VCとしてWeb3事業の特徴を概観する
こんにちは。
Skyland VenturesアソシエイトのKOJOです。
最近考えていることを整理しておこうと思い、パソコンに向かいはじめました。今回はWeb3事業の特徴を概観していこうと思います。その過程でWeb3に投資するVCの視点やマインドセットを盗み見してもらえれば幸いです。
Skyland Venturesにお世話になってからちょうど9ヶ月が経ちました。去年の年末時点では、cryptoの知識もVCの知識も全くなかった身だったのですが、入ってみたらあれよあれよと色々なことを学んでいくことができました。なによりSkylandの環境が良かったからだと思っています。いい環境があったからこそ、自分自身のcrypto/VCへの興味がうまくドライブしたと思っております。
まだまだcrypto歴浅い・コード叩いていない・PMやBDも全然分かりきれていない若輩者ですが、冷静に自分を見た時、「cryptoとVC業務を両方経験している学生ってめちゃめちゃ少ないのでは」と思ったので、なにかしらインターネットの皆様に見識を共有できればと思い、書いている次第です。
自己紹介
そもそも、Web3プロジェクトとは
そもそもですが、Web3のプロジェクトには色々なセグメントがありえます。その整理からはじめましょう。
Coinbaseの上記の記事における画像のように、プロジェクト自体にいくつかのレイヤーがあり得ます(この表の内容もいまや古いかもしれませんが)。いくつかのレイヤーに関する解釈はあり得ると思いますが、なによりこのようなレイヤー構造としての業界分析が重要だと思います。
アクセスレイヤー
ウォレットやブラウザのようなユーザーの最初へのタッチポイント
CEXや暗号資産そのもののトレード運用系
Web2とWeb3の間のような事業(オフチェーンがほとんどの事業)
ユースケースレイヤー
GameFi系のゲーム事業、X to Earn系
SocialFi系事業、ソーシャルアクティビティでのcrypto利用、Airdropマーケティング等
NFT系事業、コンテンツIPなどの活用、NFTマーケットプレイス、RWA
DeFi系事業、レンディング、ステーキング、ファーミング、Insure等
インフラレイヤー
Swap、Bridge、チェーン内/チェーン外取引の事業
Audit(コントラクト監査)、セキュリティソリューション
分散型ストレージ、IPFSのようなハードウェア接続系の事業
プロトコル設計上の問題へのアプリケーションレベルからのソリューション(MEVなど)
DuneやNansenなど、オンチェーン分析を提供する系事業
SnapshotやAragonなど、DAO tooling系事業
Web3 Gameなどの開発プラットフォーム
ENSのようなIDを利用する事業(DID, SSIの系譜)
プロトコルレイヤー
レイヤー1ブロックチェーン事業
レイヤー2系スケーリングソリューション系事業
IBC インターオペラビリティ系事業
App specificチェーン系事業
ミーシーであるか自分でも不安なところがありますが、なんとなくのイメージとしてこのような分割ができるかと思います。
このような整理の上で、VCがリアルに投資を決めていく際にどのような判断をしているか、少なくとも日本にいるVCで一番Web3に投資を決めているであろうSkylandでの体感は以下のようなものです。
そもそも、Exitをどこに設定しているか
Web3の世界は、よくデイ1からグローバルで戦っていく必要がある、というような話がありますが、このような発想はそもそもIEO/IDOなどでグローバルExchangeなどにトークンが上場できるという前提が走っています。その前提を破棄した場合は、たとえば既存のWeb2事業同様、IPOを目指すというモデルを選ぶこともできます(その場合はグローバルマーケットを狙うインセンティブは現行の日本市場では薄いかもしれないです)。
そもそも、どの分野の事業を選ぶのか
上記で整理したような4つのレイヤーでは、そもそもの事業の収益構造も違えば社内でのデベロッパー/BizDevのあり方も異なると思われます。起業家はそもそも「Web3で起業するぞ!」と思った際にどの領域を選ぶべきなのでしょうか。
投資家として全般的に言えるものとしては、まだ勝者の決まっていない領域でいち早く起業してしまうということだと思います。例えば新たな勃興チェーンにおけるエコシステムプレイヤーを狙う/新たな存在しうるエコシステムのチェーンを作ってしまう/足りていないインフラ部分の欠陥を解決するソリューションを作る/新しいトークン規格を利用して新たなユースケースを作り出す、などです。
