2021年11月11日の乾杯
11月11日の乾杯。たとえ一時的であってもコロナが下火になって、少しだけいろんなことが昔に戻り始めた今日この頃。今回はふたりが観に行った吉例顔見勢大歌舞伎のあれこれをメインディッシュに、おじさんが観たぱぷりか『柔らかく搖れる』のことやserial number『すこたん』などについても、また、新たに体験するエンターティメントのハードルについても語り合っています。
👨演劇のおじさんと
👩おねえさんです。よろしくお願いします。
👨今日はちょっと遅めですね、時間的には。日をまたいでしましたが。
👩おねえさんがちょっとバタバタしていたのでね、そうなっております。
👨はい。
👩皆様はね、いつものように乾杯を一緒にしていただければと。
👨はい。では、乾杯。
👩乾杯。
👨もうコロナもね、次があるかもしれないけれど、今はすっかり収まりましたね。
👩そうですね。いやぁ、ほんとに。いろんなものが、少しずつ進んでいくのかなぁという雰囲気を感じますね。
👨実際、いろんなものが少しずつでも動くようにはなってきましたものね。
👩そうですね、それはとてもうれしい。
👨お芝居なんかでも、まだどこかゆったりはしているのだけれど、お客さんがそちらにちゃんと動くようになってきたよね。
👩そう、舞台でも興味を惹くものがどんどん出てきているから。
👨うん。
👩その中で、私たちはね。
👨そうですね。歌舞伎を観に行ってまいりましたけれど。
👩はい、行ってまいりました。私たちは別々の回に同じ舞台公演をみることも多々あるのですけれど、今回はね、せっかくというこで一緒に行ってまいりました。
👨ちょっと頂き物の切符があったのでね。
👩ありがたいことです。
👨はい、ありがたいことに。
👩タイトルはなんでしたっけ?
👨えーとね、『花競忠臣顔見勢(はなくらべぎしのかおみせ)』というやつですね。
👩はい。これは忠臣蔵が元になっているというか。面白いなぁとおもったのですけれど、これ、あれなんですね。皆さんが知っている大石内蔵助の忠臣蔵、それとは少し違っていて、名前もそもそも違っているし、時代も違っていて南北朝のころの設定で。
👨ああ、そうですね。江戸時代は起こった事件のことをあからさまにそのままやったら即お縄ですからねぇ.お上を批判するとはとんでもねぇ輩だみたいな話になってしまうわけで。
👩で、大石内蔵助さんは大星由良之助さんとして。あの、なんかね、着眼点というか描き方が私は凄く好きだなぁと思っていたのですけれど。いわゆる義士本人たちではなく、その周りの人たちの様子を描くことで、なんていうんだろう、本人だったりもするのだけれど、その周りの人のことというか、討ち入りの時とかも、その討入りそのものではなくて、隣家の、しかも表立って味方をするわけではないが理解のある人たちの側からの話になっていて、そういうところから忠臣蔵を追っていくっていうのがとてもよかったなぁと、凄く面白いなぁと思って観ていました。
👨私も忠臣蔵の詳細というか、序段がどんな話で二段目がどうでみたいなことを知っているわけではないので、落語に出てくる七段目がどんな場面かもおかる勘平がどんな物語かも全くわかっていないのであれなのだけれど、それでも浅野内匠頭が殿中で刀を振り回して切腹になったところから最後は家臣が吉良邸に討ち入って首を泉岳寺に持っていくくらいの顛末は一応知っていたので、そのおかげでやっていることがその筋の中に織り込まれた新しいエピソードだということも分かったので。で、頼りになるイヤホンガイドさんもばっちり装着していったので、ほんと面白く拝見しました。
👩そうですね。
👨語りも竹本で綴ったりとか、それは常磐津や長唄でというような派手さはないのだけれど、人形浄瑠璃を見せるようにシンプルに語っていくので、物語を追えましたよね。
👩うんうん。最初の場の始まりがすごく好きだったな。その人形浄瑠璃のものを踏襲してではないけれど、幕が上がったとき、
👨はいはい。
👩最初はお人形ということで板についた俳優達が顔を伏せて、目を伏せていてね。そして浄瑠璃というか語りのなかで登場人物を紹介していくと、そこに魂が入って物語が始まっていくという演出がすごく好きでしたね。
