水深800メートルのシューベルト|第740話
「君は自主トレーニングをしていたのかい?」
エウヘニオの分別臭い顔は、急に誇らしげで自信に満ちたそれに変わった。
「ああ。早く一人前の船乗りになりたいんだ。体力もつけて一日も早くこの国に恩返しができるようにな。俺は、国籍を持っていなかったからね」
崇高な気持ちの彼と、奨学金目当てで仕方なく勤務する僕、話が合わなくて申し訳ないような気がした。
「一日も早くだって? プログラムは八週間と決まっているぜ」
それは、一番下の段で寝ているダカーリの声だった。皮肉めいていて、蔑みの感情がこもっているように思えた。エウヘニオの顔が曇り、少しの間口をつぐんでいた。
「もう、寝ようぜ」
僕は、厄介事を避けようと思って言った。