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2022年3月12日の乾杯

2022年3月12日の乾杯、コロナはすこしおさまる気配が見えてきたけれど、その話題が隠れてしまうほどに戦争のニュースが朝も夜も流れ続ける毎日。そんな中でおじさんが観た『WEST SIDE STORY』やフェルメールなどの美術展、もちろん制作山口ちはるプロデュース、鳥公演、烏丸ストロークロック、DULL-COLORED POP、関西演劇祭のくによし組やコケコッコーなど演劇についても語りつつ、それぞれの今の「演劇」に対する感じ方や距離について、そしてふたりの関係についても言葉を交わします。


👨演劇のおじさんと
👩おねえさんです。こんばんは。
👨こんばんは。……ウクライナの戦争はまったくおさまりませんね
👩とんでもないことが起き続けておる…
👨毎日戦争のニュースを見るのに疲れてきてしまって。
👩そうですね。感覚が。ほんと、今何がおきているのだろうって。とんでもないことが起こり過ぎていてついていけない。
👨だって、3週間前の常識だったら、人の国に突然入り込んで爆弾をバンバン打ち込むなんてあり得ない話だったよね。
👩ほんとうですよ。
👨それが普通に起こってしまうなんてね。
👩そういう時だからこそ考えてというか、心穏やかにね。出来る事ってね、知識の差とか興味の差とかいろいろあるとは思うのですけれど、出来る事って限られていたりするじゃないですか。
👨まあね。
👩そうそう。で、そういう時に特別なことを、できる人はやるべきかも知れないというか、やってもいいのかもしれないけれど、何も出来ないなってなったら、本当に自分のとなりのだれかに優しくすることをさ。海の先のだれかに優しくすることともしかしたら繋がっているかも知れないから。バタフライエフェクトじゃないけれど、なにがどうなってもさ。
👨あの、知り合いの人が呟いていたのだけれど、スーパーで輸入物のチョコレートを買ったらそれがポーランド製だったのだって。
👩うんうん。
👨それに気がついてから、チョコレートはそのポーランド製のものだけを食べるようにしてポーランドの人に少しでもお金がまわるようにしているっていうのを読んで、私も同じチョコレートを探して今食べています。安いけれどボリュームがあって普通においしいし。
👩えぇ、へへぇ。でもそういうことよね。ひとつずつのことがね。
👨そう、ひとつひとつの積み重ねだから。
👩別にいいんだ。特別なことだと思わなくて。自己満足でもやらないよりは。なにもしないよりはいいよ。
👨そうだよね。ほんとそうだよね。
👩なんかね、最近ちょっといろいろ。なんでしょうね。やっぱ…うーーーん、、なんだろうなぁ。ずっとコロナだから、ずっととんでもないことが起こっているから。知らず知らずの間に疲れてはいてさ、別に毎日毎日疲れているとか限界だぁとかいうのが目に見えているわけではないのだけれど、なんかあるのかもなぁと思うのですよ。私ちょっと最近ね、気持ちが低いところを、低空飛行しているというか。いままで意識をしていなかったりとか、意識の土台を考えられる無意識で感じていたストレスだったりとか、不安とか、抑圧とか、なんかそういうのがぽロポロ出てくるのかもしれないなぁと思っていて。
👨あぁ、なるほど。
👩人によりますよ。それがもう出ている人もいるだろうし、出てない人もいるかもしれないけれど、でもなんかそういうのって、コロナが起こった時にもあっただろうし。で、それがいつ出るかというのは人によるじゃないですか。
👨あぁ、はいはい。
👩うん、いつ表面上に出てくるかって
👨その人の性格にもよるしね。
👩そうそう。だから、そういうの。そのー…調子が悪いなぁとかをさ、頑張らなきゃで無理するのではなくて、なんというか、こう…もしかしたら、自覚はないけれどそういうふうに溜まった物が出ているのかもとか思
ってもよいのかなぁって。
👨あるね、そういうのは。確かに。
👩うん。
👨わたしもなんかね、ああいう戦争のニュースを見ていてちょっといたたまれなくなってきて、気持ちが。
👩はい。
👨それで、漠然と救いが欲しくて『WEST SIDE STORY』を観に行ってしまいました、映画の。

