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3-2=1

田舎の家は親が建てた。ふたりとも亡くなって相続したが、住むあてもなくそのままになっていた。

子どもが小学校に入るころ、借り上げ社宅の前にマンションが建って日当たりが悪くなった。バブルがはじけたとはいえ、まだまだ地価が高く、近くではとても買えそうにない。ようやく見つけたところは会社まで1時間半、乗り換え2回、バス1回の建売。選択肢は少なかった。住環境がよかったのでローンを組んで買った。

年が経て、ローンも終わりやれやれと思って近所を見回すと、すでにこの団地も老齢化してインフラが貧しくなっているのに気づいた。そう、スーパーが店じまいし、コンビにもないし、銀行もATMだけになった。お医者さんも高齢化している。駅まではバス便で本数は少ない、さりとて歩くのは遠い。これじゃ、このまま年をとると自力で生活できなくなるのじゃないか。

少し離れた、新しくできた駅近のところに物件があった。多少の蓄えはあったが足りるはずもない。ええい、とばかり娘に借金を負わせて買った。

これで、3軒の家持ちになった。

あとは、金策。つまり資産売却です。

田舎の家はようやく買い手がついた。二束三文に近いが、需給からみて売れるだけまだましなほうと踏ん切りをつけた。

2軒目、これも買ったときの約1/3。建屋はゼロ評価だし、土地も値下がりしている。そこはわたしも出て行こうというロケーション。仕方ありません、手を打ちました。

3-2=1

この先、土地価格が上がるのならほかの方法をとったかもしれません。でもそれはいつになるかわからないし、ないかもしれません。負の遺産を残すことはできない、というのが結論でした。残ったのは今の家、1だけです。

マイナスした2、その「実在」が消えてしまった。1は物心ついてから自分の15年、2は子育ての25年間のこと。舞い戻ってくるのはまぶたと心の中だけなってしまいました。