水深800メートルのシューベルト|第1106話
続いてロバートが立ち上がった。無言だったので、どうやら会話禁止の命令は渋々受け入れるつもりだが、移動制限は気に駆けないつもりのようだ。通路に出たところで、僕らは別れた。彼は発令所のある艦の前方へ、僕は後方の詩在庫の方へと歩き出した。
通路は薄暗く、房室から漏れる光は殆どなかった。時折、無言ですれ違う下士官や水兵が、消えた懐中電灯を手で弄んでいるのが目に入った。もっと暗くなったら使うつもりなのだろう。彼らの顔は一様に沈んでいて、目は窪み、生気が抜けたように頬もだらんとしてしまりがなかった。害のないゾンビのようだった。彼らとすれ違う度に死の臭いが漂う気がして不快だった。きっと僕にも同じ臭いが出ているのだろう。実際は潜水艦特有の臭いに過ぎないのに。僕はできるだけ口で呼吸をするようにして、目的の場所を目指した。