水深800メートルのシューベルト|第10話
僕は、脳の中に巣くう魔物に食い尽くされようとしていた。食われれば意識もきっと失うだろう。そんな事になったらおしまいだ。その前に、あの秘密を、僕だけが知っているあの極秘情報を広めなければ。でも、どうしてあの話をしなければならないんだっけ?
意識を引きずり込もうとする泥に抗ううちに、ぼんやりとしながらも僕は目覚めてきた。少なくとも目は開いていた。僕の周りを囲う一人一人の顔がはっきりと見えてきた。一番近くにいるのは、角型に刈り込んだ白髪交じりの短髪が似合うゲイル軍医。口角を上げて笑顔を作ろうとしているが、目は真剣そのものだ。
幸福だった。体が浮いた僕はパーティーさえも開きたくなってきた。根拠はないが誰とでも――そうあのロバートとでも――友だちになれそうな気がした。僕は早速、ゲイル先生の緊張を解いてやりたくなった。