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水深800メートルのシューベルト|第552話

違う、手伝わせてもらえなかったんだ。メリンダを助けたかったのに。自分が役立たずぶりが嫌になった。誰も、僕のことを必要としてなんかいない。目に涙が溜まって溢れそうになり、慌てて上を向いて鼻をすすった。


 後ろの方では、僕なんか初めからいなかったかのように、音楽と笑い声がこだましていた。通りの脇に寝転んでいる酔っ払いや、化粧をしている短いスカートの女の人に、泣いているのを見られないよう、できるだけ道の真ん中を選んで、バス停に向かって駆けだして行った。

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