『WEST SIDE STORY』新宿ピカデリー入り口

👩芸術が救ってくれるというやつじゃないですか。いいですね。
👨まあ、芸術といってもお芝居は観ないとわからない部分があるけれど、『WEST SIDE STORY』であれば、私にとってそういうリスクやストレスも少なくいいなって思って。
👩うんうん。
👨あれだって悲劇なのだけれど。いうても元は「ロミオとジュリエット」だからね。
👩うん。
👨それでね、今回のスピルバーク監督のやつって、昔の映画ってあるじゃないですが、まあ私はブロードウェイでも観たことがあるんだけれどね。舞台バージョンとしては。それに比べてもとてもビビットなのよ。登場人物がいちばん人間くさいのよ。
👩はい。
👨それはもう『WEST SIDE STORY』だから随所に思いっきりミュージカルに作ってはあるのだけれど、だけどその中の登場人物達がとてもナチュラルな感じがするの。
👩うん。
👨あの有名なバルコニーのシーンなんかにしても、大仰さがないのね。気持ちは一杯に感じるのだけれど、それが会話の中にさらっと描かれるようなところもあって。
👩ふんふん。
👨その感じが、なんだろ、今っぽい『WEST SIDE STORY』だなって思って。
👩うん。
👨でも、その一方で、いうても『WEST SIDE STORY』だから、その中には街の風景と一緒に踊る「アメリカ」とか体育館でのダンスパーティのシーンなんかも当然あって、そのダンスたちはスケール感もあり、キレッキレで。で、そういうシーンを観ていると、一瞬でも浸っていた現実を忘れることができる。
👩うんうん。
👨それはほんとそうだった。まあ、観終わったから戦争がおわっているかというと、残念ながらまったくそんなことはないのだけれど、でもなんか一瞬救われましたよね、気持ちが。
👩身をもって体験できていますね。芸術ができることっていうのを。
👨うん。もし、こんな風に気持ちが落ちていた時でなければ、ただよかった、わぁわぁだけだとおもうのだけれど。おねえさんと一緒というか、コロナの話もおっしゃるとおりというかそのとおりで、いろんな抑圧に苛まれたときというのはそういう風に解放してくれる物を欲する。疲れたときに甘い物が食べたくなるみたいなことってあるじゃないですか。なんか心が欲していたのだろうなと思って。
👩うん、あるのだろうと思う。
👨あれは悲劇ではあるのだけれど、凄く良くできた物語でもあって。でさ、映画はマリアの目の前で撃たれたトニーをシャーク団とジェット団がともに担いで、葬送の列となって終わるのよ。
👩うんうん。
👨そこに、たとえ激しく争っていた者たちにも和解はあるのではないかという希望も感じたしね。
👩はいはい。
👨もちろん、現在の世界の状況をもとに作られた映画というわけではないのだけれど、あのラストは今にとっての救いに思えましたね。
👩うんうん。とんでもない、とんでもない世の中の…救い。
👨うん、で、それで救われてから、私はやっとエンジンをかけ直すことができていろんなものを観ていますよ。
👩へぇぇぇ!!!いいね。
👨たとえば、東京都美術館にフェルメール展も見に行きましたしね。
👩いいですねっ!!!!


