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水深800メートルのシューベルト|第74話

「うえっぷ……、くそ……、ちきしょう……」
 パパは体を折り曲げて、アラブ人がお祈りするような格好で、地面に顔をつけた。その周りにみるみる赤黒い染みが広がっている。
「パパ、大丈夫?」
 パパは病気だと思って心配になったが、その血に触れると僕にも何か悪いことが起きるんじゃないかと思い、パパには気づかれないように、そっと後ずさりした。かかとから柔らかい草の感触が伝わってくる。
「おい……、ガキ……」
 倒れた体から頭だけ起こしたパパは、僕を呼び止めた。

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