2023年3月2日の乾杯
2023年3月2日の乾杯。日差しもだいぶ春めいてきた今日この頃。おねえさんやおじさんが観てきた舞台を、あれこれいろいろと寄り道もしながら話します。
👨演劇のおじさんと
👩おねえさんです。こんにちは。
👨こんにちは。3月ですね。
👩そうですね。少しずつ暖かくなってきましたね。
👨ここ数日は特にね。ただ、もう何度か寒い日は来るみたいだけれどね、天気予報だと。
👩ああ、えーとなんだっけ。寒の戻り?
👨寒の戻り。うん、そうだと思います。それとか三寒四温という言葉もありますし。
👩うんうん、三寒四温。えーと三日あたたかいと・・。
👨えっ、そうではない。三日寒いと四日暖かい日がくるとという。三日暖かくて四日暖かいとずっと暖かいのだけれど。
👩ああ、そうか、ずっと暖かくなるわけではない。
👨まあ、ずっと暖かい方がよいですけれどね。
👩うふふ、そうですね。
👨最近はどうですか?なにかご覧になりましたか?
👩あぁ、行きましたね。ちょっと母のお付き合いで、久しぶりにアイドルの方とかもでるエンタメのお芝居を観ましたね。
👨ああ、素晴らしい。美男もたくさん出てくる舞台ですね。
👩うふふ、そうですね。
👨面白かったですか?
👩ああ、なんか、舞台とかをやっていない方だったりとか、初めての方とかもいらっしゃったので。でも、なんか、演劇というよりは見世物としてはとても満足度の高いものでしたね。
👨ああ、なるほど。
👩なんていうんですか、ほんと、エンタメという感じでした。お芝居とかは、やっぱりこう、頑張っていらっしゃるという感じでしたけれどね。
👨うふふ。
👩うん、頑張っていらっしゃるなという。
👨なかなか、わかりやすい表現ですね。
👩それはね、だってね、ずっとやってきた方とだと、比べるあれが違うのだと思うのですよね。
👨ちなみになんという舞台だったのですか?
👩なんという・・・、なんか英語のタイトルでね。STU48の方も出ていて。あの、あれでやっていたのですよ、新宿の南口から歩いていう・・・。
👨会場?
👩えーとね?あれですよ。
👨たとえば・・・、モリエールとか。
👩いや、そっちの方向じゃなくて。西口とか南口から新国立の方に歩いていく。そこそこ大きい・・・。
👨新国立劇場まではいかないのね?
👩そこまでは行かない。そのずっと手前。
👨SPACE・ZERO?
👩そう、SPACE・ZERO。
👨ああ、SPACE・ZEROね。SPACE・ZEROは暫らく行っていないなぁ。でも、昔からいろんなものを観てはきていて。
👩そう、私も久しぶりに行きました。「キントト」以来かな、それもだいぶ昔だったはずですけれど。キントトも面白かった。
👨あそこは、最近私にご縁がないだけで決してホールではないものね。いろんな意味で良い劇場だと思うのだけれど。
👩良いホールだと思う。
👨えーと、今ググってみたのだけれど、SEPT presents『FATALISM ≠ Re:Another story』という公演だね。
👩そう、それです。
👨でも、最近はいろんな舞台があって、ますます選択肢が増えてきましたよね。アイドルの方とか、声優の方が物語を紡ぐ舞台もあって。
👩ああ、そうそう。そうなんですよ。
👨そういえば、先週Mrs.fictionsの『15 Minutes Made』が本多劇場であって、
👩ああ、はいはい。
👨今回は一劇団、声優の方たちの団体が参加されていて。朗読劇みたいなことをやられていましたものね。
👩うんうん。
👨あの緒方さん、エヴァンゲリオンのシンジ君の声をやられている。
👩緒方恵美さんですね、私の大好きな。
👨あぁ、そうなのですね。彼女が主宰をされている団体が参加されていて。
👩へぇ、そうなのですか。
👨『15 Minutes Made』、ほんと面白かったですよ、ご覧になりました?
