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マスとマメ、新入社員のころ教えてもらった「商い」の話
営業の新入社員に何か話をしろと、人事部からの要請があり、「マスとマメ」の話をすることにしました。これは数十年前、わたしが新入社員だったころ、得意先の会長さんから教えていただきました。
昔のことですから、豆屋の丁稚さんと番頭さんの話です。
番頭さんが
「ここに1升マスがある。マメをいれてみなさい」
丁稚さんは店にあるソラマメをもってきて、マスに山盛りに入れ最後に棒でかききって、
「できました、番頭さん」
「ほう、よくできたね。もうそれで終わりかな」
「もう入りません」
「じゃあ、アズキをもってきなさい」
アズキの袋をもってくると
「隙間にいれてごらん」
「あっ、入ります」
とんとんと、マスを持ち上げて落としながらやると結構入るものです。
「もう、入りません」
「じゃあ、次はゴマだよ」
同じように、ソラマメとアズキの隙間にゴマが入っていきました。
「隙間がなくなりました」
「たくさん入ったねえ。もう終わりかな?」
「無理です」
番頭さんは立ち上がって、奥からやかんをもってきました。
マスにそうっと水を注ぐと、吸い込まれていきます。
「わかったかな?マスはお客さま、ひとつ買っていただいてそれで満足するんじゃないよ」
「はい、わかりました」
「でもまだ終わりじゃないよ。もうひとつマスを持ってきなさい」
何年か経って、担当した商品はなんとか売上げを伸ばすことができましたが、そのとき、番頭さんの最後の言葉を思い出しました。
もうひとつのマス。
今度のは赤い色に金星が5つ、とてつもなく大きなマスでした。これは今でも一杯になりません。しかも、途中から変なマメがたくさん入ってきて、邪魔されるし、押しのけて自分のマメを入れるのが大変です。