Vtuberの配信を誤解して心が壊れた話

初めに
令和6年10月25日、Vtuber事務所ホロライブを運営するカバー株式会社が下請法違反で公正取引委員会から勧告を受けた。

それ自体はこの記事となんら関係のないことでここに記すのは極めて個人的な筆者の過去、とある仕事を退職するに至った経緯である。また、この記事はカバー株式会社、ホロライブ所属配信者の名誉を毀損する目的で執筆したものではないということをここに明記しておく。



前置き1 ホロライブ「清掃員事件」

 2020年某日ホロライブ所属の配信者が配信内で清掃員への職業差別とも取れる発言をした。この件はホロライブ清掃員事件として切り抜き動画が動画サイト上にアップされたりX(旧Twitter)や5ちゃんねる、まとめサイトなどで拡散され炎上することとなった。

筆者はこの事件をリアルタイムで追っていたというわけではなくVtuberに特別詳しいわけでもないので発言の内容や経緯についてはここでは詳しく解説しないが配信者本人がこの発言の真意についての謝罪と釈明をしているので気になる方は調べてみてほしい。

 ここまで読んだ方は察しているかもしれないが、筆者は2020年頃、まさに清掃の仕事に就いていた。上記の件を知ったことが清掃の仕事を退職する大きなきっかけになった。



前置き2 清掃員という仕事

皆さんは清掃員という仕事にどういうイメージを持っているだろうか。
・大変そう
・汚れやゴミを相手にするのでなんとなく汚い
・そもそも清掃の仕事についてあまり深く考えたことがない

今回執筆するにあたってネットで検索してみるとそんな意見をよく目にした。正直に言うと筆者もこの仕事に就く前同じようなイメージを持っていたし実際に清掃の仕事を始めた後もそれはあまり変わることはなかった。

そもそも清掃員を始めたきっかけもそこに夢ややりがいを求めていたと言うわけではなく、コロナ禍の影響で以前の仕事が続けられなくなり近場ですぐ始められる仕事が清掃だったというだけの話である。清掃の仕事を高尚だとか過度に美化したような物言いをするつもりはないということを理解していただきたい。



本文

さて、前置きが長くなってしまったが本題に入ろう。

 筆者はコロナの影響で以前の仕事が続けられなくなり清掃の仕事を始めた。2020年の初夏の頃だったか。それまでは飲食の仕事をしていた。学歴もなく特別な技術もない、コロナ禍で求人自体も減っている中でなんとか見つけたのが清掃の仕事だった。

前職の出勤時間が昼過ぎからだったこともあって清掃の仕事に慣れるまではなかなか苦労した。
何せ早い日は朝5時から出勤し現場を回らなければいけなかった。同僚との年齢の違いも悩みだった。同僚の年齢層で一番多いのは定年後のアルバイトで入った60代で一番若い人でも40代後半だった。当時20代の私はことあるごとに「若いんだから」と言われ続けた。体が仕事に慣れるまで苦痛の1つだった。コロナが落ち着いたらすぐに転職しようと心に決めていた。

仕事以外の時間はスマホに触れることが多くなっていた。
コロナ禍での自粛やシンプルに遊びに行くほど金銭的な余裕がなかったことが大きな原因だ。とはいえ元々インドア趣味の筆者にはそれほど苦痛ではなかった。

YouTubeをよく見るようになったのはコロナ禍と仕事の合間にそこそこ長い休憩を挟むことが多くなったからだ。インドア派とはいえそれまでYouTuberやVtuberの動画というのはほとんど見たことがなかった。知らなかったからこそ多くの配信者が活動しているYouTubeは暇潰しに最適だった。
仕事間の細々した十数分単位の休憩時間もいわゆる切り抜き動画などを見るのにちょうど良かった。

 三ヶ月も続けているとどんな仕事も慣れるもので朝早い出勤もすっかり日常となっていた。
肉体的に大変なのは相変わらずだし職場の人間関係は良いとはいえないもののそれなりに上手い付き合い方というのもできるようになってきた。
やりがいなんて言えるほどたいそうなものではないけれど汚れた施設や溜まったゴミを処分すると気分が良いし朝から働いて夜は早めに横になるのもまぁ悪くない。元々掃除自体は嫌いじゃなかった。
休憩時間は自由に過ごせるのでスマホでSNSや動画を見てリフレッシュするのもルーティンの1つになっていた。