👩いや、観ていないですね。
👨これまでにも増して6団体が悉く違って面白かった。
👩へぇ。
👨トップバッターの「ロロ」はずっと観続けている劇団なので、ちょっと奇抜な部分があって違和感なく15分という枠に盛り付けられたその味わいをたのしむことができたし、「演劇集団キャラメルボックス」も久しぶりに観て
👩ああ、キャラメルボックスさん。
👨復活キャラメルボックスさんが2番目で。3人芝居だったのだけれど、スティックで大きな缶を叩いたりもして、どこか骨太な安定感があって、さらにはそこには演劇をがっつりとやってきた集団ならではの厚みがあるんだよね。
👩うふふふ。
👨15分であっても物語は起承転結が際立って観る側に渡されるし、それを自然に追わされる感覚がずっと残るし。
👩うんうん。
👨3番目には小野寺ずるさんが主宰に加えて作・演出もしている「ZURULABO」があってね、
👩あぁ、はいはい。
👨かなりぶっ飛んでいる構成ではあるのだけれど。どこか少女漫画にも通じるよな薄さをもった高貴さと、下世話を通り越して身も蓋もないような生物学的なお話が彼女の創作というか15分の物語の中にちゃんと共存するんだよね。
👩ふふ。
👨多少好き嫌いは出るかもしれないけれど、私にはとても魅力的。で、休憩をはさんで後半最初がさっき言ってた声優の方たちの団体、「ブリーズアーツ」でね。
👩うん。
👨改めてだけれど、声優さんの声での表現ってやっぱりすごい切れ味の武器だよね。
👩いやぁもちろん。そうですね。
👨ほんと、そう思った。
👩うん。
👨彼らは、若干のしぐさはするにしても、基本的には台本をもって、マイクの前に立って演じるのだけれど、
👩あぁ、はい。
👨そうであったとしても、演劇とは感覚が違うのだけれどドラマの中にいる体感がちゃんとあって。観ていて一つ思ったのは、アニメって画像を観ている意識が強いのだけれど、実際には声優の方々からもらっている部分がものすごく大きいのだなぁと思って。
👩いや、それはもちろんですよ。ちなみに私はアニメが好きなのでね。
👨私もFire TVなんていうものを購入したので、アニメを放送時間に縛られることなく、時にはまとめ観なんかもできるようになって、それこそ好き放題に観ている。
👩うふふふ。
👨2023年1月期など追いかけている作品が5~6本になるかもしれない。
👩あらあら、いいじゃないですか。
👨ええ、おかげさまでずっと空いた時間はテレビにくぎ付けですけれどね。
👩あはは。
👨で、話は戻るけれど『15 Minutes Made』の話に戻ると5番目のオイスターズも面白かった。
👩オイスターズ?
👨去年の11月だったか、SKE48の高畑結希さんを客演に呼んで王子小劇場で『ちちんち』という作品を上演したのだけれど、それがめっちゃ面白かったんだよね。お父さんが家にどんどん滞留してくというお芝居だったのだけれど。
👩ああ、なんか前にお話を聞きましたね。
👨うん。その時はちゃんと尺を持ったお芝居だったけれど、今回15分でなにをやるかとおもったら、ただ漫才師の片割れと一緒にいる女性が、相方を探すということで道で通り越した男に突っ込みをさせるという話なのね。
👩はい。
👨で、最初はなにがどうおもしろいのかわからないんだよ。それが、観続けているうちに、なにか理性と違うところで可笑しさが沸いてきて、気が付けばいちいちおかしくて笑ってしまうという、なにか魔法にかかったような15分でしたね。
👩へぇ。
👨王子小劇場での『ちちんち』の時にもそうだったけれど、観ていて知らず知らずのうちにどこかの箍を外されているのだとおもうのね。
👩うんうん。
👨ほんと、不思議なのだけれどおもしろかったし。あと最後のMrs.fictionsはもはや伝説の名作になっている『上手も下手もないけれど』という作品で。
👩ああ、はい。
👨劇場の楽屋の鏡前で、ベテランの俳優と新人の女優が知り合うところから始まって、少しずつ関係ができて、夫婦になって、年老いて、旦那が浮気もして、やがて妻が召されるところまでを15分で見せるのだけれど、その時間の経過がちょっとした風貌や台詞の口調の変化だったり小道具やその扱いだったり、衣装の変化だったりでシームレスに描かれていて、気が付けばちゃんとふたりの半生が観る側の掌にのせられているのね。
