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水深800メートルのシューベルト|第1112話

 ピアノが存在するというだけで、心が和む。しかし、それは何かの象徴的な意味合いであって、僕がこれで遊ぶ意味はないと思っていた。もっとも、気晴らしには良いのかもしれない。ただ、この状況で、艦の存在を秘匿している場合ではないとはいえ、音を出すにあたって、誰かに許可を得るべきではないのだろうか? 僕はその事を大尉に尋ねてみた。


「アシェル君は、事態が変わっても、規則を守ろうとするのですね」
 彼は肩をすくめていた。
「ほら、耳を澄ませてみなさい。誰かが通路を叩いていますよ」


 遠くで、ドン、ドン、ドンと打ちつけるような音が聞こえてきた。その音は、低くて柔らかみのあるものだった。きっと棒に布でも巻きつけて壁を叩いているのだろう。


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