僕の宿毛高校物語エピソード3.5【最高の1勝】
1度も勝つことができなかった3年間。
しかし、宿毛高校男子バレー部最初の1勝はこのエピソード3の主役であるツヨシにプレゼントしたいという想いが僕の胸の奥にはありました。
実は、偶然にもその年から春高バレーの開催が1月に変更されており、3年生最後の大会が県体(インターハイ予選)ではなくなっていました。3年生は県体で引退する必要はなくなったのです。
しかしながら、3年生が11月に行われる春高予選まで残るというのは進路諸々を考えると容易なことではありません。自分自身の考えとしても、11月の春高予選まで3年生を積極的(強制的)に残すというつもりはありません。
多分に漏れず、やはり、ツヨシも県体で引退する道を選びました。
迎えた11月の春高予選。僕は密かにツヨシの名前を大会申込書に書いていました。
そして、新チームの選手たちにツヨシを出場させていいかどうかの相談をします。引退してから全く練習をしていないツヨシを貴重な公式戦に出場させるのです。その結果、出場機会を奪われてしまう選手だっています。僕の想いだけで、ツヨシを出場させていい訳はありません。
あの日、ツヨシと最後のコートに立つことすらできなかったギプスの裏エースは、このときキャプテンになっていました。
「一緒にやらせてください。」
彼らに迷いはありませんでした。
後輩思いのツヨシは最初遠慮しましたが、最終的にに出場する決意を固めてくれます。
こうして訪れた春高予選1回戦。なんの因果か対戦相手は県体の会場校であった高知小津高校。申し分ない相手です。県体ですり抜けていった一勝を勝ち取る戦いが始まりました。
当然のことながら試合は一筋縄ではいきません。試合はフルセットに持ち込まれます。最終セットも一進一退の攻防が繰り広げられる中で、ついに宿毛高校はマッチポイントを迎えました。
ここで僕は副審に「タイムアウト」を要求します。
通常、得点したチームがタイムアウトを要求することはありません。副審も驚きながら両チームにタイムアウトの指示をします。
ベンチに戻ってきた選手たちに僕はどうしても言いたいことがありました。
ひとつは
「ありがとう」
まだ勝った訳ではないけれどどうしてもこの言葉を伝えたかった。
そして、もうひとつは
「最後の1本、エース(ツヨシ)につないでくれ」
これは僕のただのワガママだったのかもしれません。でも、最後の1点は、初代チームからここまでがんばってきたツヨシに決めてほしかった。
やがてその時は訪れます。
セッターから放物線を描いてエースに届けられたトスが、相手コートに落ちました。
このあとのことはなぜかあまり覚えていません。
よほどうれしかったのでしょう。
これほど嬉しい1勝は後にも先にもありません。
その後の集合で、やっとツヨシが泣きました。
僕も、ギプスのキャプテンも、みんなが泣きました。
優勝した訳でもない。
まわりから見たらたったひとつの、ちっぽけな勝利だったかもしれません。だけど、3年かかってやっと手に入れたこの勝利は、今でも僕の胸のなかで光り輝いています。僕にとってはオリンピックの金メダルよりも大切な、最高の1勝です。
エピソード3はここまで。
次回「開拓」
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