👩うんうん。
👨私、この作品って4回観ているのですよ。最初観たのは随分前で。それこそ5年とか10年とか前なのだけれど、何回観てもあれは新しく感動するんだよ。なんか、一期一会の人生が小さな箱に詰められて渡されたような感じがしてね。それも、最初観た時とその次、そのまた次、今回と印象が少しずつ違うの。それは観る側の立ち位置もちょっとずつ変わってきているからかなぁとか思ったりもしてね。
👩うふふふ。
👨まあ、何度観ても心に残るというか、見飽きないですよ。
👩うん、
👨また、コロナも少し落ち着いてきて、Mrs.fictionsは『15Minutes Made』もこれからも続いていくみたいなので。
👩うん。
👨で、あれで知った劇団とか俳優とかってたくさんいるので。
👩うんうん。わかります。ありますよね。
👨ファンになったりとかね。あと、短編の演劇の面白さというのもたくさん教えてもらったし。
👩うん。
👨そう考えてみると、また演劇のいろんなことを知る伝手がひとつ戻ってきたというか新たに増えたような感じもしてね。
👩はい。
👨今回に留まらず今後もとても楽しみにしているのですけれど。
👩うふふふ。
👨あとはねぇ、そういえばserial number『Bug』も観てきましたよ。
👩ああ、私は観にいけなかったんですよ。
👨それは残念。
👩うん、残念。
👨なんかね、物語に嵌りこんで観てはいたけれど、話の本筋だけではなく、いろいろと精神的にはくる舞台でもありましたよ。
👩ああ、精神的にくる舞台だったんだ。私はね、精神的にくる奴はねぇ、あんまり観ることができないだろうなぁ。
👨作品を理解するのに、1980年代終盤のアメリカの、それもニューヨークとかではなくてもうちょっと田舎の方の空気をイメージできるといいと思うのね。舞台はオクラホマ、ニューオリンズなんかの北の方になるんだけれど、要は南部の田舎にあるモーテルの一室なんですよ。そこで暮らしている一人の女性が、そこに訪れたひとりの男をかくまううちに、だんだん彼の狂気に染められて、最後は二人でモーテルに火をつけてしまう話なのだけれど。そこには、その男を連れてきた友達とか、彼女の連れ去られてしまった子供のこととか、刑務所から出所した元旦那とかのことがあって、さらには男のかつての体験も絡んで、女性が男性と暮らす中でそれまで見知るものや信じていたものが全く違った世界に組みあがっていく様がもう圧倒的で。で、その中には私が思い出していた昔行ったことのあるアメリカの地方にもその狂気が醸成される空気みたいなものがあって、なんか描かれるものをより強い印象で受け取ることができたように思う。観ていて安ホテルのリネンの匂いとか蘇ったりもしたしね。
👩うんうん。
👨あと、麻薬を吸うシーンも出てきて、これはR18+もしょうがないなと思ったのだけれど。実は私、1980年代にアメリカで仕事をしていた時に、某商社の駐在員の方とお友達だったのですよ。で、その彼の同僚の駐在員とも何度か飲んだことがあったのね。ある時その同僚の駐在員の方が無断欠勤をしているという話を彼から聞かされて、日本人の世界って実は狭いしいくところって意外と限られているから見かけたり噂を聞いらら教えてとか言われていたんですよ。
👩ええ。
👨でね、それから暫らくして、彼は現地の女性たちにもおもてになられていたから、ある時その女性たちが時々遊びにいくという倉庫を改造したみたいな尖ったお店に連れていってもらったの。そこにはカジュアルなレストランと、たまにライブがあったり踊ることもできるスペースと、へたり込んで持ち込んだお酒を飲んだり休憩や仮眠をとったりできる場所があったのだけれど、たまたま、そのへたり込みスペースの隅で麻薬を吸っている東洋系の男がいてね。
👩うん。
👨まあ、麻薬を吸っている人もその店では何人か見かけはしたのだけれど、その友人があっと言って、よく見たらそれがその無断欠勤をした彼だったの。
👩へぇ。