👨あれ、すごいのね。期待していたけれどそれ以上だった。
👩ほうほう
👨その「窓辺で手紙を読む少女」という作品が、後ろ側の壁がぬりつぶされていたのだけれど、最先端の科学を駆使して検証したらそこにはキューピットがえがかれていてフェルメールがそれを塗りつぶしたわけではないことがわかったみたいなのね。で、その塗りつぶしたものを丁寧に取り除いてフェルメールが描いたとおりにしてお見せしますということなのだけれど。その時に絵を覆っていた黄色みがかった古いニスも剥がしたらしいのよ。
👩ああ、あの話か!!!知ってる!!!!
👨そうそう。そうしたら、逆に今まで古いニスに守られていたこともあってか、剥がした後の色が息を呑むほどに鮮やかなの。あの絵って描かれたのは17世紀だから、それこそ四代将軍徳川家綱さんとかいらっしゃった時代じゃないですか。鈴木春信さんが活躍していたころ、日本ではね。
👩うん。
👨だけど、絵をみると、その、窓辺で手紙を読んでいる少女がリアルなの。絵の中の時間が今なの。
👩ほはーーーーーー
👨なんというか、描かれてから今に至る時間が全部ニスと一緒に剥がされてしまって、ほんとうに今そこで、バックがキューピットの絵だから恋文だと思うのだけれど、その恋文を読んでいるライブ感やビビットさがもろに目の前にあるの。
👩ふーん。
👨まあ、その前の技術的な説明の展示なんかも興味深く見たし、展示されている改修作業をする前の絵の精巧な模造画なんかもじっくり眺めたけれど、そんなものもうどうでもよくなって、実際にご対面したときには息を呑み、魅入られて、ほかの人に迷惑にならない位置で多分20分くらいは立ちすくんでいたと思う。それでも迷惑だったかもしれないけれど。
👩いやいや、本当に自分の心に刺さるものは、そうなるよ。なるなる。なった。私はねミレーの「オフィーリア」を観たときに。前にも言ったかもしれないけれど、私はミレーの水の表現がすごく好きなんですね。そもそも水辺とか水とかそういうところは好きなのですけれど。いいんだ、ミレーは。観たくなってきた。また、来て欲しい・
👨あの絵もいいよね。あれっ、あの絵ってどこがもっているんだったけ。
👩どこなんでしょうねぇ。
👨私も昔、よく観に行っていた記憶があるということは、日本に来たと思うけれど、でも記憶の頻度を考えると、所持しているのはロンドンかニューヨークではないかなぁ。えーと、記憶に間違いがなければ、ロンドンのテートブリテンだったかなぁ。私もその絵を月いちくらいで観ていた時期があって、そのたびに惹かれていたもの。でも、良い絵っていうのは、観る側の記憶すら混線させてしまうよね。
👩うんうん。
👨所詮絵だと言えば絵なのだけれど、でもさ、写真では伝わってこない時間のリアリティってあるよね、絵って。
👩うん、そうですね。
👨そういう、良い絵を眺めていると、少しは心が楽になるというか。
👩うんうん。
👨多分、戦争の姿ばかり見ているからか、自分がどこにいるのかわからなくなってしまうみたいなこともあって。
👩あぁ、あるなぁ。ありますねぇ。
👨でも、そうやって絵を見たりすると、なんかそういう現実に縛られない時間というものを感じるのよね。
👩うん。
👨まあ、それは演劇などを観ていても同じといえば同じなのだけれど。たとえば人が普通に呼吸をして生きて行くことを思い出すためには、それはとても効果的で大切な方法かもと思ってはおりますけれどね。
👩うーん。
👨まあ、お芝居もだいぶいい感じで稼働してくれるようになりましたからね、前回の時にもお話ししたけれどね。
👩はい。
👨あのね、前回の乾杯のあと、都合7~8本観ているんですよ。バタバタとね。まあ、「マームとジプシー」は楽しみにしていたのだけれど公演中止になってしまって残念だったのだけれど。
👩あらあら。
👨あのね、制作山口ちはるプロデュースといってオーストラマコンドーの倉本朋幸さんや江古田のガールスの山崎洋平さんを演出に招いてプロデュースしている団体があるのだけれど、そこの『THE LAST SHOW』という作品がとても面白かった。

