水深800メートルのシューベルト|第341話
メイソンは僕からシャツを取り上げた。それを振り回しながら
「これ、俺の車のウイングにつけて走れば、家に着くまでには乾くぜ。お前のズボンと下着も後ろに干せばいいじゃないか?」
と、言い出した。
「アハハ、車の後ろに旗がついているみたいになるぞ。そうだ、シャツにアメリカ国旗の絵を描けば、俺たち愛国者ってことにならねえか?」
バーナードが顎を突き出して笑っていた。
僕は、乾かさなければならないものがまだあることを、背中の冷たさで思い出して、はっとなった。
「そ、そうだ! ピ、ピアノ」
その場にしゃがんで鞄を下ろすと、中から小さなピアノを取り出し、スイッチを入れてみた。
スイッチ横にある電源ランプは、点灯しなかった。