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第9回ゲスト:”こなつ”さんと”との”さん(渋谷/もしくは/私/たち/は/何も知らない)「演劇って、その場所の中にいないと触れられない」 聞き手:山本真生
年始に王子小劇場で開催される『見本市』
活動最初期にあたる9団体を選出し、ショーケース型の公演を行います
【公演詳細】
「見本市2024」
2024年1月5日(金)〜9日(火)@王子小劇場
みなさん、はじめまして。インタビュアーの山本です。
みなさんが今回の見本市で、初めてお目にかかる団体の、
お芝居の魔法に、より染まっていただきたく思い、
「見本市2024」に参加する方へのインタビューをしてきました。
第9回目のゲストは渋谷/もしくは/私/たち/は/何も知らないのこなつさん、とのさんです!
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【ゲストプロフィール】
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こなつ
『渋谷/もしくは/私/たち/は/何も知らない』のメンバー。高校2年生。 今回の公演では主に役者を担当している。
渋谷/もしくは/私/たち/は/何も知らない https://twitter.com/Shibuyamoshi)
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との
『渋谷/もしくは/私/たち/は/何も知らない』のメンバー 今回の公演では主に戯曲のまとめを行う。
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会話をする時間が第一優先
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との:『渋谷/もしくは/私/たち/は/何も知らない』は渋谷パルコにあるGAKUという10代向けのクリエイティブスクールで行われていた「新しい演劇のつくり方2022」というクラスで集まったメンバーと「劇団をつくらない?」と話したことがきっかけで出来た団体です。出来たばかりで、まだ実績もありません。
「新しい演劇のつくり方2022」では、去年の12月から今年の7月にかけて、岡田利規さんの『三月の5日間』をみんなで読み、そこからみんなで話し合ったり、班になって戯曲を書いたりして、新しい演劇を立ち上げていきました。
そしていよいよ上演となった時に、「このまま終わったら、もう二度と会わないことになりそうだな」「じゃあ劇団作ろうよ」と話が起こり、その時みんなで作った演劇のタイトルが『渋谷/もしくは/私/たち/は/何も知らない』だったので、それを名前に団体が作られました。
こなつ:実績もまだ無いまま、とりあえず劇団名を決めて、インスタを開設してみたりしました。
との:劇団として形が固まっていない状態なので、いまはまだ自己紹介として出来ることが確立できていないなと思います。
こなつ:私は今17歳で、高校2年生です。
小さいときにお母さんに、帝国劇場での『レミゼラブル』を観に連れて行ってもらい、そこから演劇が好きです。
ちゃんと関わり始めたのは、インスタの広告を見てGAKUに参加してからで、脚本を書いたりしたのも初めてでした。
との:私がGAKUと出会ったのはTwitterの宣伝からで、本当に偶然だったなと思います。GAKUの空間は、みんな優しいというか、それぞれ考えを持っていて、そしてそれを言葉にして伝えることを拒まない。学校やどの場所とも違う、共同体で創作するのに必要なことが守られているような場所でした。
こなつ:私は広告で見ただけだったので、初めは結構怖かったんですよね。
『三月の5日間』は内容が内容だったし、警戒していたんですけど、始まってからは、みんなの本名も年齢も、どこで何をしている人なのかも知らない人ばかりだったけど、喋っていて安心できる場所だなという印象に変わりました。
との:多分、会話をする時間が第一優先に捉えられているというのが大きいのかなと思っています。一つの演劇を立ち上げていくにあたって、時間のない中、話が横道にそれるような瞬間もあったりしたのですが、そこで会話を無理やり終わりにするんじゃなくて、なるべく徹底的に話し合う。それを大切にできるように講師の先生が交通整理をしてくれたこともあって、安心して進めていける場所になったのかなと思います。
こなつ:ほんとうは戯曲の話をしないといけないけど、それをしないで全然関係ない話をしているのが何日も続く班もあって、それを無意味だとはみんな思っていなくて、何を話しても意味があるものとして捉えてもらえて、自分の中で昇華して、「講師たちが、私が喋っていることを意味のあることにしてくれる」という信頼感があったので、会話できる安心感につながっているのかなと思いました。