制作山口ちはるプロデュース『THE LAST SHOW』

👩ふーん。どんなお話しなの。
👨これは作・演出が山崎洋平さんでね、緒方晋さんとか丹下真寿美さんとか関西弁で演じる芸達者のかたがたくさん出演していて、もろ関西っぽい部分のある演劇なのですけれどね。ドタバタなのですよ。物語としては、売れなくなったアイドルが、死んだということにしてお葬式をして人を集めて、そのあと生き返ったと言うことにしようって事務所の社長が考えて、でもそれをガチな葬儀場でやっては駄目じゃないですか。
👩確かに、たしかに。
👨それで、葬儀場の社員も報道もファンなどの弔問者たちも巻き込まれて大騒ぎになるという話なのですけれど。
👩うふふふ。なんか違う意味で大騒ぎなのだがみたいな。こっちも。
👨うん、でもね、緒方さんはiakuに何度も出演していらっしゃる名優だし、丹下真寿美さんにしても朝ドラで脇を固めたりする実力たっぷりな方なわけで、俳優として、いろんな要素をぶち込んでも場をばらけさせせずここ一番を作り支える力があるんですよ。ほかにもそういう方が何人か座組にいらっしゃるとたとえ場がルーズになっても崩れることなく要所できゅっと締まるから、けっこう無茶をしても舞台が散漫な印象にならないというか、それどころか無茶がおもしろさの下支えになって引き立ったりもするのね。
👩あぁ。
👨そうなるともう理屈ではなくて。素直にあれはおもしろかったですね。笑ったし。今の時期って笑いは大事じゃないですか。
👩大事。本当に大事。で、こういうときだからこそいらいらはしたくないのですよ。
👨うん。
👩イライラはしたくないのに、うちのネットが最近繋がりにくくてね。おねえさんはイライラしていますけれど。
👨ああ、伺いました。ご苦労されていらっしゃるみたいですよね。
👩ほんとうに、本当にわぁってなります。ああぁ、おりゃあ、勘弁してぇ。👨だって、ちゃんとしたネット環境がないのは目と口がないのと一緒だものね、今の世の中。
👩そうですよ、本当ですよ。まあ、個人的なことですけれどね、早くなんとかなってほしいなぁとは思い続けて。頼むよ頼むって言って。でもね、それは私の問題ではないということを、環境の方が駄目になっていますっていうことを業者さんは正式に言ってくださっているので。
👨でも、駄目になっていますだったら、「なんとかします!」だよね、普通は。
👩年末からずっとそうなのですよ。もういい加減にしてくださいと、流石に。あんまり怒るのって疲れるじゃないですか、正直。
👨ああ、はいはい。
👩疲れるし。怒るのは好きじゃないのですよ、ほんとに。心穏やかにいたい。
👨お互いがお互いをおもいやりあって上手くいくというのがね。
👩そうそう。いやな事があってもいらいらせずに。あんまり怒ることって元々なかったけれど、でも、それでも、やっぱり怒ることはあって。ひとり暮らしで怒る時は、やっぱりわぁってなることがありますよね。でも、それがひとに当たった瞬間にほんとうに辛くなっちゃうというか。でもなっちゃうから、心はね。心の限界みたいなものが来るから。
👨確かにおねえさんって争うことがあまり好きな人ではないものね、基本的に。
👩好きじゃないですねぇ。あの、運動とかは好きですよ。種目として勝ち負けをつけるみたいなものは結構好き。
👨ああ。
👩だけど、争いは違うじゃないですか。スポーツの勝負と争いは違うから。喧嘩とは違うから。いやですよね。争いたくない。
👨それはすごくわかる。私もね、あんまり争うのは好きじゃないので。
👩そうですよね。おじさんもおねえさんもそうですね。平和が一番と思っている。
👨そう、みんな幸せになればいいじゃんみたいな。
👩にこにこいたいじゃないですか、ねぇ。
👨うん。
👩あの、皆様いつもお読みいただいてありがとうございます。おじさんとおねえさんって穏やか×穏やかだとおもうのですけれど。でもね、喧嘩はするのよ。
👨あははは、喧嘩はするねぇ。
👩たとえばやり方の違いとかで。喧嘩はするけれど、建設的なやつですね。👨うん。でもそれをどうすればお互いの関係が良くなるかというような喧嘩はお互いに信頼しているからできる話だけれどね。
👩そうですね、そうそう。なんかさ、おねえさんとおじさんというのはおねえさんとおじさん以外のなにものでもないわけですよ。 なんかこういう風に言うとさ、なんでしょうね、隅におけない関係なのではみたいなのがあるかもしれないけれど、そうではなく、どちらかというと、なんでしょうね、違うけれど、違うけれどなんかビジネスパートナーみたいな感覚ですかね、言うならば。違うけれど、言うならば。
👨そうですね。性格や考え方は全然違ったタイプなのだけれど、やろうとしていることのベクトルは一緒なのですよね。
👩そうそう。だからこそ、やり方が違うから結果として喧嘩になる。だけど相手の人間性とかを攻撃したいわけでは全然ないわけだから、
👨うん、そうだね。
👩お互いに、もう厄介だと思うことはあっても、お互いに違うから、さてどうするかという最終的には話し合いになるのですよね。
👨そうですね。
👩それは、喧嘩とはいうけれど、喧嘩ではないのだとも思うの。
👨うん。
👩あと、喧嘩は別にいいとも思っていますしね、私。喧嘩は争いではないと思うし。喧嘩って、正しい喧嘩ね。正しい喧嘩と正しくない喧嘩があると思うの。暴力は喧嘩ではない。
👨うん、ごりごりやるのは全然かまわない。そこに憎しみがなければいいのですよ。
👩あと、一方的でなければ。ちゃんとお互いが同じ装備で、対等な立場で殴りあいをするのであれば、合意のもとで殴り合いをするのであればいいのだけれど、たまに会社などで見かけられるのは、まあ会社だけではないのだろうけれど、結構ふた昔ぐらい前の演劇の現場であったのは、一方的な、同じ装備をつけているように見えて実は一方的なぶん殴りというただの暴力。そういうのを見たことがあるなぁとも思うし、今でもどこかでまだあるのだろうから。
👨あるのだろうねぇ。ただ、今はあったとしてもそういうことは割合とおおっぴらにできるから。
👩そうそう。そうなの。でもそれもさぁ、おおっぴらに出来るからなにという。人に、なんかさぁ、傷つけていい人なんかいないし、傷つけていいですよなどと言われている人なんていないし、悪意を持って結果傷つけてしまうということはあるにしろ、やってやれみたいな、傷つけてやろうということが目的だったりとか、凹ませてやろうみたいなものが目的だったりの人間性否定みたいなことはもうやめようよって。
👨そう、そうだね。
👩だし、気をつけなければなとも思います。
👨ああ
👩おしさんもおねえさんも、けっこうしっかりとおじさんとおねえさんだから、日々変わっていく中でもそういう風に思います。
👨はい。まあでも、なんだろう、性格は違っていても全く乖離していてもこういう話にはならないのだろうけれどね、たとえばお芝居をみるとか歌舞伎でもよいし映画でもよいのだけれど、何かを観ると言うことに対して同じベクトルがあるからね。なおかつ私はおねえさんのこと、そのセンスをとてもとても信用していることをわかってもらっているので、だからこうやって喧嘩っぽいことを言っても大丈夫なのだろうなと思っているのですけれどね。👩そうですね。そうしてちゃんと思ったことを言っているから。
👨そう、それはいいことだよね。
👩で、結果として、そういうつもりではないということもどっかではわかっているけれど、言葉にしたときにはなんか違う形になっていますよとかも言えたり、こういうつもりだったんだよって、そんなことは言ってないよっていう風にもいえる。たまたまさっき、ちょうどこの収録を始める前にもそんなことがあったのですけれどね。
👨いわゆる教育的指導というやつですよね。
👩うふふふ。
👨ちょっと話を戻しますとね、お芝居の話に。あの、「鳥公演」ってわかりますか?
👩ああ、はいはい。存じ上げております。
👨鳥公演が先日『昼の街を歩く』という公演をされていて。
👩はい。