👨うん、あれは良かったですよね。
👩凄く良かった。本当に役者さんに魂が入っていくという
👨その魂の入り方というのが、やっぱりもう、観る側をドキドキさせますよね。
👩うん、本当にっっ。
👨ちょっとした所作だったりとかするのだけれど、それまでは飾り物だったものが生きたというのがわかる感じがするのは、ほんと私も大好きでしたよ。
👩うんうん、とても良かった。
👨まあ、歌舞伎の筋立てらしく、そうやって最初に見たシーンは夢だったというね。私は舞台に「心」という文字がどんと出てくると、それは夢オチだということをイヤホンガイドに教えてもらって初めて知りましたけれど。
👩うふふ。
👨まあ、歌舞伎というのは、そういうルールで成り立っている世界でもあるので、それをひとつずつ知るのも楽しいし。
👩うん、面白かった。
👨でもなんか、今回というのは若い俳優達に大きなお役を振って経験を積ませるみたいなことでもあったじゃないですか。
👩はいはい。
👨確かに50代とか60代とか更に齢を重ねてね、年季を積んだ俳優さんたちの醸す味わいというのは間違いなくあるんだけれど。歌舞伎の俳優さんには亀の甲より年の功みたいな感じで舞台にあるだけですでに世界を作ってしまえる人も、それよりも更に円熟している人もいるんだけれど。一方でこれからそうなるために切磋琢磨している人も綿々と並び、また受け継がれもしていて。それこそ、幸四郎さんとか猿之助さんとか、ああいうクラスになってくるといらっしゃるだけで舞台に華があり、ぱっと見栄を切って頂いただけでも彼らならではの世界というのができてしまうから観る側もそれに委ねる幸せを味わうのだけれど、今回はそれよりもう少し若い世代の俳優さんが大活躍の舞台だったじゃないですか。まあ幸四郎さんや猿之助さんとかも出ていたけれど主役ではなく敵役だったり脇に廻っていてね。
👩うんうん。
👨主役は若い世代の俳優さんが担っていた。で、帰ってからググってみたらだいたいみんな1990年から92年、3年生まれなのよ、二役とか三役を担う人は。
👩へぇ。
👨たとえば最初に出てきた板東新悟さんは1990年生まれだそうだし、あとたとえば尾上右近さんが出ていたじゃない。
👩うん。
👨彼は1992年生まれ。あとお役を複数されている役者としては中村隼人さんが1993年生まれだし。一役だけれど美しい女形をやっていた中村米吉さんなども1993年生まれって書いてあったし。彼らはさ、もうね、これから役者としての華をグイグイと身につけていく年代の人たちだと思うのね。で、その人たちが力をつけることができるようなお芝居を1本作ったのではないかなぁと。あと松竹では毎年新春に若手の歌舞伎をやるじゃないですか、浅草公会堂で。
👩はいはい。
👨そういう機会を作って俳優達に大きな役を担う力を更につけていく、そういう戦略があるような気がして。また観る方にとってもそうやって精一杯やって踏み上がっていく役者のすがたというのは観ていてとても楽しかったりするしね。そういう意味でもほんとうにいろんなタイプの特徴や味わいをもった歌舞伎があるのだなぁと知ってそれも面白かったですけれどね。
👩うん、すごく。久しぶりにそういうエンタメを観た。安心感があるというか、あの、貰うものはちゃんと貰うんだけれど、喰らわないからさ、歌舞伎って。
👨ああ。
👩安心して観られる。伝統ものは安心して観られる。
👨うん、たとえ生首が出てきても、それはそれで受け入れられるものね。
👩うん、そうですね。
👨ハリウッド映画やB級映画で血まみれのぐちゃぐちゃのものが出てくるのとは違うものね。
👩うん、話が違う。だし、そのもう、なんて言うのかな、難しいと思うとおもうのですよ。歌舞伎ってやっぱり、見続けていて思うけれど、観てないとわからない事ってあるし、勉強がいるじゃないですか、楽しく観るためには。もちろん、そういうことのためにあれがあるのだけれど。
👨イヤホンガイドがね。
👩イヤホンガイドがあるのだけれど、なんかやっぱりそのまま観ていた方が、知っていた方がもっと楽しめる文化ではあるじゃないですか。
👨はいはい。
👩知識があった方が楽しめる。続けて観ればみるほどより面白さがわかる。
