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水深800メートルのシューベルト|第618話

 
 
 最初にあの警官に会った時は、僕に虫けらを見るような目を向けていた。そう、今の軍曹のような。しかし、お婆ちゃんが死んでから、その目は相変わらず厳しかったが、僕への同情なのか優しさが混ざっているのに気がついていた。取り調べは殴られもせず、詰問する様子もなく、ただ淡々と事務的だった。まるで引っ越しの手続きみたいに。


 僕は尋ねられたことに正直に答えようかと迷ったが、結局弁護士のラスウェルさんやメリンダとの約束を守って、打ち合わせ通りの受け答えをした。陪審員の前に立たされた時も、あっさりとしていた。
「遺体を運びましたか?」と言う問いに、
「いいえ、やっていません」と答えるだけで良かった。

     第617話へつづく 第619話へつづく

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