水深800メートルのシューベルト|第194話
「可愛い? 子どもはそりゃ可愛いわよ。でもそれだけじゃ生きていけないし、幸せになれないの。子どもと一緒に暮らすだけでいいなんて、現実を知らないからこそ言える台詞だわ。子どもは可愛いだけじゃないのよ。泣くし、ご飯はグズグズ食べるし、散らかす。仕事に行こうとしたら邪魔をする。おしっこはやっと漏らさなくなったけど、外ではあの子がどこかに行かないかといつもヒヤヒヤ。いつも子どもに手を焼いて、仕事しながら生きていく大変さがわかる? 私だって親である前に女なのよ。たまには自由になりたいわ。あまりにも息が詰まりそうなときには、いっそあの子の首を絞めてしまおうと思ったこともあるの」
ママは、最後は叫ぶように喋って、言い終えると息をあえがせていた。