👨もう、以前見た時と雰囲気が全然違っていて、ほんと暫らくわからなくて、麻薬はこうして人を廃人にしていくのかと思った。友人と話すのを聞いていても昔の彼ではまったくなくて、私と目が合って挨拶をしてくれたのだけれど、そのまなざしもどこか焦点があっていないし表情にもしまりがなくて。とにかく家まで連れて行こうということになって二人で起こそうとしたのだけれど、力もちゃんと入らなくて。あと、多分お風呂に入っていない感じで臭かったし。
👩うん。
👨麻薬ってほんと怖いんですよ。あとで聞いたら彼が使っていた麻薬はけっこう強いものだったらしいのだけれど、それにしても、変わり果てた彼の印象はあまりにも強烈すぎて、それ以来麻薬を吸っている光景も見るとなんか憤りや強い嫌悪感を感じるのね。
👩うん。
👨『Bug』でも麻薬かドラッグをカジュアルに嗜む姿が出てきて、描かれているのがそれが珍しくもない時代だということもわかってはいるし、あくまでも舞台上での演技だと理解する理性も持ち合わせてはいるのだけれど、それでも、その光景を観ているとかなり心が痛んだ。
👩あの、直接来るからね、舞台で観ると。
👨そう。
👩ぐるっと苦しくなる。
👨その時と同じ光景ではまったくなかったのだけれど、やっぱりなんか、人が麻薬とか吸っている姿にトラウマがあるんですよ。まあ、それは舞台うんぬんということではなく、私の個人的な事情なのですけれど。
👩でもね、それぞれの心にいろいろあるじゃないですか。いや、もちろんさ、その、カーテンコールとかで役者を観るわけだし、それが舞台だっていうことはわかっているのだけれど、そこは舞台の凄いところでさ、本当に起こっているから、目の前で。その舞台で起こっていることは起こっているように思うから。それが良い舞台であればあるほど。上手い方々というか、練られた作品、良ければよいほどそれを受け取ってつらくなってしまうから。滅茶苦茶良い舞台で、良いなぁと思っても、観ていて自分がきついとかもうしんどいというシーンがあった時、どうしようって思いますよね。あの、なんか喰らいやすいから、私。前もって書いておいて欲しいと思うもの。気をつけてって。
👨私はそんなに喰らいやすいほうではないと自分では思っていたのだけれど、でもあの時にぼろぼろになっていた彼の姿がふっと浮かんでしまって、だからその舞台をみたくないとかなかったということではまったくないのだけれど。
👩うんうん。
👨なんか辛くなりましたね。それは日頃舞台を観ていてもあまり経験のないことだった。
👩うん、それだけ良い舞台だったということなのですよ。それだけ俳優も上手いということなのだろうし。
👨その、さりげなく摂取をしている姿やそこから伝わってくる心情があまりにもリアルだったということなのだろうしね。
👩うんうん。
👨あとで作品について考えてみると、多分私がアメリカに行ったのと同時期という設定なのですよ。そのうえでやっぱり俳優が抜群に上手くて。主人公の女性が男性の世界に少しずつ呑み込まれていく感じがぞくっとくるほどリアルに作り込まれていて。ましてや、詩森さんの演出だしね。
👩ああ、そうでしょうね。
👨いうても詩森さんなので。で、彼女が信頼している俳優というのはそれができる俳優だから。
👩うんうん。なんかね、詩森さんの舞台はすごくさ、なんていうのだろうな、私がserial numberの舞台が好きなのは、風琴工房のころから詩森さんの舞台を好きなのって苦しいなぁとか辛いなぁとか思っても、ちゃんとそれが、なんだろ、しっかりとこう・・・。私舞台を観る時によくおもうのですけれど、お料理。舞台はお料理されて出されているのと同じ。
👨はい。
👩その、本当があるじゃないですか、現実があるじゃないですか、でそれを調理した舞台があるじゃないですか。舞台は虚構だけれど。
👨うん。
👩でも、だからこそ、その中味に心がある、熱がある、本当がある虚構だから、その現実だけではちょっと呑み込めないとか食べられない食材をすごく食べれらるように、それはもちろんすべての味を変えているわけではないのだけれど、その素材を生かしてしっかりお料理されて出てきているというかお皿にのって出てきている状況だなぁって。もちろんなにを食べるとかどう食べるとかどう感じるかとかは、観る側の、観客の側に任されているところだと思うのですけれど。なんかそこでね、丁寧に料理をされているというか。丁寧な料理だなって思うのですよ、詩森さんが作るものははいつも。だから辛くても観たいし。観ようって思える。