言葉で伝えることの強さ
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こなつ:渋谷の道端で演劇をいつかしてみたいと思っています。
あとはライブをしてみたいという子や、詩集を出したいという子もいます。
との:核になるのは、ひとりではなく集団でやるということにあるのではないかなと思っています。この団体では、作品に至るまでの「過程」を「つながるための手段」として捉えていきたいです。
こなつ:これからも見本市2024のような機会があったら出られるといいなと思っているし、この団体の子たちと演劇をちゃんとやれているなと思うので、これからもたくさん演劇作品を創って、少しずつ大きくなればいいなと思っています。
との:生計を立てられるお仕事とかじゃないけど、これって生きていく手立てなんじゃないかと思う気持ちもあります。それにみんなでなれたらいいなと。メンバー以外の人とも繋がりあって、生きていけたらいいなと思います。
だから「誰かひとりがやりたいことにみんなが従うという形」にはあまりしたくないなと思っています。
こなつ:「ひとりが」というふうにはならないようにしています。
みんな過ごしている環境が違うので、上手くいっていないこともあるんですけど、ひとりが全部やるという形は、みんな防ごうとしている気がします。
演出家と脚本家がいて、役者の役割をする人がいた方が絶対に効率がいいし、楽ではあるかなとは思います。
との:でも、この団体でやりたいことは作品を完成させていくこと、ではないと思っています。まだ取り留めも無く、形に残るような功績もないですが、この先どう変わっていくのか、ということも含めてみんなで探って行きたいです。
言葉で伝えることには強さがあるから、それをもっと届けたいひとに届くようにしたい。でも演劇って、その場所にいないと触れられないものだから本当に届けたいはずの人には届かないような気がして、もどかしいです。
演劇って何か
との:リレー形式で脚本を書いていて、今はリレーが終わって、纏めようとしている段階です。
メンバーは12人いて、今回忙しくて参加出来ない人が4人ぐらい。その人たちを除いたメンバーで書きました。
見てみて、「演劇って何か」と戸惑う感じに、私はなりました。
「戯曲としての形になっていない言葉の連なり」という感じが今はあります。
こなつ:リレーで書いたらみんなの言葉が散らばってあって、言葉ひとつひとつはすごく良いのですが、演劇としてストーリーや軸が確立していない部分もあって、それをどうにかしようとしているところなんだと思います。
との:リレーと言っても、他の人の言葉を消したり、付け足したり、自由な形でやっているので、「誰がどの言葉を書いているのか」「どんな意図で書かれているのか」が分からないという感じです。
ひとりひとりにWordを手渡しして、書けたら回していくという形を取っていました。
闇鍋みたいなもので、「どうにかこの言葉を拾って、戯曲の形に出来るのか」という感じです。今はまだ出来ていないんですけど。みんなで今、「どうしよう」となっています。
こなつ:今回はまだ直接みんなと会っていなくて、電話で話していたりするのですが、電話のコミュニケーションは難しいし、意味が無いことではないけど別の話題になってしまって、戯曲の話をするのが難しくなっています。
との:家もみんな遠いし、会える機会が無くて。
中学生のメンバーもいて、みんなの生活と、創作のバランスの取り方に悩んでいるという感じです。
すごく実験的なことをしているとは自分たちでも分かっていて、綱渡りな感じです。
こなつ:負担を均衡させるのは絶対に無理だし、どこかで誰かが戯曲を組み立てようとして苦しんでいると思うし、難しい。
「一緒に生きていく」ということが「生きていけること」
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との:今回は何も無いところからリレー形式を始めました。
こなつ:演出のアクションとしては、前回GAKUでやったものと似ているものもちらほらあったりして、大まかな雰囲気は前回と近いものがあると思っています。混沌としているし、みんなが言いたい酷い言葉を無責任に殴り書いて去っていった印象がある。尖った言葉が散らばっている。ただ、役者同士のコミュニケーションが無いことが、今感じられる一番の問題点かなと思います。
前回の公演でも掛け合いがあったわけでもないし、演技で観客を取り込んでいくのが、みんな、好きではあります。
との:みんな苦しみにフォーカスしすぎだなと思ったりもします。吐露している感じ。でも普通に生きている中で感じている、それぞれが言葉にしていないことが顕在しているのかなと思ったりする。誰かに訴え掛けているように感じられる言葉もあって、祈りみたいなものを感じたりもします。