鳥公園『昼の町を歩く』ちらし(部分)

👨東武東上線某駅から徒歩5分ほどの一軒家を借り切ってね。玄関をはいっての小さな庭にブロックや椅子を並べて客席にして縁側ごしに部屋の中を眺めたり、1階、2階と移動をして部屋の隅から眺めたり。2階の物干しのところまで舞台の一部に使ったりして、それを満席の観客10人で上演したのだけれど。
👩えぇ、ふーん。
👨これも、本当に面白かったですね。
👩へぇ。
👨1階の縁側の引き戸があいて、横に寝そべって積み重なっている男女が現れたときにはなんだこれはと思ったけれど、でも奥の古びたブラウン管のテレビに新幹線からの風景が流れて、台詞を聞いたり所作を見ているうちに、それが東京から関西の実家に向かう男女のカップルのデフォルメされた姿であることに思い当たる。で、その家は男の実家で姉がいるという設定で、男は家に帰るとすぐに食器を洗い出したりもするのね。知らない家のしきたりに連れが取り込まれている。また、以外と社会的な部分も織り込まれている作品で、差別問題が背景にあったり。あと、印象に残ったのは皿うどんの食べ方とか、なんだろ、女性が男の実家にやってきて感じる違和感のようなものが体感みたいになって空間を満たす。感情の沸き立ちみたいなものが、水を注ぐとしゅわわって泡立つもので表現されたりするのもすごいなと思う。👩へぇ、面白い。絵画みたいな演劇ですね。
👨ああ、そうですね。あと、Webで販売されている台本を購入してみると、場面のひとつずつが極めて美術などの工夫や俳優達の身体で描かれてもいて、そういうところがダンスのような語り口にも感じられて。
👩うんうん。
👨ほんと戯曲に描かれてることがいろんな工夫の積み重ねで、作品の空間へと組み上げられている。この作品もしっかりと時間をかけて作り込まれたらしくてね。
👩はい。
👨観終わって、玄関を出たときには、とても贅沢な物を見せて貰ったなぁって思って。本当に、細かいところまで観客の想像力を引き出してくれる演劇っておもしろいですよね。
👩うんうん。
👨あと、同じように演劇の話をすると、「烏丸ストロークロックス」という団体があって、その団体がこまばアゴラ劇場で『新平和』というお芝居をやったのですけれど。
👩はい。