👨そうなんだよね。今回の作品でも、ベースには俳優の演技の中に社会的背景とか、その中で生きていく感覚とか、下味を良く作り込んでいる。その、一人の女性がそうやって、狂っていくというのとはまた違うのだけれど、変わっていくことの裏の必然というものを詩森さん自身がよく噛み砕いて紡ぎ込んでいるように感じるのね、その舞台の一瞬ずつに。
👩うんうん。
👨そうすると、たとえ辛いシーンとか嫌悪があったとしても、それを受け入れて観てしまうんだよね、別腹で。
👩うん。
👨なんというか、そこから手を離すことができないみたいな感覚というのが、一番近いのだけれど。
👩はいはい。
👨観終わって、なんだろ、そうなるのかという気持ちととそうなるのだろうなという気持ちがあって、その間にあからさまな真実がふっと浮かんでくるような感じがするのね。
👩はい。
👨そこにまで導いてくれる舞台だったから、見応えは十分すぎるほどありましたね。消耗もしたし。また詩森さんがこの戯曲に対して演出家としての意欲をそそられるのは、こういうものを作りたいと思うのは、力ある演出家の性なのだろうなともおもったしね。
👩うん。あのさ、詩森さんが題材にしたものってそのあと調べちゃうんですよね。
👨はいはい。
👩なんかいろんなものを読んでしまうの。これはどういうことなのだろうとか興味が沸いて。こういう世界の広げ方もあるのだなぁって思う。しかも、しっかりと取材をされる方じゃないですか。
👨うん。あの、一時期彼女って金融業界とか自動車業界とか生理用品の開発とかそういう業界ものや会社ものの作品を作っていたじゃないですか。
👩うんうん。
👨あれって、まあ、普通に仕事に関わることだから、社会人の長い私にはなじみ深い世界なのね。で、特に製造業という意味では私も深く関わっていたから、作るものが違うとはいっても共通のことってたくさんあるのですよ。あういうのを観ると、ディテールまですべてがその通りという訳ではないのだけれど、詩森さんて核心のところはしっかり掴んでいるのねって思ったもの。だから、観客が色々調べたくなるというのもわかるし、実際のところ私もうんうんと頷くところがたくさんあったし、たまたま同じ会社の人が観に来ていて、終演後あれはさすがだねみたいな話をしたこともあったし。
👩うふふふ。
👨いやぁ、どこの会社も同じだねぇ、えへへ、みたいな。
👩あはは。
👨いろんな方にインタビューなどもして調べてもいるのだろうけれど、ほんとそれぞれの業種のことをいろんな角度から学ばれているなぁと思う。あんまり偉そうなことをいっちゃいけないけれど。まあメーカーはもちろん、たとえば金融業界の方があの芝居を観たらどんな感想をお持ちになったのか聞きたいとも思ったし。
👩うん。
👨また私は事務系のスタッフ畑だから、直接知らないところもあったのだけれど、そのときに一緒の回を観た人は製造のライン側のひとだから、私とは違ってわかったことがてんこ盛りみたいだったしね。
👩わかるなぁって、より実感を持つことができるって。
👨うん。さてと、また話は変わって、あと観たといえばね。そう、東葛スポーツの『ユキコ』も観てきました。主宰の金山さんは前回公演の戯曲が今回の岸田國士戯曲賞の最終候補になっているけれどね。もう今から10年以上前にその東葛スポーツに常連で出ていた佐々木幸子さんという方がいらっしゃったんですよ。
👩はい。
👨あの、「野鳩」という劇団にいらした女優さんなのですけれどね。
👩あぁ、はいはい、存じ上げております。
👨彼女は最近あまり舞台で拝見することがなかったじゃないですか。
👩うん。
👨で、劇中で語られたことによると、彼女って売れていろんなところに客演にも呼ばれたりしたのだけれど、なんかそこで揉めたこともあったとか。
👩あぁ、そうなんですね。
👨そんな話も含めて舞台には描かれていて。で、その揉めた原因のひとつに彼女のASDというのがあったみたいで
👩うん。
👨精神障害者福祉手帳3級の証明書みたいなものが舞台後ろに投影されたりもして。でも、ASDって天才肌の方も多くいらっしゃるじゃないですか。
👩ASDって、感じやすい人だっけ、ちがった?