こなつ:私たちの脳内って感じです。今回は特に、頭の中の自分同士の対話みたいな感じかな。
との:多分本来なら1体1で話すようなことを、なんとか演劇の形にしていこうとしているような気持ちです。
言葉を伝えるために使うのと同じように、いろんな表現の手段があるのだと私は思っているのですが、それ以前に、それぞれの生活があって。限りある時間の使い方も、大事にしたいものも違う。
忙しい日々の中で、取りこぼしていく言葉を形にしようとしてみる、だけどそれには必ず、生活に対する犠牲が発生してしまう。
その犠牲を許容させるため、社会的な意味に必要とされて「その場にある」こと、をできるようにする。だから今は演劇の形としてこの作品を作らないといけないのはどうしようもなく事実だと思っています。
伝えることを通して「一緒に生きていく」ということが「生きていけること」なのかなと思います。だから、この公演を観にきてくれる方にも、作品対鑑賞者の関係性だけではなく、自分たちが時間を共有して一緒に生きている、ということを体現できたらいいなと思っています。なかなかうまくいかないことですが、それに向き合いたいです。
こういうことをしないと、命に関わる感じ
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――お二人にとっての演劇の原体験、芝居初めを教えてください。
こなつ:小学生の時にミュージカルを観て、丁度同じくらいの年の子が出演していたのを見て「羨ましいな」と思いました。
ミュージカルが好きでよく観るのですが「羨ましい」「私は舞台に立ったり出来ないのに、いいなあ」と思います。小学二年生くらいの頃からやりたい気持ちがあったので、特に行動しないままここまで来てしまっているから、悔しくて、広告で見つけたちょっと怪しいなと思っていたGAKUに参加したりしました。高校では演劇部に入っていて、先輩の卒業公演で主役をやらせていただいたり、GAKUでの演技経験が初めての経験でした。
私は結構、「ジェラシーがあるからやってる」みたいな感じです。
との:初めて演劇に触れたのは、中学三年生の時でした。父の友人が役者で、その公演に連れて行ってもらったのがきっかけです。
「こんなことが世界にあるのか」と思ったのが、始まりですね。
この自分がいるところ以外の世界、というものが演劇によって作り出されていて、その中で人が生きていて会話をしたり生活をしている。
現実なのに現実ではない時間を共有している中で、自分のこれまでの時間と重なるような感触があったり、なぜかはわからないけどずっと心に残る言葉があったり、自分自身とは違う場所から他者や自分を見つめているような感覚がありました。
結局は、「やりたいな」と思ったからやっているんだと思います。
それで高校の演劇部に入ったりして…
続けていく、という覚悟や意思があるのかと言われたら不安になってしまいますが、覚悟や意思を持たないとやれないようにはなりたくないとも思います。
自分の言いたいことを形にしようとした時に、演劇は一番近いのかなと思っています。同じ空間で時間を共にするということにすごく興味を感じています。
「こういうことをしないと、命に関わる感じ」もします。自分を失わずに、社会で生きていくためには、必要なものなんだなと思っています。
それにこの団体の、みんなに話しかけたら応答がある環境というのは、生きていく手立てになるなとも思っています。
こなつ:今までに所属したことのないコミュニティだと思うし、ここにいるメンバーと似ている知り合いもいないんですよ。
私はみんなとは違って、みんなは戯曲にいつも言えないことを言っているんだと思うですけど、私はみんながしているような話を他の人からも聞いているので、「ほんとうはみんな考えていることは同じなんだな」と確かめる機会になっています。
私の高校の友達と全く同じことをメンバーが言っていることもあって、特殊なコミュニティではあるけど、実はそんなに尖った人たちではない、普通の人たちだなと思っています。
報われる公演になったらいいな。
――見本市2024をどのように芝居染めをしようと思っていますか。
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こなつ:お客さんと滅茶苦茶、目があって、何かを伝えられているという実感が欲しいし、お客さんにも何かを持って帰ってほしいです。
みんなもすごく苦しんでいるので、それが報われる公演になったらいいなと思います。自信を持って、バチバチになってほしいです。
との:この先どうなっていくのかドキドキですが、その道のりもみんなで一緒に探していきたいです。また劇場でおあいしましょう!