烏丸ストロークロック+五色劇場『新平和』

👨それは原爆の物語でもあるのだけれど、その原爆投下の惨状とかが前面に語られるわけではなくて、広島の爆心地付近の街に戦前から暮らしていた一人の女性が、戦争の時代を歩んでゆき、やがて疎開中に原爆が投下されて家族を失い、住んでいた場所を失い、そのあとの日々をどう生きて行くかという話なのね。その女性の日々を追うことで原爆が投下されたことで変わってしまったり、失われたりしてしまったものも浮かんでくる。
👩へぇ。
👨それは、彼女の人生でもあるし、彼女と関わった人々や場所や歴史の物語としても語れていて、原爆を題材にした演劇というと、ただ悲惨なイメージがあるけれど、この舞台にはそれとは違う原爆が投下された街に生きた人々の姿という筋が一本とおっているのよ。ウクライナの戦闘シーンなどをみていても思うのだけれどね。そこには爆破されたアパートがあって、壊れた部屋やに立ちすくむ住人の姿に戦争のありようを感じてはいるのだけれど、本当はそれらは彼らの毎日に繋がっていて、もっといえば戦車に乗っているロシア兵にもそこに続いたりそこからの日々があるはずで、でも、だんだんと映し出される風景の非日常に慣れてしまい、ありえないことの違和感が鈍になり、ひとりひとりの歩みへの思いも麻痺してしまい感じられなくなっていく。この舞台の後ろには黒板が設えてあってね。物語が進む中で彼女の人生がそこに書かれていくという演出も上手いなぁと思った、そこにぐちゃぐちゃにいろいろなものが書き込まれていくことで彼女の生きる重さが伝わってくるのよ。観終わって、そこにはこれまでに舞台に描かれた戦争とはまた別の感覚というか生きることや見え方やそこから浮かんでくる時代の位置づけのようなものを感じて。鈍になっていたウクライナの非日常な風景の先への思いも戻ってきて、改めてそれも考えさせられた。
👩そうか、戦争か。なるほどね。今はそういうことか。うーん、
👨やっぱり演劇の自由さってたくさんあってね。作り手がこういう語り口を使えば観客は全く違う視座からの戦争を観ることができる。
👩はい。
👨ただ単純に主人公の人生に感動したというのとはまた違って、なんか異なる戦争の姿を受け取ったというような感じでしたね。
👩うんうん。
👨それは、きっと台本で読んでも映像で観てもそこまでははっきり受取れなくて、多分あの空間で演じられそれと共にあったことで受け取った感慨のようにも思うしね。
👩うん。
👨演劇というのは、二次元とか三次元、二次元半とかいろいろな言い方もされるけれど、やっぱり感じている物は次元で言うとn次元なのだろうなとか思ったり。
👩ああ、なるほどね。
👨ええ。
👩そうか。なんかね、本当にいろんな意味でね、演劇を観たいなぁと思うんですよ。こういう話を聴くとね。
👨うん。
👩だから、いますごく大変になっていてさぁ。きっとね、演劇って救いなのだよ。救いになる場合があるんだよ。で、おじさんは実際その中でいろんなことを考えることができたりさ、救われたりしているわけでしょ。でも、今ここでさ、心が弱っていたりとか、まあいろんなことがあって、その世の中が普通の状態ではなくて、で、私はどちらかというと演劇を観ることができなくはなった。舞台とかは1枚挟みたいと思うようになったのですね。それだけ舞台ってすごいということなのですけれど。その、刺激になるんですよ、ものすごく。で、それを受け入れるために、しっかりと受け取るためには、やっぱりある程度心が健康でないと。
👨うん。
👩健康じゃないわけではないのですけれどね、私も元気に生きてはいるのですけれど、でもなんか、なんかね、筋肉がうまく使えないというか、その、観劇筋がうまく使えないというか。今はね、ほんと観に行けない。
👨うんうん。
👩舞台の演劇から始まっている演劇のおじさんとおねえさんだし、それはもうまったく変わってはいないのだけれど。
👨うん。
👩まああの、今面白いんだよ、だから。演劇を観にいくことで救われるおじさんと、演劇を観にいかないことで、別の、なんでしょうね、別のところに目をむけることで救われている。
👨まあ、守られているというかね。
👩うん。だから舞台って観に行きたいんですよ、基本的にはね。だけど、映像のほうが今はいいという感覚を、私はコロナからこっちでしっかり実感として味わっている。舞台を観にいくのが難しいというかね。元々舞台はものによっては辛くなってしまったりとか、喰らいすぎたりすることがあるのだけれど、映画でもそうだけれど、でもなんか舞台を観にいけないみたいなことはなかったんですよね。この作品はあまりその・・・みたいなことはあったけれど。基本的に舞台は観に行きたいという。今も別に観に行きたくないわけではないのだけれど、受け止めきれないというのが正直なところ。だから映像でいっぱいやってくれるのは本当に助かります。
👨まあ舞台もねぇ、舞台って実際に観ないと何が起こるかわからないからねぇ。
👩そうそう。
👨映像だと止められるというか非常口があるからねぇ。
👩あの、あれでしょ。意図せずに傷つくことがあるから、舞台はそれだけ力が強いということですよ。でもそれだけ救われプラスに力が働けば人の人生だって変えるものだと思うから。観劇体験で人生が変わることだってあることだしさ。
👨あの、DULL-COLORED POPが今『PROOF/証明』というお芝居をやっているんですよね。