👨どんどん深みにはまって行くみたいなね。
👩うん、そうそう。でもね、でもね、脈々と昔から続いてきたものだから、受け取り側が少し続けて観るだけで、やっぱりとても安心して観られるエンタメだなぁというのは毎回思うんですよね
👨うん。あと、どの舞台にも目を奪うシーンや決まるシーンが間違いなくあるからね。
👩ありますねぇ。
👨あのさ、最後の場で、とーんと光が入った瞬間に目に飛び込んでくる、義士がそろいの火事装束で居並ぶ姿の美しさね。
👩うん。
👨あれはやっぱり心をギュッと掴まれるものね。
👩うん、掴まれましたね。壮観。
👨やっぱり、なんだろ、例えば西洋のミュージカルとは違うインパクトのある美しさですね。
👩はい。
👨もちろん、灯りなんかもちゃんと使っているのだけれど、単にその灯りだけではない、そこに役者ひとりひとりの貫禄が全部板に乗っているのが浮かび上がるわけじゃないですか、あのシーンで。あの場面で。
👩うん。
👨それとさ、歌舞伎座は今回も回り舞台でどんどん場を作って。贅沢だよねぇ。
👩贅沢ですよね。もうそれだけでわくわくするし。今回のは場転が多いから。場面の展開が多いから、そういう。そのセットチェンジだけでも、けっこうわくわく。想像力をかき立てる、世界が広がっていくなぁと思いながら観ていましたね。
👨場面転換のところで物語を切ってしまうのではなく、場転をやりながら舞台上では物語を続けたりすることもあったしね。
👩そうそうそう、見続けられるというか。よかった、そういうのも凄くよかった。
👨殺陣もたっぷり楽しめたしね。
👩そうですね。
👨その中でも強く感じたのは、俳優達がキャリアを積んでいくということでどんどん支えられ広がっていく世界の良さ。観客として、別に何十年も観てるわけでもないのに偉そうなことを言ってはいけないのだけれど、だけどそういう役者さんの育ち方っていうのも見続けていれば楽しいのだろうなぁと改めて思う。
👩思いますね。
👨まあ、落語なんかでもそうなのだろうけれどね。
👩うんうん・
👨噺家の方もやっぱり前座から観ていて、二つ目になって真打ちになるのをみる方っているわけじゃないですか。そうすると、もう噺のやり方も変わっていくし、その人物の捉え方なども明らかに肉付きができて豊かに変わっていくから、同じ噺家さんが話していても、全然違う噺になってきてというのが当たり前にあるので。で、その人たちがいつかは大看板にも名人にもなっていくわけじゃないですか。
👩ええ、そうですね。ほんとにさ、いろんな人に歌舞伎を観て欲しいなぁって思いますもの。観ている人は観ているのだろうけれど、実はそんなにハードルというか敷居の高い者ではないから、観ていろんな人とこれはどうだったといろんな話ができればいいなぁと。観ている人ほどそう言うよね。普段凄く歌舞伎に触れていてという人よりは、こう、わからない、わからないけれどイヤホンガイドを借りて楽しんでいるよ、それでも凄く楽しいよっていう人がもっと増えたらいいのにって。私もそう思う。
👨うんうん。
👩まあ、ほんとは歌舞伎座にはお着物を着て観に行きたいけれどさ。あそこはさ、お着物に関してもプロでしょう…。お着物にもいろいろルールってあるじゃないですか。堅苦しいものではお着物だってないのだけれど、でもまあ、ハレの日のね、日常とかちょっと違うというところヘ行くときに、ちゃんとしていないと「まあ、あの人・・」と言われるかなって思ってハードルは高いのだけれど、やっぱりお着物を着て観に行ったりしたいなぁと凄く思いますよ。
👨ああ、けっこういらっしゃいますものね、お着物で来られる方って。
👩いらっしゃいますね。そうそう。特別な日として、ハレの日として、こう着たいなぁとは思います
👨特に贔屓の方ができたりすると、やっぱりちゃんとしてとかなってくるのかも知れないですけれどね。
👩うんうん。
👨でも、ああやって、贔屓を見つけて育つのを見守っていくなんていうのは一生の楽しみや支えだからね。同じ話になるけれど、若い頃母親に連れられて歌舞伎座に来た娘が若い役者とめてとめて、あの人素敵だから贔屓にしよって心を決めて、やがて30になって40になって50になるに従って、俳優も同じように齢を重ね、力をつけていくわけじゃないですか。そうして70になったときに大名跡を継いだ役者のことを娘や孫に話してさ、「あの人の若い頃にやった道成寺はね、それはもう綺麗だったのよ」とか言うわけですよ。なんか、それって人生を歩む位のスケールで歌舞伎と寄り添っているわけじゃない。人生にそういうものがあるって素敵だなぁって思うんだよね。
