お目当ての客
「こんにちわー」
「カロリー半分でーす」
「こんにちわー」
「じゃんけん(グー)」
日曜日、ショッピングセンターの食品売り場の奥から聞こえた。大きな声で「こんにちわー」を繰り返して、対面販売しているようだ。商品のパネルや旗、陳列はあるがだれもいない。テレビがあった。赤い服をきて水色の帽子をかぶり、右手にマスコット、左はじゃんけん「グー」の絵をもって。
乳酸菌飲料メーカーのリモート対面販売だ。
そうか、今は「おばさん」とはいわず「レディ」になった、乳酸菌飲料を配達する女性のようだ。コロナ禍ゆえのあたらしい販売方法か。
買い物客の年配女性がやってきた。商品をひとつ、オマケのウエットティッシュを手にとって、テレビにおじぎをして向こうへ行った。じゃんけんはしなかった。
「こんにちわー」
じいさんがやってきた。じっと見てる向こうで「こんにちわー」とさかんに手を振っているが反応がない。マスコットもグーも効果なし。行ってしまった。
3歳くらいの子どもを連れたお父さん、何か話をしている。子どもは興味を示さず走り回っている。ひとつ手にとって「これ?」、別のがいいらしく「こっちのほうが」と説明書きを示しながらカゴにいれた。
「じゃんけん、グー」
グーが見えてるからパーを出してお父さんの勝ち。参加賞をもらって子どもを置いて行った。
「こんにちわー」「じゃんけん(グー)」
そのあと、しばらくだれも通らないが声は途絶えない。がんばらないとね。だれか寄ってあげてよ。
20分くらい見ただろうか。テレビのバナナマンのモニター会話番組を思い出した。そうか、少し離れているけど、向こうからわたしが立っているのが見えているのだ。
「こんにちわー (そこのおじさん)」
だったんだ。