戻った客足
お弁当を頼んだ。電話口でおかみさんが申し訳なさそうに、「6月から200円値上げさせていただいているんです、よろしいでしょうか」という。そう言われてもねえ、ここの鰻ははずせない。
関西風に焼き上げたパリっとした皮は、蒸しあげた鰻にはない旨さがある。鰻ならここ、と決めている。年に何回か、友人や家族でこの店に来るのが楽しみだったが、ここ2年あまりは残念な状況が続いていた。
テイクアウトならと、お弁当を家人からせがまれて店に足を運んだことも何回かあった。ついでに、ビールを一杯飲んで帰ろうとしたら、アルコールは出せないんです、と言われた時も。
引き戸に手書きの張り紙があった。
「只今、満席で申し訳ありません」
入口のカウンターに、紙袋にはいったお弁当。おかみさんが奥から顔を出して、
「出来てますよ」
「忙しい?」
「おかげさまで、戻ったみたい」
「予約してこなくっちゃね」
「お酒も大丈夫ですから、ぜひ」
やっと客足が戻ったようです。
ご主人とおかみさんが、
「こんな状況ですけど、頑張ってますからよろしくお願いします」
と真顔で言った時期は過ぎたようです。