👩うんうん。というかね、本当に素敵なのよ。キラキラしているのよ。観ている人たちがさ。凄くいいなぁって思うんだ。
👨みんなが終演後に降りてくるとき、2階席だったからさ、エスカレーターのところで3階席からの人と交わるんだけれど、その降りてくるときの顔がみんなとてもいいんだよね。
👩そう、にこにこなんだよね。綺麗なんだよね、みんな。おめかしもしているじゃないですか。素敵、ああいうのはほんとに素敵。
👨だから早く、食事もねぇ、昔のように復活してほしい。今は第一部と第二部のあいだとか、第二部と第三部の間に食事をするような感じだけれど、昔というかコロナ前は昼の部と夜の部にそれぞれ3つぐらいの演目があって、その演目の間に30分くらいの休憩があって食事をしていたじゃない。
👩でもね、食べたりもしていたけれど、あの時間ではちょっと短いよね。
👨うん、それはね、まあ。
👩だってさ、ご飯はしっかり出るんだよ。
👨あははは。
👩入らんがなってなる。そんなん間に合わんがって。だってもうギリギリ、けっこうギリギリだったよね、食べ終わると。
👨そうそう、ぎりだったよね。
👩ご飯を食べていても、ああ急げ、もっと急げみたいになる。
👨そう、予約したところに駆けるように行って、座ったら、お茶を注ぐのももどかしくすぐ喰えみたいなかんじだったものね。
👩そうそう。はい、はい、はい食べろ、それ食べろみたいな感じでね。
👨でもその割には幕の内弁当なんかでも結構しっかりしていて、そんな簡単には食べ尽くせない量だったものね。
👩ほんと、美味しく頂けるのだけれど、ただ、時間はない。すごく急げという。だからさぁ、客席横の枡席ならお弁当を運んでくれていたから,あそこの席はいいなぁと思っていた。
👨いや、別に一般の客席で食べてもよかったのよ。今はもちろん場内お食事禁止だから持ち込むこともできないけれど、コロナ前はデパ地下で買って持ち込んでもよかったし、売店なんかでも幕の内弁当を売っていたし。
👩ああ、そうだ。だけど枡席で食べるというのは夢があるよね。
👨確かにあれはいいよね。
👩ちなみに枡席っていくらするのですか。
👨普通の一等席の1.3倍とか1.5倍かな。
👩いや、ちょっと調べますわ。
👨だから1等席が15000円の回だったら20000円とか18000円だったら23000円とか。
👩それってひとりでしょ?ふわぁ。ちょっと調べてみよう。
👨でも、今は来日ミュージカルだってそのくらいはするじゃない。オペラだと30000円くらいはざらだと思うよ。
👩それはそうだけれど。「初心者の歌舞伎鑑賞」だと・・・、桟敷は20000円だねぇ。これってお弁当が付いているわけではないんだよね。お弁当は別に頼むんでしょ?
👨もちろん。コロナ前は歌舞伎座内のお店から取り寄せができたんですよ。ちょっとお高めのお弁当を。
👩そうか、でもいくらかかるんだ。凄いよね。
👨きっと昔は結局お弁当を頼んでくるような人たちって会社の重役とか商家のご主人とかだったのよ。そういう方が見に来たり、時にはお得意様の接待とかにも使っていたらしいのね。その時からの伝統でそういうお高い設定になっているのだとおもうけれど。
👩で、今さぁ、ちょっとチケットを観ているのだけれど、1等席が18000円、2等席14000円、三階A席6000円、三階B席4000円、一階桟敷が20000円と。で一幕見席が800円から2000円って書いてあるのですけれど。
👨はい。
👩いま一幕見席ってやっているんですかね。
👨やっていないはず。劇場の前にあった並ぶところもなくなっていたし。
👩各部のなかでも幕ごとにそこだけを観ることができるという席ですよね。
👨私、昔あのあたりで仕事をしていたことがあって、その時にはたまに会社をさぼって一幕見で観てたよ。
👩ふむふむ
👨一幕だけ見ようって、時間つぶしに。
👩へぇ!