DULL-COLORED POP 『PROOF/証明』

👩ああ、はいはい。
👨この戯曲に関しては、昔のダルカラのものも観て、たしか渋谷EDGEでやったその再演も観て、百花亜希さんがご出演だったバージョンや風琴工房の芝浦での上演なども観ているのだけれど。
👩私も『PROOF/証明』はやったことがあるよ。
👨わぁお、やったことがあるの!キャサリンを?
👩うーん。
👨それはすごいなぁ。
👩キャサリンじゃない。
👨じゃあ、クレアを?お姉さんの方を?
👩うん。お姉さんの方。
👨だったら、もし観たらますます感じるかもしれないけれど、本来知っている戯曲だったら安心かという話もあって。
👩そうねぇ。
👨でも、今回のダルからの『PROOF/証明』って3バージョンなんですよ。
👩はいはい。
👨そのうちのふたつのバージョンを観たのだけれど、全然訪れる感覚が違っていてね。知っているものであっても、演劇ってそういう懐が深いということをすごく思いましたけれどね。
👩そうね、懐が深いね、うん。なんだろうね、なんか今結構さ、舞台のラインナップをちょっと観ると刺激が強そうって思うのですよね。なんかさ、あると思うよ。いろんなことが起こっているから反比例して、別にコロナの話をしているわけではないし、そうではないのだけれど、でもね、やっぱり刺激を受けているのだと思うんですよね。
👨それは、作り手の方がっていうことね?
👩そう、作り手の方が。今までだって受けてはいたと思うけれど、こんな世界を揺るがすようなことがいっぱい起こっている中で影響を受けないわけがないから。影響を受けるに決まっているから。だから今作られているものってけっこう刺激が強いんだよなぁ、なんた。
👨まあ、『PROOF/証明』のことでいえば、谷賢一さんが、そういういろんな演劇の可能性を観客のほうに提示するような感じの隠れた意図もあったのではないかと私は勝手に思っているのだけれど、それほどにバージョンでの違いがあって。まあ、私はスケジュールの関係もあって3バージョンのうちのふたつしか観ることができなかったのだけれど、でもふたつを観ただけでも、あと風琴工房を含めてこれまでに観たものと比較しても、毎回これだけ人物の見え方や印象やそこに浮かんで残るものが違う演目も珍しいなと思うくらい違って感じられたから。
👩うんうん。
👨それは、谷さんにとって演劇の世界を作る企みや意図を違えて見せやすい題材でもあったのだろうなとは思うのね。
👩うん。
👨でも、それは、おねえさんのように戯曲を知っていても、たとえば印象が変わったり別の切っ先が生まれて逃げ場がなくなるリスクということを心配するひとにとっては困る優れ方なのかもしれない。そもそも演劇ではある人にとってはねこじゃらしのような感触のものが別の人にとってはゴワゴワのたわしになったり刃物になったりということはあるからね。演劇というのは観る側もリスクを持って客席に座るものなのだなぁというのを、今のおねえさんの話を聞いて思ったけれど。
👩うんうん、そうなんですよ。
👨まあ、面白くても刃物を含んでいるものって確かにあるかもね。あのさ、今シアタートップスでは「関西演劇祭」というイベント的な演劇興行をやっているんですよ。関西では毎年行われている催しみたいで。その東京お披露目ということで、過去3年間にその中で賞をとった団体が45分くらいの作品を上演するのだけれど。
👩うん。

