマー』ではモノクロで撮影できるものを開発しています。
この飽くなき探求心、もはや変態です(褒めてます)。
今ではIMAXカメラで撮影したという触れ込みの作品が増えるなど「IMAX」という言葉も広く一般に認知されるようになりました。市民権を得たと言っていいと思います。そして、その発端となったのがノーラン監督なのです。
「WATCH A MOVIE OR BE PART OF ONE」(映画を観るのか、それとも映画の中の一部になるのか)
これはIMAX上映前に流れるもので、IMAXシアターの没入感を見事に言い表した標語ですが、ノーラン監督はこの言葉に最も真摯に向き合っているフィルムメーカーの一人であると言えます。
もう1つ、ノーラン監督の制作理念で好きなもの。
それは「なるべくCGを使わず実写で」というものです。
今の時代、CGで何でも描けるようになったからこそ、この制作理念は非常に重要な意味を持ちます。
というのも、CGは制作時点における最先端技術が用いられますので、制作後しばらくは「最も優れた映像」です。
しかし、時代とともに技術も進歩していくので、いずれその「最先端技術」が最先端でなくなる時が来ます。
そうなるともはや「最も優れた映像」は別のものに取って代わられ、「最も優れた映像」だった映像はどんどん陳腐化してしまいます。
一方、実写で撮影した映像は、いくら時が経っても取って代わられるものではありませんので、いつ見ても映像が陳腐化しないのです。
CG技術もない(ましてや宇宙の映像を誰も見たことすらない)1968年に公開された『2001年宇宙の旅』が映し出した宇宙空間の映像が今なお鑑賞に十分以上に耐えうるものであることを考えれば、この話がお分かりいただけると思います。
CG盛り盛りのド派手な映像ももちろん好きですが、やはりノーラン監督の制作理念に最も強い共感を覚えます。
ノーラン監督を語る上で外せないもう一つの要素。
それは「時間」をテーマにするという作家性です。
長編デビュー作『フォロウィング』では、時系列をシャッフルすることで、パズルさながらに物語の全貌を次第に明らかするという展開にしてみせました。
次作『メメント』ではさらに、記憶が10分間しか保てない主人公の「ここはどこだ。俺は今まで何をしていた」という混乱を追体験させるため、時系列を「ラスト→冒頭→ラストの少し前→冒頭の少し後→…→中間」という入れ子構造にしてみせました。
『インセプション』では、流れる時間の速さが異なる夢を多重構造的に描くことで、別の時間軸にある複数の展開を一つの立体的なストーリーに組み上げてみせました。
『インターステラー』では、アインシュタインの一般相対性理論を正面から取り上げ、地球に残された者と惑星間航行する者との間で広がっていく時間のズレを描いてみせました。
『ダンケルク』では、世紀の救出作戦と称されたイギリスの「ダイナモ作戦」という史実を、陸の視点(1週間)、海の視点(1日間)、空の視点(1時間)という量の異なる時間を組み合わせて描いてみせました。
そして『TENET テネット』では、時間は伸びたり縮んだりするが過去に進むことはないという「時間の非対称性(時間の矢)」をイマジネーションで打ち破り、「時間の逆行」という未知の世界をCGなしで描いてみせました。
このように、ノーラン監督はしばしば「時間」を作品のテーマに取り入れており、作品を追う毎により挑戦的な姿勢でこのテーマに臨んできたことが分かります。
それも『TENET テネット』でもはや行き切ってしまった感はありますが、誰も見たことも想像したこともなかった未知の世界を再び私たちに見せてくれる日が来ると信じてやみません。
(早く『オッペンハイマー』を公開してください。ユニバーサル・ピクチャーズさん何卒お願いします。)
軽めのご紹介にとどめるつもりでしたが、そうは行きませんでした。
非常に長くなってしまいましたが、ノーラン監督の素晴らしさが少しでも伝わっていたなら幸いです。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
今後もノーラン監督の過去作をご紹介する記事がいくつも出てくると思いますが、ぜひ温かい目で見守ってやってください。
ではまた次の記事でお会いしましょう。