 時が過ぎ2021年の夏、1つの転機が訪れる。件の「清掃員事件」を知ったのだ。
再三になるが筆者は清掃の仕事を特別だとか人に尊敬されるべき仕事だと思っているわけではない。一年ほどの経験しかない自分が偉そうに語れることではないが肉体的にも大変で汚れて汗まみれにもなる仕事だ。どれだけ頑張ってみても多くの人は目もくれないような仕事だ。とはいえ自分たちがいないと施設を綺麗に使えないのだし縁の下の力持ちとちっぽけなプライドを持つことくらいは許されるだろう。
少なくとも筆者はそう思うようになっていた。

「20年経って清掃員(笑)」「やだな、自分の子供に語った後にパパ何やってるの?って聞かれて清掃員だよって答えるの」

上記のとおり筆者が清掃員事件を知ったのはひとしきり騒動が終わった後だ。
この発言には清掃員を侮辱する意図はないという意見もありまた当人の謝罪文にも誤解を与えたという記載があるので悪意を持っての発言というわけではないのだろう。

正直仕事に対して悪口を言われただけなら別に気にしなかったと思う。
ただ笑われた事が悲しかった。


私が必死に1ヶ月働いて稼ぐお金は彼女たちの1日にも満たないのかもしれない。彼女たちはスターで多くの人を配信を通して幸せにできる能力を持っている稀有な人間だ。対する私は技術も目標もなく汗まみれになりながら日銭を稼ぐ下級な人間だ。私がどれだけ丁寧な仕事をしたところで誰の心を動かすこともできないいくらでも替えが効く人間だと自覚している。
住む世界が違うのだから何を言われたって別に気にする事じゃない。それなのに雲の上の人間に自分のしている仕事を笑われること、なぜだかそれが私の心に大きなモヤを作った。

重ねて言うが配信内の発言はゲーム内での別の配信者に向けて行われたもので清掃員という職を侮辱するものではないとしている。
「清掃員自体は良い仕事だと思うよ」というフォローもしている。

発言を誤解してしまった私が悪い。これはそれだけの話なのだ。何度もそう自分に言い聞かせていたがそれでもあの笑い声がいつまでも頭に残り続けた。

次第に仕事へのモチベーションが低下していった。
モチベーションが低下すると仕事の嫌な部分が目につくようになる。その度に彼女たちの言葉と笑い声が頭に響いた。
YouTubeのコメント欄、いろいろなサイトの過去ログを見た。擁護するコメント、批判的なコメントがたくさんあった。何を期待してそんな事をしていたのか今はわからない。ただ当時はずっとそうして過ごしていた。
いつもこなしているはずの業務が何をしているのかよくわからなくなった。夜遅くまで寝付けない事が多くなった。それまで1度もしてこなかった遅刻をしてしまった。ミスが増えた。通勤するのが今までにないほど億劫になった。
仕事を始めた当初より明らかに迷惑をかける事が増えた。
心療内科にも通って睡眠薬をもらったが副作用なのか体が一日中だるく仕事にならなくなった。
辛い、というほどではないけれどなんとなくやる気がない日々が続いた。
休憩時間に動画を見ることはもうなくなっていた。

もう続けられないなと悟り、退職を決意した。



最後に

 再三になるがこの記事はVtuberへの誹謗中傷を目的として執筆したものではない。
どのみち清掃の仕事は退職していただろうしそれが少し早まっただけだ。何よりもこれは私が彼女らの発言を誤解してしまったが故であり私以外の誰も悪くない。
今回のカバー株式会社の件を見て当時の事を思い返したのでnoteを使って心のモヤモヤを吐き出し自分の気持ちに一区切りをつけたいと思ったのがこの記事を執筆した動機である。

最後に至らぬ駄文をここまで読んでくれたあなたに心より感謝する。
                            令和6年10月25日



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