👨相手の考えていることを読み取ったり自分の考えていることを伝えたりすることが苦手とか、特定のことに強い関心を持つとか、こだわり行動を持つとかみたいな傾向があるみたいだね。で、その後彼女がなにをされたのかというと、お茶の水大学の大学院までいって教職をとり、保育士の資格もとり、宅建主任までとって、その証明が同じように舞台の後方に投影されていくわけ。
👩凄っ。
👨で、今何やっているかというと、主宰の金山さんってご実家がパチンコ屋さんみたいでその奥さんになってパチンコ屋の景品交換所ボックスで働いたりもしているよというシーンが出てくるわけ。そのうえでなんか急にまた東葛スポーツに出たくなって、旦那さんは当初反対したのだけれど、こうやって出ていますみたいな。
👩うん。
👨『パチンコ(上)』というのが金山さんの岸田戯曲賞候補作で、その中でパチンコ業界のことが語られたりもしているのだけれど、同じようにパチンコ屋さんの世界を垣間見せながら、あからさまなのだけれど観る側がああそうなのだって受け入れられるように、そりゃ虚実を織り交ぜながらだろうけれど、一人の女性の生きざまを受け取ることができるように、舞台はラップの尖り方を武器にして語ってくれるんだよね。
👩うんうん。
👨共演も、今回は女優5人の座組でね。いずれも彼女と同世代の手練れの皆様がずらずらとご出演で。
👩うふふ、見応えがありそうですね。
👨ナイロン100℃の菊池明明さんとかね、あとナカゴーの川﨑麻里子さん、
👩なるほど。
👨あと毛皮族の羽鳥名美子さんとか、山崎ルキノさんとか。
👩山崎ルキノさん・・、えーと、
👨山崎さんも佐々木さんもチェルフィッチュの舞台によく出ていらして・・。
👩あぁ、はいはい。
👨その5人でやるから、まあ濃いし。おまけに彼女たちのラップはスタイリッシュで腰が据わっていて迫力満点だしね。
👩うわぁ、すごく面白そう。
👨で、昔こうやって知り合ったんだよねぇとか、パチンコ屋でバイトしないかって誘ったんだけれどそれぞれに断られたんだよねぇとかいう話もあって。そうそう、川﨑さん以外は皆さん小さなお子様がいらっしゃって、そのお迎えがあるから開演時間が17時になったとかね、そういうネタなども織り込まれて。
👩へぇ、うふふ。
👨そうして、がっつりと引き込まれ、観終わったあとにひとりの人間の存在がしっかりと心に残るのは凄いなぁと思って。
👩うんうん、そうですね。
👨達観したというかすごくドライな感じに残る。でも舞台の記憶としてその一瞬ずつはとてもなまなましいんだよね。
👩なんだろ、すべて冷静に考えることができますよね、一回こう落ち着いてという、そういうのだと。
👨そうだね、そう。
👩これはどうなのだろうって.あとからも考えたくなるやつですよね。どういうことなのだろうって、何故こういう風に残っているのだろうって。不思議な感覚というか、そのいつもどおりでないのが残るのって、私は好き。そういうものって好きなんですね。そういうのを観ると私は幸せな気持ちになる。
👨その上演台本を戯曲として岸田戯曲賞が評価してくれるかどうか、金山さんの候補作が戯曲として審査員たちに評価されるかとれるかどうかはわからないけれど、たとえばこれが岸田演劇賞であるならば、私が観た『パチンコ(上)』にもあったその斬新な表現が、というか彼の編む感覚が、今回の『ユキコ』でも心に刻まれた感覚が評価されるに違いないと思うけれど。ただ、その世界が戯曲に落とされた時にどうなるのかはわからない。少なくともそのラップの文言は一言一句アドリブなく戯曲に書き込まれたものだとおもうので、その内容が評価されて金山さんが岸田を取れればとても素敵だなとは思うけれどね。
👩うん。
👨あとね、最近印象に残った舞台としてはカリンカを観てきました。
👩カリンカ?
👨あの、橘花梨さんのプロデュースしているユニットでね。今回は、あの、劇団普通ってご存知ですか。
👩はい、知っています。
👨今回はその劇団普通主宰の石黒麻衣さんが作・演出で招かれての舞台なのですよ。
👩へぇ、
👨彼女は以前に劇団普通で娘が田舎の両親のもとに暫らく帰る話をやったのね。王子小劇場で。
👩うん?ああ、なんか知っている、それ。
👨今回はその逆で娘が旦那の協力のもと、両親を都会に連れてきて住まわせてみるという話なのよ。
👩へぇ。
👨心配だから試しにみたいな感じで姉妹なのだけれどその妹が2人が両親を連れてきてしまっているという設定なの。
👩ふんふん。
👨その中で石黒さんが凄いなと思ったのは、前王子小劇場で観た『秘密』という舞台は地方での時間の流れやテンポで描かれた話じゃないですか、それが今回の『日記』では感覚的に都市部の時間でちゃんと組みあがっていくの。
👩へぇ。
👨でね、ザンヨウコさんと贈人さんの老夫婦の都会に連れてこられた感じがほんと良いのですよ。その所作とか、間の取り方とか、夫婦間や娘などとのかみ合わなさとかね。で、橘花梨さんが演じるその娘や森田亘さんが担うその夫、姉夫婦のQ本かよさんと石井由多加さん、あと娘の義理の父を演じる用松亮さんなども、ひとりずつの色がとても丁寧に細かく作り込まれているから、見ていてこういう感じの家族もいるよなって思ってしまうし、それぞれの立場への感情移入ができてしまう。王子小劇場での公演の時とどこか繋がった設定でというかシチュエーションではあるのだけれど、そのなかで、物語に合わせて舞台の息遣いや色を変えていく石黒さんはやっぱりすごいなぁと思った。
