水深800メートルのシューベルト|第681話
「ようし、係留しろ!」
教官の声にはじかれたように、ロープを持ってボラードのところへ戻り、そこにロープを縛りつけた。
「違う! お前はロープワークもできんのか!」
すぐに、列の最前列に立っていた女の子が、ボラードの傍に駆け寄り、その黒い瞳で教官と僕をそれぞれ一瞥すると、僕の手からロープをひったくった。僕の巻いたロープを一旦解き、再度ボラードの周りに二度輪を作って、それをギュッと引っ張った。
教官が許可なく飛び出してきた女の子を叱責するかもと思ってハラハラしていたが、彼は先ほどまで怒鳴ったり罰を与えたりしていたので疲れたのか、物憂げな様子で、女の子の頭の頂上にある小さく丸められた髪の束をぼんやりと眺めていた。