関西演劇祭@シアタートップス

👨そこに吉本の芸人さんが集まっている「コケコッコー」という団体がご出演で。
👩ああ、はい。
👨ご存じですか?
👩うん。
👨そこと「くによし組」が抱き合わせになっていて國吉さんの作るものは外せないと思って観たのだけれど。くによし組『眠る彼女とその周辺について』は、これまでの舞台の不思議さに磨きがかかってのわかりやすさもあって、その絵本というか戯画的な語り口を受け取っていると、シェアハウスで暮らす男女の日々が自然に入り込んで来て、気がつけば、ソコには日々を過ごすことへの俯瞰おかれていて。劇団員の永井信一さんが、開演前から板付きでずっと横たわりつづける献身的なお芝居で、でも彼が演じる女性の存在が観る側に渡す人生のありようのようなものが、生きる歩みの存在感に翻って、国吉さんならではの舞台だなぁと感心した。
👩うん。
👨で、コケコッコー『つまずく夜』なのだけれど、ゆうても吉本の芸人さんだから馬鹿馬鹿しいことをやり尽くすのかと思ったら、吉本の芸人さんたちって人物造形の天才なのね、ひとりずつが。世に芸人と言われる人は、言い換えればプロの喜劇役者でもあるんだなぁって気がついた。
👩はい。
👨で、群像劇ともいえるのだけれど、笑いもたくさんあるのだけれど、コアはペーソスを持ったしんみりした人情噺になっていて。随所にジャブのようなボケ突っ込みがあったりもして面白いのだけれれど、その重なりが人物がいることでの空間の実存感でもあって、演劇の力として自分もその空気に同居しているような感じもして、その居心地の中で空間に満ちる切なさや慰安にも染められて。
👩うんうん。
👨それは観ていて、小難しいことを考えることなく素直によいなぁと思ったりもしたのね。でも、どちらの作品でも、この記憶はいつか自分が弱ったときにそこに共鳴して一層辛くさせるなにかが隠されているようにも感じた。もちろん終演後はおもしろいがそれを塗りつぶしているのだけれど。
👩うーん、そんな風にまた思えるようになりたいですけれどね、なかなか。今はちょっと休憩中という感じかなと。ただ、違う角度から演劇を観ていけるからよいかなぁと思うけれど。いやぁ、なんだか今日は演劇を絡めつつ自分たちの話みたいな感じにもなりましたけれどね。
👨といいながらも、おじさんとしては、さらっと観たものに対する観想などもいれてしまったりもしたので。
👩あははは。興味深い作品たちだとも思います。そしてこの距離が今は良いのかなぁとも思います。
👨あはは、なるほど。
👩まあ、そんなところですかね、今夜は。
👨そうですね。それでは今夜はこのくらいにしましょうか。
👩はい。
👨それでは、演劇のおじさんと
👩おねえさんでした。
👨次回もお楽しみに。
👩おやすみなさい。 

ポーランドのチョコレート

(ご参考)

・ドレスデン国立古典絵画館所蔵
 17世紀フェルメールとオランダ絵画展
 2022年2月10日~4月3日@東京都美術館

・『WEST SIDE STORY』
    監督・製作 : スティーブン・スピルバーグ
 脚本 : トニー・クシュナー
 出演 : アンセル・エルゴート レイチェル・ゼグラー
      アリアナ・デボーズ  マイク・ファイスト​ 
      デヴィッド・アルヴァレス リタ・モレノ
      2021年/アメリカ映画/上映時間139分 

・制作「山口ちはる」プロデュース​『THE LAST SHOW』
 2022年2022年3月2日(水)〜6日(日)@新宿シアタートップス
​ 脚本・演出:山崎洋平(江古田のガールズ)
 出演 : 緒方 晋(The Stone Age)角島美緒
                      カトウクリス(江古田のガールズ)丹下真寿美(T-works)
                      青木ラブ 阿部遼哉 塚原直彦(劇団モンキーチョップ)
                   石崎和也(動物電気) 奥田龍平 藤城七瀬
                      田井弘子(鯛プロジェクト)瀧澤依由(BuzzFestTheater)
                      長尾友里花(柿喰う客)古川和佳奈 松尾太稀
                     山本華 山崎洋平(江古田のガールズ) 

・鳥公園『昼の街を歩く』
 2022年2月26日(土)〜3月6日(日)@PARA
 作  : 西尾佳織
 演出 : 蜂巣もも
 出演 : 伊藤彩里(gallop/カイテイ舎)大道朋奈 松本一歩 

・烏丸ストロークロック×五色劇場『新平和』
 2022年3月3日(木)-6日(日)@こまばアゴラ劇場
 作・演出:柳沼昭徳
 出演 : 東圭香 小林冴季子 坂田光平
      澤雅展 高山力造 福井菜月 
      深海哲哉、松陰未羽、山田めい 

・劇団DULL-COLORED POP 『PROOF/証明』
 作:デヴィッド・オーバーン
 翻訳・演出:谷賢一
出演 : 
A Version 大内彩加、宮地洸成、大塚由祈子、 大原研二
B Version 伊藤麗、阿久津京介、原田樹里、中田顕史郎
C Version 柴田美波、 竪山隼太 、水口早香、古屋隆太

 ・関西演劇祭
 2022年3月8日(火)~13日(日)@新宿シアタートップス
 ~3月9日 昼公演~

 くによし組『眠る女とその周辺について』
 作・演出 : 國吉咲貴
 出演 : 國吉咲貴、永井一信 (以上、くによし組)
      塩原俊之 渋谷裕輝 田原靖子(カムカムミニキーナ)
      タナカエミ 谷茜子

コケコッコー『つまずく夜は』
作・演出 : 野村尚平
出演  : 安場泰介 萌々 堀川絵美
      伊丹祐貴 洲崎貴郁 鎌田キテレツ
      重美佳佑 野村尚平

  

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