水深800メートルのシューベルト|第986話
彼は諮問する教官のような口ぶりだった。
「太平洋ですね」
「目的地は?」
「オーストラリアです」
彼はそれを聞いて笑った。
「馬鹿、ざっくりした答えを言いやがって。HMASスターリング港だ。西海岸だ。向こうは寒いからな」
「はあ……」
西海岸と言われても暖かいイメージしか沸かないので首を傾げた。オーストラリアなんて南半球にある小さな砂漠だらけの白人の国という知識しかなかった。なぜそんなところへ行くのだろう。
「同盟国の援助ですよ。条約で決まったのでね」
気がついたら隣に士官らしき男がぼそっと呟いた。その声に聞き覚えがあったので、反射的に目を上げると、人懐こそうな皺だらけの顔をしたハドソン大尉の顔があった。