クジラの日
9月4日はクジラの日、ク(9)シ(4)ラ、だそうだ。日本の商業捕鯨が再開されて4年、青森沖で捕れたニタリクジラが豊洲市場にあがった。冷凍じゃなく生、しかも尾の身は1キロ21万円の高値がついたという。
クジラといえば、津本陽さんの「深重の海」ですね。紀伊半島南端の太地のクジラ捕り漁師の話で、巨大なセミ(背美)クジラを小舟で追い、沖の黒潮に流されて犠牲者をだした。明治11年ころの話、以後、時代は近代的捕鯨に変わっていく。
あのペリーだって、アメリカの捕鯨船の補給基地を鎖国中の日本に求めるという目的のためにやってきた。メルヴィルの「白鯨」は、捕鯨船ピークォド号船長のエイハブとマッコウクジラの物語であり、舞台は日本沖だ。当時、クジラの脂は燃料や潤滑油の原料として需要があった。その後、油田の発見により鯨油の需要が減少しアメリカの捕鯨は衰退した。
太地の「くじら博物館」には実物大の模型が展示され、その大きさに圧倒される。「深重の海」の時代の小舟や刃物、銛などもあり、時代考証を楽しめた。でも冷凍や冷蔵技術のない時代に、捕ったクジラを和歌山まで運んだというが旨かったのだろうか。
造船所が今のようなドック式ではなく、船台式の方が主流だったころ、進水式はシャンパン瓶を船体にぶつけ、ロープを斧で切って船がレールの上を滑り降りる。この滑剤として、クジラの脂を大量にレールの上に敷くのだそうだ。食用になる高級品なので、見物人は競って残った脂を持ち帰ったと長崎造船の人から聞いたことがある。
思えば、捕鯨は遠くなってクジラ肉も高級品だ。子どもの頃は近所の魚屋さんに10-20センチ角の赤いクジラ肉の塊が並んでいた。生姜醤油焼きをよく食べたし、缶詰もあった。竜田揚げも同じだが、ひと口目はどうしてもクジラが「におう」。その点、先の「生・尾の身」は新鮮で、きっと臭みがなく旨いのでしょうね。
クジラの商業捕鯨。IWCから日本は脱退したけれど、資源保護のための頭数制限は厳格にまもっている。日本で唯一の母船式捕鯨の「共同船舶」は、電気推進式で室内解体、リーファーコンテナでのロット管理できる最新式の船を建造する。たくさん捕獲することから、付加価値の高い食材の提供へと業態が変化する。
ミンククジラの刺身が旨かった浜松町のクジラ料理店、いくつかのクジラ種やいろんな部位の料理があった。残念なことに3年前に閉店した。商業捕鯨で、食文化を守りながら旨いクジラを期待したいものです。