「私、笑っていません」
女の声が聞こえたので、少し頭を傾けて覗くと、最前列でさっき駆け付けた女の子だった。教官の方に向き直り、黒い瞳を見開いて抗議していた。
「命令だ。聞こえなかったのか? それに、お前はさっき許可なく列から離れた。それだけでも充分だ」
それだけ言うと、彼はライフジャケットを一つ取り上げ、僕の近くまでやって来ると、もう一つのオレンジ色の胴衣を取り上げて命令した。
「プールまで駆け足。急げ!」
みんな反抗しているのか、それとも疲れているのか、バラバラの足音を立てて駆け出した。
第683話へ戻る 第685話へつづく
第1話に戻る