👩うんうん、そうですね。
👨彼女は2022年度のは王子小劇場の佐藤佐吉賞最優秀脚本賞を取ったけれど、それがさもありなんって思えるようなお芝居だったよね。
👩うん。
👨尺は110分くらいで会場はオフオフ、美術もテーブルに4客の椅子が置いてあるだけで劇場の壁をそのまま使ってのシンプルな美術だったのだけれど、いらないものが何もない分だけより深く伝わってくるみたいな部分もあってね。
👩なるほど。シンプルだからダイレクトにくるっていうのもありますものね。想像量が見方をしてくれるというか。
👨上手側に俳優が捌けたさきにはキッチンとか玄関、もう一つの部屋があることがちゃんと浮かんでくるんだよね。
👩うんうん、いいね。そういうのだと、ほんとにセットがないほうが。むしろセットがあるより抽象的なほうが自由になれる。
👨セットがあるといらない縛られ方をしてしまうのでね。
👩そうですね。
👨あと、また話はかわるけれど、空洞で『もういらなくて綺麗』という久保陽介・藤本康平企画公演をみてきたのですよ、そちらも、そもそも空洞だからあまり建て込みようもないのだけれど、あまり立て込まずいい感じの空間で。で、そのことが娘のいる東京や父親のいる彼女の地元の空気缶や距離をうまく舞台に与えていたようにも感じられて。
👩へぇ。
👨それとね、カリンカにしてもこのお芝居にしても、なんだろ、最近片っぽでは生きることの行き場のなさとか閉塞感をいろんな表現で描いていくような舞台がたくさんあってそれを観続けていたから、そういうのとは違う普通の質量の日常が描かれているとなんかほっとするのね。
👩うんうん。
👨だからといって、社会の歪とか心に抱くものを丁寧に描いていく作品が嫌いとかそういうわけではないのよ。それはそれで強く心を惹かれるし、素晴らしい作品も多いし、そういう作り方をしていくことで初めて描かれる時代の風貌もあると思うし、大切なことだともおもうのだけれど、
👩うん。
👨なんか、別の呼吸で味わいたい世界もあって、なんかその呼吸をさせてもらったような気がした。あの、波多野怜奈さんが今回ご出演で、あと田久保柚香さんとか丸本陽子さんなどもご出演で。
👩ほうほう
👨女優でいえば村上弦さんやふなきみかさんも良いお芝居をされていて。で、観ていて彼女たちのお芝居にはその時間を生きていることのビビッドさみたいなものがたっぷりにあるのですよ。そのうえで男優陣の板場充樹さんや安東信介さんも個性の先でそういう時間にしっかりと生きている。そういう空気のお芝居って軽い印象になりがちで、本当に高い評価というのがされずらい部分もあるのだけれど、でも私はそういう質感というか舞台の語り口は大好きで、心がいい感じでわくわくするような、良きお芝居を観たなという感じがのこりましたね。
👩うふふ、良いお芝居に巡り合いましたね。よかったですね。
👨カリンカとそのお芝居をたまたま二日連続で観たんでね、なんかとても幸せだった。
👩うふふ。
👨まあでも、あれやこれや3月になって、よきお芝居が続きますからね。
👩そうですね、うんうん。
👨3月には本谷有希子さんが演出をされる舞台なんかもあって。
👩あらあら、そうなのですか。それはそれは。
👨岡田利則さんの『掃除機』をKAATでやるし。
👩へぇ。
👨あと、ちょっと地味なのだけれどタテヨコ企画ってご存知ですか?
👩うん、存じ上げております。
👨私、実はあそこのお芝居もけっこう好きで、毎回ではないのですが観ていて。3月に『橋の上で』という舞台があるので足を運びたいなぁと思ったりもして。
👩はい。
👨それから3月11日と12日に東京芸術劇場で上演される宮崎県立芸術劇場プロデュースの『神農の庭』も観に行ければと。作者が長田育恵さんで、まあ、てがみ座の公演がずっとなかったということもあるのだけれど、彼女の戯曲が上演されるのを暫らく観ていないので。この先彼女は4月からの朝ドラの脚本もあるからますます忙しくなるだろうしね。
👩うんうん。
👨というわけで、観たいものもてんこもりだし。
👩そうですね。私もね、これからはいろいろと観に行ければと思うし。
👨また、いろいろお話をしましょうね。
👩はい。
👨では、今日はこれくらいにしましょうか。
👩そうですね。
👨では、演劇のおじさんと
👩おねえさんでした。
👨それではまた。
(ご参考)
・SEPT presents『FATALISM ≠ Re:Another story』
2023年2月18日~26日@こくみん共済coopホール/スペース・ゼロ
総合プロデュース・脚本 :杉浦タカオ
演出 :ウチクリ内倉
出演 :(一部キャスト)
今村美月、浦野秀太。古謝那伊留
横山統威、笹川大輔、宮本親臣
渡辺誠也、打出菜摘、ユリ
杉浦タカオ、ウチクリ内倉、緑川睦
―2月18日~21日出演―
谷水力、川又あん奈、長月翠
吾龍、西田祥、山口賢人
二宮響子、吉川友
―2月23日~26日出演―
やみえん、小島愛子、山本愛梨
SHIN、桐田伶音、叶真
針谷早織、VALSHE
(ダブル/トリプル キャスト)
hoto-D/Ayano/信也、HAGI/okamu./AtsuyuK!
