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水深800メートルのシューベルト|第988話

「ああ、君の言う通りだよ。若いうちは、勉強せねばならん」
「大尉は、なぜこちらに?」


 ドビーの余計な一言に思わず顔を見た。彼の目は「あなたがここに来る必要はないのでは?」と語っているように思えた。しかし、長い艦船暮らしの中で身についた処世術の賜物なのか生来の性質なのか、あらゆる種類の嫌味や皮肉を感じ取っていないように、大尉の茶色の瞳はいささかも揺れず微笑みを浮かべたままだ。


「歳を取ると暇なものでね。ここにいる若い物から刺激を受け取りにね」
 わざと、必要以上に年寄りに見せている、そう思った。ドビーはもう、それ以上馬鹿にしようとはしなかった。


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