👨昔々ね、ちょっと営業に近い仕事をやっていたことがあって、そのオフィスが銀座でね。で、行ってきますってお客様のところにでかけるのだけれど、お客様がいなかったり商談が早くすんじゃうことって往々にしてあったのよ。
👩はい。
👨で、もう時効だから言えるけれど、会社に帰っても勿論いいのだけれど、会社に帰らなくてもそれほど目立たないしバレないから、ちょっと一幕見に寄り道したりもしてたのね。
👩ふんふん
👨まあ、映画を観に行ってもよかったのだけれど、映画館だと会社の人に合う可能性が高いし、仕事上サボっているのがばれるとあんまりよくない日なんかもあって、そういうときには歌舞伎座で時間を潰したこともあった。まあ、その当時なんかは今にも増して歌舞伎がなにをやっているのかわからなかったけれど、歌舞伎座の中の華やいだ雰囲気だけでも好きだったから。だから、しょっちゅうではなくほんの年に何回かだったけれど一幕見をしてたよ。
👩うふふ。
👨あの、いけないサラリーマンだったから。
👩いやぁ、おしゃんだね。粋なサラリーマンだね。
👨とくに昔の銀座っていうのはそういうことができる街だったんですよ。
👩そうなんだ。
👨時間が空くと画廊を覗いてまわっているとかいう先輩もいたし。
👩ふむふむ
👨会社も黙認していた部分もあったしね。そういう時間も社員の教養として蓄積されていくわけだし。たとえばお客様の偉い人と話をするときでも、そういうことがきっかけでお互いの趣味が合うと、いろんな話もしてくれたりもするわけじゃないですか。
👩うんうん。
👨だから、直接の取引先ではなかったけれど、仕事関係の方で能が大好きな方がいて、いやぁ私は能を観たことはないけれど歌舞伎はたまにみるんですよみたいなことを言うと、歌舞伎にも連獅子のように能舞台のような作りのところで演じることがあるでしょとか教えてくれたり。けっこう偉い方だったのだけれど、共通の趣味があると気さくに話をしていただけることも多いしね。能を観に行きませんかって誘われたこともあって、ただ眠くなりませんかって訊いたら、間違いなく眠くなりますって断言されてね、で、間違いなく眠くなることがよくわかったけれど。
👩うふふふ。
👨同じように、美術とか好きな方もいらっしゃるから、どこどこ画廊でやっている個展はいいですよみたいな話を伺ったりもしたよ。
👩そうなんだ。
👨特に古い会社っていうと語弊があるけれど、銀座って、そんなに大きくはないのだけれどひとつのことを長くやっている会社ってあるんですよ。ちょっとこじんまりした会社なんだけれど、創業以来ずっとそこに腰を落ち着けてやっているような会社っていうのが。そういうところの社員さんにはしっかりと銀座での楽しみをお持ちの方もいらっしゃって。だから、そういう方とお知り合いになると、直接に仕事の関係がなくなっても、年末とかに忘年会とかいって飲みにいったりもしたし。異業種交流会とかいうのとはちょっと違うけれど、気が合う方で飲む機会っていうのも作って貰えて、いろんな話ができて楽しかった。まあその中から、小劇場演劇もおもしろいんですよって、甘言を弄して悪の道、いやもとい、新たな世界に誘った人もいたし。
👩うんうん。
👨まあ、仕事といえば仕事でのお付き合いなのだけれど、そういう中に文化の匂いがちょっと入っている世界っていいじゃないですか。
👩そうですね。
👨私の仕事が銀座から離れてからはご縁もなくなってしまったけれどね。
👩ああー
👨そうそう、話は違うけれど、というかさっきの芝居のキャリアの話でもあるんだけれど。
👩はい。
👨若い演じ手とキャリアを積んだ演じ手ということでなるほどねと思ったお芝居があって。今こまばアゴラ劇場でぱぷりかという団体が『柔らかく搖れる』という舞台をやっていて。それって割合と若手の俳優と、小劇場などでそれなりにキャリアを積んだ俳優が一緒にでているんですよ。で、家族や親戚の間での群像劇みたいな話なんだけれど、たとえば同じ年代の女性を演じるにしても若い俳優と小劇場でキャリアをつんだ俳優の間では、なんだろね、その搖れ方の肌触りが違うというのを凄く感じて。若い俳優たちは、その搖れを淡々ときれいに、クリアに演じているんですよ。だけど、たとえば、家の年老いた母親を演じたelePHANTMoonの菊地奈緒さんとか、パチンコに依存してしまう家の次女を演じたカムヰヤッセンにいたししどともこさんとか、あと青年団の堀夏子さんには、その解像度に加えてキャラクターの綺麗じゃない部分というか、なんだろ、地の部分みたいなところが若い俳優とは違う形、精度というか色のグラデーションで染みだしてくるのよ。
👩うんうん。