杉浦太陽/吉岡毅志、ピコ/松岡侑李(いかさん)/村田寛奈
・Mrs.fictions『15 Minutes Made in 本多劇場』
―ロロ『西爪橋商店街綱引大会』
脚本・演出 :三浦直之
出演 :亀島一徳、望月綾乃
―演劇集団キャラメルボックス
『魔術』(原作/芥川龍之介「魔街」
脚色・演出 :成井豊
出演 :畑中智行、山本沙羅、三浦剛
パーカッション指導 :ガシャ G(SOONERS)
―ZURULABO『ワルツ』
脚本・演出 :小野寺ずる
出演 :植田崇幸、木原実優
声の出演・演奏 :宮本沙羅
―ブリーズアーツ『真夜中の屋上で』
脚本 :真柴あずさ(演劇集団キャラメルボックス)
演出 :緒方恵美
出演 :中村悠人、関根翔太、奈良原大泰、
伊藤梨花子、島倉肌隼、緒方恵美
声の出演 :儀武ゆうこ、須藤叶希
演奏 :木目とーる
―オイスターズ『またコント』
脚本・演出 :平塚直隆
出演 :安田遥香(アホロートル)、菅沼翔也(ホーボーズ)
佐治なげる
―Mrs.fictions『上手も下手もないけれど』
作・演出 :中嶋康太
原案 :岡野康弘
出演 :岡野康弘、豊田可奈子
・serial number『Bug』
2023年2月15日~18日@サンモールスタジオ
作 :トレーシー・レッツ
翻訳 :佐藤澄子
演出 :詩森ろば
出演 :李千鶴、鈴木勝大、粟野史浩(文学座)
伊藤弘子(流山児★事務所)、 塩野谷正幸(流山児★事務所)
・東葛スポーツ『ユキコ』
2023年2月17日~20日@シアター1010稽古場
構成: 金山寿甲
出演: 佐々木幸子、菊池明明、川﨑麻里子、羽鳥名美子、山崎ルキノ
カリンカ『日記』
2023年2月22日~28日@下北沢 OFF・OFFシアター
作・演出 :石黒麻衣
出演 :石井由多加、贈人、ザンヨウコ、
用松亮、森田亘、Q本かよ、
橘花梨
・久保磨介・藤本康平企画公演『もういらなくて綺麗』
2023年2月22日~2月26日@池袋 スタジオ空洞
脚本・演出: 久保磨介
出演:安東信助 (日本のラジオ)、板場充樹 (猿博打)、田久保柚香
波多野伶奈、藤本康平、ふなきみか
丸本陽子、村上弦 (猿博打)
(今後のお勧め)
・KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『掃除機』
2023年3月4日~22日@KAAT中スタジオ
作:岡田利規
演出:本谷有希子
音楽:環ROY
出演:家納ジュンコ、栗原類、山中崇
環ROY、俵木藤汰、猪股俊明
モロ師岡
・タテヨコ企画『橋の上で』
2023年3月8日~12日@小劇場B1
作・演出: 青木柳葉魚
出演:あさ朝子、 加藤和彦、 舘智子
西山竜一、 久行志乃ぶ、 ミレナ(以上タテヨコ企画)
いまい彩乃、 今村裕次郎(小松台東)、 谷口継夏
仲坪由紀子、 リサリーサ(劇26.25団)
・宮崎県立芸術劇場プロデュース
「新 かぼちゃといもがら物語」#7 『神舞の庭』
作: 長田育恵
演出: 立山ひろみ
出演: 大沢健、 東風万智子、 石川湖太朗
貴島豪、 平佐喜子、 成合朱美
森川松洋、 守田慎之介、 高野桂子
原田千賀子
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