水深800メートルのシューベルト|第132話
(僕の手を引っ張るもう一本の手は)皺だらけの手だった。僕が、反対方向に引っ張り合う二本の手に困惑していると、オリビアさんがためらいがちに口を開いた。
「あの……、失礼ですが、お父さんがご病気なのに、この坊やが一緒にいることは、大変だと思いますよ。看病ができるような年齢でもありませんし……」
ママはなぜかちょっと嬉しそうな顔をして、反対にパパはいらいらした様子だった。
「そんなこたあ、わかってるんだよ。だから、こいつを俺んちに連れてくるなって話をしているんだ。そもそも、あんた、誰なんだ?」
失礼、と言ってお婆さんは、僕とのいきさつを遠慮がちに――気の弱い人はそうするしかないように――ちらちらとパパの目を窺いながら話していた。