👨ほんとにそこはもう演技のことで、俳優がそれぞれに求められているシーンに対してやっていることだとは思うのだけれど。でもなんか、歌舞伎を観てこの舞台を思い出すと、ああ、演技というのはそうやって経験を積めばつむほど奥に広がっていくのだろうなぁとは思ったのね。
👩うーん。
👨若い俳優さんたちもそれぞれに上手い俳優だなとは思ったのだけれどね。まあ、菊地奈緒さんとかししどともこさんなんかはけっこう昔から舞台を拝見しているし。それは用松亮さんなんかもそう。堀夏子さんや矢野昌幸さんもそうかな。一方でヌトミックの深澤しほさんとかのように最近知って注目している俳優さんや初見の若い俳優もご出演で、彼らはワンジェネレーション下なのだと思うのね。そうすると、したたかな戯曲を足場にそれぞれにしっかりと人物を受け取れるお芝居だったのだけれど、なんだろ、そのキャラクターの存在がそのままに印象づけられるのか、あるいはたくさんの舞台を踏んだ方々のようにその人物から滲み出す怠惰さとか想いのなかの鈍の部分とかに染められてしまうのか見たいな違いはやっぱり感じたので。でも、それは芝居の中では、優劣というのとは違って演出家が俳優の引き出しと戯曲の組み立てをすりあわせながら役をはめ込んでいったのだろうなみたいなことは思って。
👩うんうん。
👨だから、そうやって俳優達が戯曲に交わり役を重ねて進化していくっていうのは歌舞伎でも今の小劇場でも同じなのだろうなぁって思った。
👩ふんふん。
👨で、もっと言ってしまうと、それはこの間見てきたserial numerの『すこたん』でも思った。
👩観たかったなぁ。観れんかった。滅茶滅茶観たかった。
👨ただ、私にとってはなんかやっぱり違和感は残る世界のお芝居ではあって。というか登場人物たちのように私はゲイではないのですよ。だからゲイの引き出しで表現されたものはやっぱりわからないところがあるのね。
👩うん。
👨ない袖は振れないというか理解できない棚に置かれたものの話という感じは残ったのだけれど、だけどあの舞台の凄かったのはそうしてわからないにもかかわらず、そのひとりずつが持っている痛みとか戸惑いとか、そういうものが伝わっていたから、やっぱりそのあたりは俳優の人にも力があるし、詩森さんもすごいなぁとはおもったけれどね。
👩うんうん。
👨その、観る側にそれを収納する場所がない物語であっても、そこに降りてくる感覚はちゃんと観る側に渡してくれるようにお芝居を作ってくれるわけで。そうすると、たとえばLGBTと呼ばれる必ずしも私にはない価値観や感覚を持っている人たちも、私と同じように生きることについて向き合っていることのあたりまえというか、人間として生きて行くことの普遍みたいなことがすごくよくわかるので。
👩はい。
👨それは、詩森さんがすごくきちんと、彼女の作劇の技術を駆使して構築した世界だからなのだろうなと思った。見応えがありましたね。また、俳優もベテランと若手のバランスが凄く良くて、若い彼らはさっきの話のように、この舞台を経験にしてさらに良い役者になっていくのだろうなと思った。
👩うん、なんかいろいろと話し合いをしていただいたものもゼロにして更に書き直したみたいなことも書いてあったし。
👨うん、私も読んだ。
👩いやぁ観たかったけれどね。舞台に対するこの、私の小劇場の舞台を観るハードルの高さってなんなのだろうと思って。観たい気持ちはすごくあるんだけれど、
👨こないだも行っていたよね。
👩一回離れちゃうと、どうしてこんなにハードルが高いんだろうと思いますね。あのさ、普通の人が、こう舞台を観るハードルって高いと思っているっていうのがとてもよくわかるの、最近。
👨あぁ。
👩なんかね、うーん、自分本位でっていうのかわからないけれど、こう自分が好きなように受取れるエンタメが他にもあるんだよね。ただ、舞台には舞台にしかないものがあるのはもちろんわかっているんだけれど。なんだろうね、このハードルの高さ。心のハードルの高さね。その予約をしたりとか、別に実際そういうのはあってもそんなのはたいしたことではなくて。いや、でも、あるなぁ。心のハードルはあるなぁ。あの、強いんだろうね。貰うものが強いからこそというのもあると思うんだけれど。
👨うん、その小劇場の、えーと上手く言えないな、その毒じゃないけれど、その滲み出してくるものってあって、おねえさんはそれを知っているが故にみたいなところがあるのかもね。食事にしたってそうなのだけれど、たとえばとても刺激の強いカレーって美味しいのだけれど体調によって食べられない時ってあるじゃない。
👩うんうん。
👨香辛料の強いカレーって美味しくて一度食べたらまた食べたくなって嵌まることもあるんだけれど、暫く食べるのが厭になることもある。なんかそれに近いことなのかもしれない。
