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出張カバンにはポケット瓶

カバンにはウイスキーのポケット瓶とピーナッツを少しだけ入れておけという先輩の教え、これを忠実に守ったものでした。あの時代、地方に行くと列車がよく遅れた。しばらく止まっても、周りの人を尻目に悠々と時を過ごせる。もちろん、夕方だけれど。

台風シーズンの新幹線はとくに注意が必要だ。どこか駅で列車がストップすると、後続の新幹線は駅じゃないところで止まらざるを得ない。そう、ドアが開かない状態で待機することになります。

しばらく前のこと。東京を夕方に出て新大阪に向かったとたん、小田原駅の手前でストップしたことがあった。止まったはいいけれど、1時間たっても動く気配がない。もちろん駅じゃないからドアは閉まったまま。台風直撃だったから長丁場を覚悟しました。

先輩の教えどおり、ウイスキーのポケット瓶はカバンに忍ばせてある。夕方だからビールと弁当は買ってあった。でもちょっと寂しい。社内をめぐって売り子さんをさがし、おつまみと追加の飲み物を多めに仕入れた。売り切れたら補給がないから。

次に、ガラガラだったグリーン車に席を移して、ゆったりのリクライニングシートを先に確保、だれも乗ってこないから車掌さんも公認です。文庫本もある。これで準備はできた。

結局、翌日の夕方まで、20時間あまりも動かなかった。

別の新幹線に同僚がいた。彼は新大阪で飛び乗って、京都駅をすぎたところで立ち往生だったらしい。翌朝、ケータイが鳴った。「ひどいよ、ビール1本とサンドイッチでずっとだよ」という。こちらは備蓄が十分だったけれど、可哀そうなので「同じ。ひもじい思いをしてる」と口裏をあわせたのを覚えている。

駅弁はシウマイ弁当がいい。小さめのシウマイ5個に、唐揚げ、マグロ、卵焼き、かまぼこ、それにタケノコ煮がついている。なんといっても、蒸しあげたごはんが旨い。経木のフタに何粒かついて、まずそれから。梅干し、生姜、昆布と杏子の口直し。そう、シウマイ弁当は全部が酒のつまみになる。そのときもこれで楽しめた。

最近は台風が近づくと、事前に運転調整するからこんなことはないかもしれません。でも、用意だけはおこたりなく。