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水深800メートルのシューベルト|第824話

 レジでは十代と思われるそばかすだらけでポニーテールの女の子が、調理場の近くで柱にもたれ物憂げにしていたが、客に気づくとすぐに近づいて来て、棒読みのように告げた。
「ようこそ。こちらのセルフチェックアウト(注:セルフレジの事)をご利用ください」


 ゲイルさんは、不愛想な店員を一瞥すると、手早く古いレジスターの前に立ちはだかっているタッチパネルの機械を操作し、クレジットカードを通した。僕は、そうするのが当然というようにコーヒーや食べ物の入ったトレーを受け取ると、窓から最も遠く、少し照明の当たらない席に座るゲイルさんの真向かいに座った。窓際には二三組の客がいたが、そのじめじめした空気の席の周りには誰も座っていなかった。

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