水深800メートルのシューベルト|第830話
彼(ゲイルさん)は顔を上げた。
「ジュリアを誤解しないでやってくれないか。悪いのは私なんだ。彼女は、君が邪魔だなんて言ったことはなかったよ。彼女が君を引き取ろうとしたのは覚えているだろう?」
僕は、三人で会ったタコス屋での会話を思い出して頷いた。
「ええ、あの時は僕が断ったんですよ。お婆ちゃんとの暮らしにやっと慣れてきたところでしたから」
ゲイルさんは目を上に向け、天井のひび割れを見つめるようにしてから口を開いた。
「私から君に連絡すべきだった。連絡先を渡しただけで、自分の義務を果たした気になっていたんだ。すべてを君の自由意思に委ねたという自己満足でな。早く君を引き取るべきだったんだ」