プロトコルレイヤーの事業をすると決めた場合、たとえばレイヤー1チェーンとしての事業をするとなるとトークン発行(≒IEO/IDO)はMVPのローンチに近いニュアンスになる上、そのチェーン上でのエコシステムの発展がそのままトランザクション手数料の増加、自社トークンの価値向上につながります。トークン上場が最終的なゴールとなるようなユースケースのプロジェクトや、そもそもトークン発行すらしないNFTマーケットプレイスのケースとは大きくトークンのあり方もプロジェクトの規模感も異なります。近年ではzkRollup/OpitimisticRollup系のレイヤー2プロジェクトが盛り上がっていますが、そのようなプロジェクトの成功にはひとえに技術面/BizDev面の強みが必要となっています。zkRollupの方が技術的優位性があるため注目を浴びている面がある一方、BizDevが強く多くのユーザーにチェーンを利用してもらえるようになっているPolygonのようなチェーンも存在します。また、インターオペラビリティを加速させることによる発展を目指すチェーン(Cosmos等)も存在し、彼らの戦略もまた別の視点が必要になるでしょう。依然として完全なる勝者は出てきていないものの、競合の多い市場です。
インフラレイヤーの事業をすると決めた場合、多くのケースでは専門的な知識、それもスマートコントラクトへの深い理解や暗号学などの専門知識などが必要になる場合が多いと考えられます。この点はプロトコルレイヤーにおいても同様ですが、海外のプレイヤーなどを眺めていると、暗号学のPhDや凄腕のスマコンエンジニアなどがごろごろいるレイヤーこそインフラレイヤーであると考えています。一方で、専門知識さえあれば、このフィールドは問題の方向性が一定定まっている部分もあるので起業家にとっては非常に戦いやすい分野であると考えられます。例えば、Ethereumのヴィタリックブテリン氏はEthereum開発のエンドゲームを以前から公開しており、その上では現行のEthereumエコシステムにおける問題点を明らかにしています。その中で示されているような問題点や、日々のプロダクト開発でアプリケーション側が依存しているインフラの問題点などは、多くの場合自明なものです。そういった問題を解決できるプロダクトを作ることができれば、一気に世界にリーチできるチャンスが生まれるでしょう。
ユースケースレイヤーで事業をすると決めた場合、プレイヤーの数は上記のレイヤーたちと比べて格段に増えます。トークンのトレード/DeFi/NFT/SocialFi/GameFiのいずれであっても、多くの場合は技術的な優位性は生まれにくく、いかにプロダクトがマーケットでウケるのかという観点も必要になってきます。ゆえにWeb2での発想に近いロジックが働きやすいとも言えますが、NFTのセールにしろトークンのローンチにしろ、Web3特有のトークンインセンティブ設計やコミュニティ参加型のマーケティングなどが必要になってきます。どのチェーンで戦うのか/地理的にはどのエリアで戦うのか、といったマーケティングのセグメントが存在し、また顧客となるユーザーに関してもゲームギルドのようなゲーマー系コミュニティ/NFTへの投資家系コミュニティ/DeFiなどでトレードやステーキングをしているトレーダー系コミュニティには大きなペルソナの違いがあるでしょう(ただし、顧客の共通点としてCryptoへの投資家であるというポイントがあります)。技術的な競合優位性がないとは言ったものの、日々新興チェーンの登場や新たなトークン規格の登場などでインフラが改善されています。このようなインフラの発展を岐路にユースケースレイヤーでも新たなプレイヤーがその発展の恩恵を受けたプロジェクトをリリースし、覇権を取りうると思います。
アクセスレイヤーに関しては、よりカオスな展開があり得ると思いますし、Web2と絡める場合であれば多くの可能性があると考えられます。ウォレットに関してだと、近年注目があったアカウントアブストラクションなどの方向性で、技術的な発展性が見込めるでしょう。その他、弊社投資先のあるやうむ(NFT×ふるさと納税)や、NOT A HOTELのようなRWA系事業も、ある意味ではWeb2の資本との調停などがあり、今後の新たな事業の可能性を提案しうるテーマが眠っているようにも思えます。また日本にはGinco、HashPort、Gaudiy、フィナンシェなどなど、多くのWeb2との協業・提携を実現している会社が存在しているのも事実です。
Web3世界におけるVC
以上のような整理のもと、Skyland VenturesのようなCryptoに投資するVCも大きな変化や課題に直面しています。
前述した通り、そもそもリターンをトークンで受け取る必要があるというような、抜本的に既存のエクイティビジネスと異なるスキームを引く必要があるということ。上場のサイクルがエクイティよりも早く、1-3年での上場がプロジェクトによってはあり得るということ。日本をはじめとして世界各国でこのWeb3に関連する税制・法整備が追いついていないということ。そしてなにより、ここまで業界分析をした上でも、どの領域のプロジェクトが大きなリターンを生み出すのか、そのリターンに関わる先行事例やベンチマークがまだまだ少ないため未知数であるということ。
引き続き、研究していく必要があるのです。
以上。