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水深800メートルのシューベルト|第123話

 オリビアさんは、僕の返事を待っているのかずっと黙っていた。喋らずにいるのが気まずいのか、握っていた手がプルプルと震えているのが伝わった。こっそり顔を見上げてみると、時折鼻をすすりながら星空をずっと見つめていた。
 しばらくしてようやくオリビアさんと目が合った。
「ねえ、坊やのパパは、ご機嫌が悪かったわね? あなたも、パパに叱られたりするの?」
 僕はどう答えていいかで困ってしまった。この人が、パパやママに言いつけるかもしれないと思うと怖かった。でも、ママと「嘘をつかない」と約束しているので、嘘をつくわけにもいかない。僕は、ママがお仕事を一緒にする人が怒っていても、にこにこと笑っていたことを思いだした。何も言わず、ママの表情を真似してみることにした。

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