「いけないわ……」
ママにティッシュを渡されて鼻をかむと、少し離れた階段の脇に、男の人が立っているのが目についた。灰色の皺ひとつないスーツを着て、錆びた手すりを握って地上をこわごわと見下ろしていた。その様子は苛立っているようで、この汚れた建物に何かの間違いで連れてこられたように見えた。
「あら、あの人はコリーニさんよ。紹介するわ」
僕の視線に気づいたママは、男の人を呼び寄せた。その人は手すりをさわったことを後悔したのか、スーツを汚さないように気をつけながら手を払っている。
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