👩うん。
👨多分あれなんですよ、小劇場って元々確かに敷居が高くて、どんなものかわからないから入れないという人も多いんだけれど、それって誰もが大丈夫で乗り越えられたわけじゃない。たとえば私にとって歌舞伎だって最初はそうだったわけで。歌舞伎座って中に入ったらどうなっているのかなぁとか、どういうしきたりがあるのかなぁとか、なにをどう観ればいいのかなって考えるわけじゃない。そこに敷居の高さを感じたりもするわけで。それはおねえさんの小劇場の場合、暫くぶりに足を踏み入れるところあっても同じなのかもしれない。私もはじめてひとりで歌舞伎を観に行ったときってけっこう怖かったし。まさかそこで会社をサボろうなんて思いもよらなかったし。それを言い出したらロンドンで初めてミュージカルを観に行くときもすごく怖かったし。学生の時だったからまだおぼつかない英語だったし、中にはどういうしきたりがいあるんだかみたいな世界だったからね、あれも。
👩うーん、うん。
👨だけど観ちゃえば別にどうっちゅうことはないわけですよ。
👩そうそう、そうなの。観ちゃえば、観ちゃえば、そうなの。その、なんか力が強いから、観る前のほうが、こうなんて言うのかな、ハードルが高いと思ってしまうみたいね。
👨まあ、人によっては寄席なんかもそうみたいね。
👩ああ。
👨常設の寄席なんかに落語を聴きにいくっていうのも、ハードルが高い人にはハードルが高いみたいで。座って笑えばいいんですよっていわれても、いやぁなんかそういうものじゃないって。どんなふうに笑えばいいのかわからないって。そんなあほなですけれど。
👩うーん、そうねぇ、そうね、そうねぇ。
👨で、そういう話をしだすと、私ね、今度浪曲を聴きに行くんですよ。
👩はぁ、それはもうハードル高って思うよ。
👨うふふ。いや、たまたま小劇場の女優さんが弟子入りして浪曲師になられて。
👩ああ、なるほど。
👨で、一門会があるっていうことでその方からご案内をいただいて。私的には初浪曲。もうすでにちょっとドキドキしているもの。
👩うふふ。ああ、いいですね。楽しんで来てください。
👨はい。面白かったらお誘いしますよ。
👩あと狂言とかもけっこうハードルが高くみえるじゃない。
👨うん。
👩わからないだけなんだけれど。知らないだけなんだけれど。お能はけっこうハードル高い。実際に観ても難しいってなるんだけれど、狂言とかはめちゃくちゃわかりやすいから。
👨ああ、そうなんだ。狂言もね、実は殆ど観たことがないんですよ。
👩いや、狂言はおもしろいですよ。狂言はめちゃめちゃわかりやすい。
👨このあいだ京都に行ったときに、たまたまガチに狂言師の方がE9でコントの公演をやっていて、時々古典的な所作も取り入れたりもしていて、それはもうわかりやすくて面白かった。
👩ふーん。
👨その終演時の挨拶で、私たちは狂言もこんな風に面白いって思って貰えるようにこのような試みをしているんですよみたいなこともおっしゃっていたから、きっと狂言もおもしろいんだろうなとは思うんだけれどね。ただ、機会がなくて行けていないけれど。
👩いやぁ、あれは面白いよ。あれはけっこう新たなもの。自分にとって新しいものはおもしろいからね。
👨ああ。
👩知らない世界というのはね。どんどん観て判断していきたいなぁとおもいますけれどね。
👨まあ、それを言い出したら、歌舞伎にしたって今回みたいに忠臣蔵の元ねたがあって、そこから派生していろんな新しいものが生まれてきたりとかもしているし。
👩なんかさ、いろんなところで歌舞伎って、別に歌舞伎座だけではなくてさ、やっているわけで。今やっているかはわからないけれど,例年国立劇場でもやっているみたいだし、あとコクーン歌舞伎みたいなものもあるし。
👨はいはい。
👩まあ、そういうところの観やすい奴、低めのね、ハードルも金額的にも若干はね、そういうところから観てもらってみたいな。で、是非、いっぱい、いっぱいみんなとお話しをしていきたいぞって。こうみんな歌舞伎はどう思うって。歌舞伎どうよって。歌舞伎人口がもっと増えたらいいなって思うし、そういうのでハードルが低くなっていけばいいなって。
👨まあ、そうですよね。
👩それは小劇場でも同じなんだけれどね。また自分にも思うし。ハードルはわかるよ、凄くわかるけど面白いよって。うふふふ。
👨いやぁ、まああれなんですよ。お馬さんだって水の前に連れて行くまでが大変なんですよ。
👩そうそう。にんじんを食べながらね、水を飲みにきてくれるまでは時間がかかるの。
👨ほらほら、こっち、こっち、こっちみたいね。
👩うんうん。
