本郷の鳳明館森川別館、過去をうめるピースだった
月に一度、大学病院へ通院しています。朝7時に受付を済ませ、検査が始まるまでの約1時間半、近くの本郷界隈を散策するのを楽しみにしてます。今回は鳳明館、どうやらここがわたしの過去を埋めるピースのひとつだった。
中学校は関西。修学旅行は東京、箱根方面への2泊5日、行き帰りは夜行専用列車です。1泊は本郷界隈の旅館だった。先生に叱られて枕投げはそこそこに旅館を抜け出し、見当をつけて少し歩き東京大学を通りの向かいから眺めた。
鉄パイプが縦にならんだ大きな扉門が暗い中で見えた。閉まっていたような気もするが定かではない。赤門じゃない、多分これが正門なのだろう。赤門はどこか見当もつかずあきらめて戻った。受験などまだまだ先のこと、のんきな田舎の中学生は高い志も決意も抱かなかった。
泊まった旅館はどこだったっけ。
ずっと気になっていた。ずいぶん前の話だし今もまだ残っているのだろうか。修学旅行生を受け入れるような大きな旅館は何軒かあったのだろうが、本郷通りとその裏通りにその面影はない。過去何回か近辺をうろついて、それが結論だった。
今朝のこと。菊坂の樋口一葉旧居跡から左にさらに上っていくと、竹久夢二や尾崎士郎、谷崎潤一郎らが滞在したという菊富士ホテル跡の碑があり、それを背にまっすぐ歩くと「鳳明館森川別館」の看板が目に入った。
「鳳明館?別館があったのか」
玄関前の下り道に沿って、いかにも由緒ありそうな旅館っぽい建物。角の右手の道、少し先には大通りが見える。散歩中は地図見をしないので、頭の中の地図を引っ張り出した。ここは正門に近いのでは?
大通りは本郷通りだった。右手に予想通り正門が見えた。
これでピースは埋まった。間違いない、この旅館でしょう。
帰ってネットで調べると、なんと鳳明館3館は休業中だという。
「昭和25年よりの創業以来、皆様にご愛顧頂いて参りましたが、諸般の事情により、本年(令和3年5月末日)より暫く休業する運びとなりました。」
ひと足遅かった。
せっかくピースが埋まり、ここに再泊すればほかにも思い出すことがあったかもしれないのに。それにしてもタイミングが悪い。気がつくのが半年前ならと悔やむことしきりです。
コロナが明けて再開を願うのはもちろん、それがかなわぬならせめて見学会でも開いてもらえないでしょうか、小池邦夫社長さん。