👨逆にいっぺん嵌まってしまうとね。こちらの手綱に関係なく走って行ってしまうけれどね。で、動かなくなるし。
👩おじさんとかもそうだものね。
👨うん、そのとおり。頼まれないにんじんまで食べてがぶがぶ水飲んだりしてね。
👩うふふふ。いやまあ、でも、とにかく。とにかくなんか、もっと観て欲しい。今さぁ、まあ私たちが観た時って平日で人も少なかったんだよね.まあ座席を減らしているというのもあるけど。もっと観て欲しいってすごく思っちゃったな。
👨一階席でもけっこう席が空いてたものね。
👩うん、空いてた。全然空いてましたよね。あんなガラガラで。元々観た時ってコロナはまだなかったから、めちゃ込んでいたじゃないですか。ぎゅうぎゅうよね。
👨うん。
👩いまなんて隣とかが空いているから、なんなら最初に観る分にはさ、緊張感が少なくて良いかも知れないと思うの。
👨うふふふ、そうよだね。
👩まあその分演目とかが少なかったりね、短かったりね、昔とは違うスタイルではあるけれど。
👨まあ、コロナ前みたいにね,昼夜興行のそれぞれに演目が3つあって片方観るだけで4時間とか言うのも、それはそれでけっこう体力を消耗するけれどね。
👩うん。もうへっとへとになりますからね。あの、そういうのを観たことがあったけれど、へっとへとでしたよね。終わったらもうなにもできない、帰ったら寝たいみたいな。
👨よろよろと歌舞伎座から出てきたもの。
👩よろよろよろ、疲れたって。
👨私なんかはチョコレートでもなんでもいいから甘い物を食べないとうちまでたどり着けないみたいなね。
👩カロリーって。でもとにかく面白いですから、ほんとに歌舞伎もいかがですかっていう。
👨今回のおじおねは歌舞伎お勧め回ですね。
👩そう、歌舞伎お勧め回ですよ。
👨だから、さっきも言ったけれど浪曲もおもしろかったらまた誘いますよ。
👩ああ、是非是非。
👨講談がおもしろいことはわかったから。
👩ふーん。
👨春に神田伯山先生を三鷹で聴いて。落語とはまた違う切れのよさなのね。
👩うーん。それはまた別に話したいな。私も一度観に行ってから。
👨はいはい。そちらの機会があればお誘いしますので。
👩是非。皆様も新しい世界に旅だってみてはいかがでしょうか。
👨まあ、コロナはどうなるかまだわからないけれど、今のように少しずつでもこの調子で終息してくれるなら、私たちの毎日も元へと戻っていくだろうし。やっぱり歌舞伎は大向こうから声を駆ける人がいるのを聴きたいですよ。
👩そうですね。大向こうが掛からないとやっぱりね、物足りなさが残りますものね。
👨役者が見栄を決めてもね、澤瀉屋!、高麗屋!、中村屋!とか声がかからないとね。
👩やはりやはり。さてさて、今回は歌舞伎お勧め回ということでまとまったので、今夜はそろそろ終わりにしましょうか。
👨はい。そうですね。それでは演劇のおじさんと
👩おねえさんでした。みなさんも新しい世界に踏み出してみませんか。
👨そうですね。ではおやすみなさい。次回もお楽しみに。
(ご参考)
・吉例顔見大歌舞伎 第三部
花競忠臣顔見勢(はなくらべぎしのかおみせ)
2021年11月
序幕
第一場 鶴ヶ岡八幡社頭の場
第二場 桃井館奥書院の場
第三場 稲瀬川々端の場
第四場 芸州侯下屋敷の場
第五場 同 門外の場
大詰
第一場 槌谷邸奥座敷の場
第二場 高家奥庭泉水の場
第三場 元の槌谷邸の場
第四場 花水橋引揚げの場
配役
顔世御前後に葉泉院/大鷲文吾 尾上右近
河瀬六弥 笑也
源蔵姉おさみ 歌之助
高師直/戸田の局/河雲松柳亭 猿之助
晋其角 猿弥
大星由良之助 歌昇
井浪伴左衛門 錦吾
桃井若狭之助/清水大学 幸四郎
足利直義/お園 新悟
寺岡平右衛門 宗之助
大星力弥 鷹之資
塩冶判官/槌谷主税 隼人
龍田新左衛門 廣太郎
赤垣源蔵 中村福之助
小浪 米吉
・ぱぷりか『柔らかく搖れる』
2021年11月4日~15日@こまばアゴラ劇場
作・演出:福名理穂
出演 :菊地 奈緒(elePHANTMoon)
用松 亮
堀 夏子(青年団)
ししど ともこ(カムヰヤッセン)
廣川 真菜美
矢野 昌幸
岩永 彩
深澤 しほ(ヌトミック)
桂川明日哥
関 彩葉
・serial number 『すこたん』
2021年10月28日~11月7日
@中野ザ・ポケット
作・演出 : 詩森ろば
原作 : 伊藤悟・簗瀬竜太全著作
出演 :
鈴木勝大
近藤フク(ペンギンプルペイルパイルズ)
根津茂尚(あひるなんちゃら)
佐野功
大内真智(水戸芸術館専属劇団ACM)
中西晶
辻井彰太(シヅマ)
工藤孝生
河野賢治
吉田晴登
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